代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

長州史観の歴史的瓦解その2 ―『維新の肖像』の紹介

2015年05月30日 | 長州史観から日本を取り戻す
 (承前)
 安倍政権が長州史観を押し付けようとすればするほど、逆に国民は嫌気がさすのか、原田伊織著『明治維新という過ち -日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』がますます売れるという皮肉な結果になっている。街の小さな本屋にまでこの本が平積みになっている光景にはびっくりだ。

 そして、明治維新正統史観の瓦解を後押しするようなすばらしい文学作品も生まれている。

 本年4月に出版された、安部龍太郎『維新の肖像』(潮出版社)はすばらしかった。二本松藩士として戊辰戦争で薩長軍と戦った朝河正澄と、その息子にして、日本軍部の暴走に継承を鳴らし続けた歴史学者・朝河貫一(イェール大学教授)の親子二代の物語である。



 この小説は、江戸公儀を揺さぶるために西郷隆盛が送り込み、江戸市中で強盗・辻斬りなどの無差別テロを繰り広げる「薩摩御用盗(赤報隊の相楽総三など)」に対する庄内藩や二本松藩の戦いから書き起こされる。さんざんに汚い仕事をやらされた赤報隊は、口封じのために薩摩によって処刑されていく。そして著者の筆は孝明天皇暗殺事件にまで及んでいく。

 小説では、これら薩長の汚い手口と、満州事変や上海事変などを起こして大陸を侵略する際に日本軍部が用いた謀略が同じであるという事実をあぶりだしていく。著者はそこまで言わないが、この「手口」は、現在の安倍政権にも共通するものがあるのだ。

 明治維新によって日本が失ったものは何か・・・・これが著者の主要な問いかけである。

 また、単に長薩軍閥のみを問題にしている点でないところも小説の価値を高めている。アメリカで暮らす朝河貫一を描く中で、「日本の脅威」を口実にしながら勢力を伸ばそうとするアメリカの軍産複合体の草創期の姿も描き、さらにイェール大学の秘密結社「スカル・アンド・ボーンズ」(かのジョージ・W・ブッシュJr大統領もメンバーだった)の暗躍も描写する中で、アメリカの闇までも描き出されている。

 安倍首相が否定する「ポツダム宣言」の話題に戻ると、日本の軍部が「日本国民を騙して世界征服の暴挙に出た」というポツダム宣言の認識は間違いがあると私も思う。実際、日本が世界征服をするほどの力がないことは、日本の軍部そのものがいちばんよく認識していたのだから。

 アメリカは日本の実力を過大に宣伝することによって、戦争世論を作り上げたのであるし、対日戦争を利用しながら米国の軍産複合体は利益を得、力をつけ、現在に続く軍事国家体制を作り上げたのである。アメリカにも非はあった。「日本の脅威」を口実に世界征服の暴挙に出たのはアメリカの軍産複合体ではなかったか。
 
 しかしながら、長州史観に染まった自民党・清和会の政治家たちがポツダム宣言を否定するどのような主張を展開したところで国際的に相手にされるわけがない。長州軍閥が用いてきた手口は、アメリカの軍産複合体のそれ以上に汚らしかったからである。

 アメリカを批判したいのであれば、先ずは、私たちがそれに見合うだけの道徳的高潔さと国際平和主義を取り戻さなければならない。それは長州=靖国史観を否定し、自民党・清和会の支配を終わらせ、長州閥の支配の中で失ってしまった本来の日本の姿を取り戻すことなのである。


 

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2 コメント

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Unknown (CAGE大佐)
2015-07-13 11:09:47
>アメリカを批判したいのであれば、先ずは、私たちがそれに見合うだけの道徳的高潔さと国際平和主義を取り戻さなければならない。それは長州=靖国史観を否定し、自民党・清和会の支配を終わらせ、長州閥の支配の中で失ってしまった本来の日本の姿を取り戻すことなのである。

同意です。
特に

>長州閥の支配の中で失ってしまった本来の日本の姿を取り戻すことなのである。

自分も含めて、まだまだことの裏側を知らないし、知っても実感が湧かない。
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読みました。 (りくにす)
2015-07-18 21:37:20
一気に読んでしまいました。
物語の中盤で「武士以外の者の仕業」という言葉がでてきます。すぐに「田布施フリーメーソンだ」といいたくなるところですが、考えを保留します。
勝手に候補をあげると
・公家
・商人、豪農、女性など非戦闘員
・入れ知恵したイギリス人
あたりでしょうか。細かいことにこだわりすぎですね。

日本賛美にのめっている人にはこの本の内容は受け入れがたいでしょう。
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