久しぶりに戦争を跨がない昭和ものということで『ひよっこ』、早くも”昭和39年あるある””あったあった”で盛り上がってますね。いま日本でいちばん人口シェアの大きい団塊世代が、多感で好奇心旺盛な思春期を過ごしていた時期ですからそりゃもう小道具のひとつひとつ、劇中人物が口ずさむ歌の一節一節まで、引っかかって「いまのはねー・・」と語り出したら果てしがないという。
たぶんドラマの背景・時代設定としては現時点で最強のハズレのなさでしょうな。なんたって、愛されてます。白黒テレビや手押し式スイッチの炊飯器や小麦粉から炒めて作る真っ黄色いカレーが懐かしいだけじゃなく、あの頃の自分、いまなら当たり前以下でしかないすべてのものが目新しく、有り難くてしょうがなかったピュアでイノセントな自分が愛おしい。みね子(有村架純さん)の笑顔や涙を通して、イージーでエゴくて人工的な時代に毒された自分を洗い流している様な気分になります。
ヒロインが”東京五輪を高校最後の年に見る”という点がドラマ上重要です。
放送時制で昭和39年の秋にいるみね子は、翌昭和40年3月高校卒業見込みですから、ドラマが始まる前の時制で病気休学でもしていない限り昭和21年4月2日から22年4月1日までの間に生まれているはず。もちろんド戦後生まれですが、のちに広く称される所謂”団塊の世代”とは微妙に違います。
日本で言う団塊世代とは、アメリカで言う”ベビーブーマー”とはちょっと色合いが違い、昭和20年8月15日の終戦後、同10月頃から始まった復員ラッシュで、いままで軍にかり出されていた成人男性たちが、女性たちの待つ本土に大量に戻ってきたことでもたらされた子供たちの事を言います。ですから誕生日で言えば早くて21年8月頃。もう少し後の、22年~23年生まれが、いつでも国勢調査で人口ピラミッドのピークを成します。
みね子の誕生日は現時点では劇中で明かされていませんが、もし21年7月までの生まれならはっきり統計上も、意味合い的にも”団塊”からは外れています。お父ちゃんの実さん(セクスィー農業沢村一樹さん)は農家の長男で家長ゆえに召集を免れた可能性もあるので、みね子は玉音放送が流れる前、ひょっとすると、20年6月の静岡に続いて7月には千葉が仙台が宇都宮が・・と本土都市部の空襲が続いていた戦争末期に身籠られた子かもしれません。少なくとも、みね子と同じく昭和40年春の卒業を待つ学年の仲間にはそういう、”純粋な戦後”生まれではなく”たまたま戦後になった”生まれの子が、多くはないが居たはずです。
そもそも”団塊世代”という表現は1970年代も後半に、堺屋太一さんのベストセラーにもなった著書のタイトルで使われてから定着したものであって、昭和39年時点ではそんな言葉も概念もありませんでした。
月河の実家両親とそのきょうだい(伯叔父母)たちは、生まれた年代が大正終わりから昭和一桁世代に集中していますが、彼らはよく所謂”戦後のドサクサ”の中でタネを仕込まれ、あっちこっちでドサクサドサクサと生まれまくった子たちのことを”終戦っ子”と呼んでいました。
彼らに言わせれば、昭和21年の、特に前半生まれは”戦後生まれ”ではあり、歌のタイトルにもなった”戦争を知らない子供たち”ではあっても、”終戦っ子”ではないのですな。団塊が生まれ終わったずっと後に生まれた月河なんかから見ると、なーんだかゲスい話ではありますが、戦前戦中をも知ると自負している彼らにとっては、玉音放送を聞く前にお腹の中に居た子か、聞いてからホッとして(しなくてもいいが)やおら仕込んだ子かの違いは、ひそかに重要らしいのです。
みね子と同じく昭和39年の秋に高校3年生として東京五輪の喧騒に接し、翌40年春に卒業を迎えた皆さんの中には”戦争末期仕込み”と”終戦ホヤホヤ仕込み”の2つのカテゴリが存在する。後者の後半グループ、特に昭和22年の早生まれ組は微妙に”団塊”に半身突っ込んでいますが、みね子学年は社会に出ても、自分たちの”一期二期下”でたいへんな人間洪水が起きるのを一段”陸(おか)”で眺めるようなところがあったのではないかと思います。まだ人数の圧力で扉が開かれていない、道がついていないだけに、パイオニア・先兵としての苦労もあれば、逆に自由で高揚感も大きかったかもしれません。
『ひよっこ』も、ドンズバ団塊世代の青春譜というより、東京五輪をひとつの契機にふくらんでいく時代の”先触れ役”としてみね子たちを見たほうがいいのかもしれない。大きな流れに巻き込まれたり押し流されたり、逆にラクして乗っかったりするのではなく、流れの先陣にいて、あらゆる風景を真っ先に見て、感じて、反応していく、そういう物語になって欲しいと思います。
ところで、そんなことを考えていたらふと思い出しました。日本はその後めでたく再び戦争を経験することはなくここまで来ていますが、西暦1989年に”昭和”から”平成”に元号が変わるという、これはこれで大きな節目イベントがありました。
なので、同じ一つの学年に”昭和63年(4月2日~12月31日)生まれ”と”昭和64年(1月1日~7日)生まれ”と”平成元年(1月8日~4月1日)生まれ”の3カテゴリが共在したわけです。2007年=平成9年3月に高校を卒業した皆さん。今年から来年にかけてそれぞれのお誕生日を迎えて満29歳になりますね。有名人芸能人にも数多いと思いますが、変り目、節目の生まれってどんな時代にもあるものです。
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