『相棒season 9』第3回(実質第2話)“最後のアトリエ”(10日放送)、冒頭、銀座の目抜き通りをとぼとぼ歩き高級紳士服店に入るくたびれた風采の老人。お若い頃から独特の画風で画家としてもご活躍の米倉斉加年さんが、“夭折の伝説的天才画家の、ただひとりの友人”という役でのゲスト出演でしたから、「“有吉比登治”は、実は米倉さん扮する(対照的な=凡庸で平坦な人生で晩年になった)無名の画塾講師・榊の、ひとり二役だった!」というオチかなと思ったら、そうではなかった。
パトリシア・ハイスミスの作品の中でも、月河が一、二を争うくらい好きな『贋作』(原題Ripley under ground)に似そうで似ない、劇中何度か「おっ!」と思わせるくらい近づいては、また遠ざかる、惑星のような味わいのエピソードでした。
若干一本調子でさしたる意外性もなく解決してしまいましたが、この平均ペースっぷりの中だからこそ仕込まれた皮肉も効いた。昨年のseason 8から脚本参加の太田愛さん、『ミス・グリーンの秘密』に続く高齢者もの…というより“人生の晩鐘もの”の佳作と言っていいと思います。“年を経た秘密もの”として『願い』とも通底するところがある。
結局、どんなに芸術的に美的に優れていても、一枚の“絵画”単体では、専門家の専門的評価はともかく、多くの一般大衆の関心を惹き魅了することはできない。人は、絵画が背後に背負った、作者なり作者の家族なり、友人恋人なりの、なまなましく温かくどろどろした“人間”の物語にこそ心ときめくのです。
今般の俳優水嶋ヒロさんの、賞金2000万円小説大賞騒動(騒動ってこたぁないか)なども連想してしまった。「どんな名前でどういう形で出そうが、とにかく読みさえすれば、鑑賞さえすれば、誰にでも価値(or無価値)がわかるよ」とは言い切れないから、“作品”ちゅうものは厄介です。
『美しい罠』のピュア青年、『仮面ライダーディケイド』では龍騎=シンジだった水谷百輔さんが驚くほど夭折の天才にはまっていて驚きました。回顧展のポスター、伝記ノベライズ本の表紙で、こんなにでかでかと顔アップに描いてもらえてラッキーでしたね。んでまた、でかでかに耐えるお顔立ちを持っておられるのがラッキー。「戦後間もなく22歳で病没した」世代にしては、回想シーンの眉が細く整い過ぎのような気もしましたが。
それより何より録画再生してびっくり、というより大ウケだったのは、劇中の小説有吉比登治伝『筆折れ、命果つるまで』の著者が“北之口秀一”。season 5『ツキナシ』のナルシスト作家(川崎麻世さん)です。冤罪の殺人容疑にマスコミの前で義憤パフォーマンスしてましたが、実は札つきの人妻盗撮常習犯。罪状の軽重より社会的体面がカッコ悪過ぎて、作家生命断たれたかと思いましたが、あれから4年、しぶとく生き残っていましたな。たまきさん(益戸育江さん)は初版本を買うほどの北之口ファンでもあったはずですが、右京さん(水谷豊さん)ともどもその件ノータッチ。
世間の風は冷たいね。過去恥ネタすら月日が過ぎると話題にしてもらえないという。頑張れ水嶋ヒロ。こんな流れで応援されたくないか。
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