昨日書いたとおり、“ネタ”と、“芸”もしくは“芸風”との相関あるいは逆相関問題に切り込むには、今年の月河は体温が低すぎるので、上沼恵美子さんの奔放発言でも改めて注目を浴びた“M-1グランプリにおける審査員”に限定して少しだけ考えました。
今年の7人のうちオール巨人さん、博多大吉さん、中川家お兄ちゃん、松本人志さんはバリ現役の漫才の人、上沼恵美子さんは元・漫才。渡辺正行さんはコント師で、金髪豚野・・じゃなくて春風亭小朝師匠は落語家。全員、テレビ・ラジオ番組メインMCとしても活躍歴があります。
こうして眺めると、確かにバランスはとれています。中川家は2001年第一回大会のチャンピオンでもあり、現役活躍年代的にも1970年代~2000年代まで広くカバーしている。
ただ、並んだ絵ヅラを見ていると、どうも息苦しいというか、饐えたような臭いがきつい気がするのです。“お笑い村”の“長老”あるいは“庄屋さん”“庄屋の番頭さん”の集まりみたいじゃないですか。“お笑い汁”がしみ込み過ぎて、洗って干しても落ちないくらい色が変わっちゃった集団です。客席は満員で、相応の盛り上がりや爆発も見せているのですが、審査員席だけなんだか空気が薄茶色いんです。上沼さんの顔がいくら白塗りでも埋め合わせつかないくらい煮しまっている。
もちろん、漫才の技量、漫才のネタとしての質を競い、優劣つける番組ですから、みずからが演者としても、演者を仕切る司会者としても、演者を育成する師匠としても経験があり、「優れた漫才とはどういう漫才か」「どういう漫才がダメな漫才か」「漫才のネタとは」「漫才師とは」「ボケとは」「ツッコミとは」・・等々についてしっかりしたヴィジョンを持っている人でなければ、審査をする資格はありません。観客と一緒になって笑ったりしらけたりブーいったりして終わり、次のネタが始まる頃には前のを忘れてるような、ヘタしたら笑うタイミングすら二拍遅れになる様などシロウトでは困るわけです。
しかし、これだけ“笑い汁臭さ”に浸かっている審査員席ってのもどうなんでしょう。司会の今田耕司さんはなるべくバランスよく、全員のコメントをかわるがわる取ろうとはしているのですが、誰が何を言っても、いちいちどよよーんと意味を持ちすぎる。
そこでどうでしょう、まるっきりお笑いのシロウトではないけれども“お笑い専業”ではない、MC専業、それもお笑い番組ではなく報道や情報メインのキャスターやインタヴュアーを審査員の一郭に入れてみては。ちょっと具体的に固有名詞浮かばなくてすみません。・・昨日のスパークリングワインが残ってるかな。290mlぐらいで翌日に持ち越す様なタマじゃなかったんだが。それはどうでもいいのですが、こういう職種の人は、ネタや芸人トークオンリーで仕切ったことはあまりなくても、“ゲスト(たいてい複数)に言いたい事、得意な事を言わせて、番組的に面白くなる方向に引っ張っていって、時間内に着地させる”プロです。ボケがどう、ツッコミがどう、ツカミがどうだこうだという視点とはまったく別の、“番組を構成するコンテンツ”としてネタを見聞きし、芸人を評価してくれるのではないかと思う。
なんかね、昨日の顔ぶれだと、決勝進出するくらいの組はみんな若手の域を超えていて、上下関係、いままでのM-1歴を含めて先輩後輩の序列もきっちり出来上がっているし、審査員の皆さんが“(いま演ったネタ以外の部分も)知り過ぎている”“コイツらの芸の底の深浅なんかとっくにお見通しさ”という閉塞感、ムラ内完結感がどうにも拭えないんですよ。“お笑い村”の中に生業を持っていない、お笑いで衣食していない人の感覚を入れてほしいのです。
それも視聴者審査員のような、贔屓の芸人にだけネタがカスでもキャーキャー言う“ファン”ではなくて、たとえば本日のゲストインタヴュー相手が個人的に嫌いなタイプの人物や、情報のないポッと出のアイドルや、語彙が少なく口の重いアスリートであっても“喋らせて面白い面を引き出す”という姿勢で向かい合うのが仕事の人なら、同じネタ、同じギャグ、同じキャラでもお笑い村の長老たちとは違う感想を持ち、優劣をつけてくれるのではないでしょうか。
そうねえ、徳光和夫さんや辛坊治郎さんじゃ本人がお笑い寄り過ぎるし、宮根誠司さんじゃ出場芸人が「隠し子ネタを演りにくい」と嫌がりそうだし、安住紳一郎さんじゃ「なんでアンタなんだ、たけし師匠連れてこい」と怒られそう。
個人的には、局の垣根が高いでしょうが、NHKの武田真一さんか高瀬耕造さんに審査員やってほしいんですよね。垣根がスカイツリー級か。大爆笑してるところを月河が見たいだけだったりしますが。
・・・・・・それから、誰に審査員オファーするにしても、放送演出上の問題をひとつ指摘しておきます。ネタ見せの最中に、審査員の顔をひとり映りで抜くのはやめたほうがいいと思う。笑いが起きた瞬間に、風景として客席を抜くのと違って、何度も言うけど、意味を持ちすぎる。「あ、いまのとこ引っかかったな」「いまのは鼻で笑う笑い方だったな」等と脳裏をよぎって、ネタに集中できません。松本人志さんみたいに、ときどき、演じ中のネタよりこの人の顔のほうがおもしろいなと思う顔をする審査員もいるし。
大物、ベテラン、制作陣に貢献度大の顔ぶれがずらっと並んでいるから、ディレクターさんもカメラさんも気遣いたくなるのはわかるけど、ネタ中はネタに集中しましょうよ。ネタが終わってから、ゆっくり映してしゃべっていただきましょう。さっき書いた審査員メンツチョイスの件も含めて、もっと風通しのいい番組でお願いします。