“瑤泉院”、よう“ぜん”いん、と濁るらしいです。
途中で脱落するだろうと思っていたら、家族が意外に食いついているので、結局なんだかんだで付き合ってしまいましたテレビ東京新春ワイド時代劇『忠臣蔵 瑤泉院の陰謀』。討ち入りは12月だし正月2日に忠臣蔵なんて、テレ東らしいズレ方だよねえとタカをくくっていたのですが、定番中の定番のお話の隔靴掻痒なところ、腑に落ちないところにピンポイントで焦点を合わせた、なかなか吸引力のある脚本で、思いがけず楽しめました。
稲森いずみさんの瑤泉院は、ラスボスというより定点観測のカメラのような役どころなので別格として、“この役のキャスティング失敗したら忠臣蔵は台無し”四役、浅野内匠頭長矩-高嶋政伸、大石内蔵助-北大路欣也、柳沢吉保-高橋英樹、吉良上野介-江守徹がみんな良かった。特に北大路さんの内蔵助は、さわやかなチョイエロオヤジという感じで、北大路さんが若い頃得意としていた若武者の面影も覗かせ、近年見た内蔵助の中でいちばん好感度が高かった。いかにも器の小さい、心身ともに頼りない殿様を演じた高嶋さんのキレ演技は、現代の心を病む会社人間にも通じてリアルだったし、定番忠臣蔵の中では“腹黒担当”な柳沢は、かつては正義の役専門だった高橋さんが演じたことで別の奥行きが出たと思います。ただ、江守さん、内蔵助の妻りく-松坂慶子さんもそうですが、いかにも太り過ぎで、セリフの演技力とは別に立ち居の重苦しさが減点。時代劇のいちばん似合うベテラン俳優さんたち、男女ともに高齢化してきていますから、ご自身の健康、役者生命のためにも肥満は厳に戒めていただきたいものです。
5代将軍徳川綱吉-津川雅彦さんなどはほとんど志村けんを意識してる?ぐらいの白めメイク、地顔に輪をかけて下向きに描いた眉で、とことんバカ殿役を楽しんで演じてる感じ。「ここはもっとこうしたほうがバカに見えるんじゃないか?」と監督に意見とか出してそう。江守徹さんも、昔NHK大河で内蔵助も演じてただけに、小心なくせに因業なタヌキじじいを楽しんでおられたようです。瑤泉院の父浅野長照-あおい輝彦さんは、いまだに童顔で老けメイクが似合わないことおびただしいんですが、娘可愛さと世間体と武士の大義と、全部うまいこと帳尻合わせようとして、結局は娘が優先する善意のご都合主義にうまいことはまっていました。
四十七士勢では堀部安兵衛-山田純大と弥兵衛-寺田農の岳父&婿が楽しかった。山田さんは“誰かの孝行息子”ポジションが本当におさまり良いです。寺田さんは最近現代ものでも、老けめ、老けめの役をあえて選んで演ってるのか?と思うんですが、“イタくない年寄りの冷や水”がどんどん似合うようになってきてます。
月河のおなじみ路線では、内匠頭の弟・浅野大学長広-井澤健(『偽りの花園』)、磯貝十郎左衛門-高杉瑞穂(『美しい罠』)の昼ドラ若手勢は、まあ出番そこそこあったかな、映ったかな程度。神崎与五郎-岡本光太郎(『永遠の君へ』)は…どこにいたかわからなかった(懼)。特撮ベテラン勢では6代将軍徳川家宣-磯部勉さんはお風呂の用意をしている間に出番が終わってしまいましたが、高田郡兵衛-春田純一さんは醸し出す息詰まり感、悲愴感がさすがで、いま人気のイケメンヒーローくんたちも、将来はこういう演技の出来る役者になってほしいなと思いました。清水一学-倉田てつをさんは役柄的にもう少し見せ場あるかと思いきや、山田純大さんに殺陣の美味しいところあらかた取られて終了。
家じゅう満場一致でブーイングの嵐になったのは荻生徂徠-五木ひろしぐらいです。『新春かくし芸大会』よりひどかった。かりにも儒学者ですぜ。林大学頭-栗塚旭さんと対決だよ。ご本人も見たらTV消すと思うね。どうせ主題歌での義理出演なんだろうし、もうちょっと合う役がなかったもんでしょうか。畳屋とか大工とか。町人顔なんだもの。監督の嫌がらせかな。
今作の目玉とも言える、瑤泉院を中心にした女性チームもまあまあだったんですが、稲森さんはやっぱり意志的な阿久利=瑤泉院より、二役で演じた妹の遊女・一学のふんわりしたたたずまいのほうが持ち味に合ってたように思います。それにしても正月早々、松金よね子さん(侍女滝岡)で泣かされるとは思わなかった。
ところで北大路欣也さんは市川右太衛門さん、高嶋政伸さんは高嶋忠夫さんの誰もが知る二世俳優ですが、この作品、ほかにも大石家足軽瀬尾孫左衛門-緒形幹太(緒形拳)、片岡源五右衛門-山下規介(脚本ジェームス三木)の二世が。津川雅彦さんも、あんまり近親に有名人多すぎて見失いがちだけど、よく考えてみれば父・沢村国太郎さんで、元祖的二世・三世俳優です。
それだけではなかった。柳沢家側用人小林平八郎-田宮英晃(田宮二郎。キャスターなどもつとめた柴田光太郎は実兄)、上野介の孫で吉良家当主義周-橋爪遼(橋爪功)も二世。山下-ジェームスのラインを筆頭にここまで来ると、結構コネ、しがらみ臭も濃厚にニオってきますが(橋爪功さんも上野介を演じたことがありましたね)、もうそれくらいでないと、大人数の出演者を集める必要のある群像型時代劇は作れないのかもしれません。
新春ワイド時代劇、毎年「何かやってるんだよな」と気には留めてるんですが“とにかく長過ぎて、ものすごく飛ばし飛ばしのながら見しかできない=見せ場を見逃すに決まっている”という先入観があったので、本気で観たことがなかったんです。今作もかなり飛ばしはしましたが、脚本に芯がとおっているので、飛ばしてもまた戻って入って行くことができました。1時間枠のドラマでも、そうそう子供の頃のようにTVの前に釘付けでいられるわけではないし、1回で終わらない連続ものとなるとさらに難関。ドラマを観るときには、どうしても“一気に見せて放送時間を短く感じさせる”とか“隙のない完成度”を高く評価しがちですが、“ゆるめのピッチで途中下車も再乗車も可能”という大づかみな作り方もアリなんだな、と思いました。全体に、「“傑作”“秀作”を目指すんじゃなく、お客さんに楽しんでもらえるものを作ろう」という姿勢が一貫しているのが良かったと思います。
昔の俳優?
五木ひろし、そんなに悪くなったけど!!
栗塚旭さんは1960年代後半~70年代に活躍された時代劇俳優さんで、特に“土方歳三”を当たり役とされています。月河の年代では、他の俳優さんがなんぼ頑張っても栗塚さん以外の土方はかなり、今でも抵抗があるほど。五木ひろしさん、舞台では座長芝居も数多くこなされていますし演技力はさほど見劣らないんですが如何せんイメージがねえ…いや、あんまイメージでものを言ってはいかんですな。