当選すればその年に73歳になるジョン・マケインさんがアメリカ大統領選共和党候補となっていることについて先日、どうしちゃったの若さ賛美だったはずのUSA?とここで書いたのですが、党大会の映像など何度か見るとからくり、と言うか意味するところがわかるような気がします。
1936年生まれで5年にわたるベトナム捕虜経験を持つこの人は、“戦争耐性に富む”ことをもって61年生まれの民主党バラク・オバマさんに対抗しようとしているのだと思う。
演説や公式ステートメントでそうは言わないが、「世界には、好むと好まざるとを問わず、それが正しいか正しくないか以前に、“戦争”はある、存在するのが普通の状態だ」という大前提で、この人は立候補し演壇に立っているように見える。
“この国の大統領選毎度のワーワー、ウォーウォー旗振り政治ショー式党大会もいつ見ても違和感がある”とも同じ記事内で書きましたが、「世界に戦争はつきものだ」「政治とは戦争をコントロールすることだ」という前提がある国と、ない国では、政治の下地の段階で空気感が違うのは自明でした。
世界に戦争がつきものなら、巻き込まれて被害者になるより、みずから仕掛けて戦利を得るほうがはるかに得策であり、政治としてサクセスフルだ、という考え方も当然ある。捕虜拷問時の負傷の後遺症でアクションがぎこちないマケインさんの、損傷部分をパテで固めたような、“盛り土”をしたような体型や顔貌は、“戦争被害者”ではなく“苦戦でも敗退しない闘士”のアイコンとして、党大会の演壇でライトを浴びているのです。
浅黒く柔軟そうな体躯、エキゾチックな容貌で“若く廉直な切れ者”をもって鳴るオバマさんが、戦争はあるべきではないと教えられて育った世代の代表なら、マケインさんは「べきではなくても、予めあるのが世界であり政治というものだ」を譲らない、冷戦時代以来の“アメリカの政治家らしい政治家”世代代表。
月河はかねてから「病気は医者(or病院、薬)では治らない」「治るのは本人の生命力、反発回復力、免疫力」「医者その他は援助するだけ」と考えていますが、同じように「国も政治家では良くならない」と最近つくづく思うのです。TVの街頭アンケートで、“いかにも一般ピープル”らしい風情のおばさんやフリーターの半笑い顔でよくオンエアされる「誰が(総理に)なっても同じ」という言辞とはちょっと含むところは違います。
国がいまよりましになるか、ひどくなるかは畢竟、国民自身にどれだけ矜持があり、自分及び自分以外の近しい人たち、自分の日々やっていることを尊く大切に思う気持ちがあるかにかかっていて、政治家はせいぜい“そこに極力、冷水を浴びせないようにする”ぐらいの影響力しか持ち得ない。
しかし、たとえばマケインさんの、星条旗の下の満身創痍から立ち直った“修理後”のような容姿や話し方を見ていると、「政治家で良くなる(あるいは悪くなる)国」というのが、日本ではないところには確実に存在するのだな、との感を新たにします。
あるいは、「国民が“政治家で国が変わる”を信じ謳い上げられる国」と言うべきなのでしょうか。戦争と言えば、みずからコントロールし得るものではなく、“巻き込まれ脅かされて惨たらしい目に遭う”もの、というイメージしか抱けない此岸の国民としては、対岸の政治ショーをどう見守り評価すべきなのでしょうか。
再放送の『その灯は消さない』は第44話。ウソ妊娠で揺さぶるも不発に終わった桂子(麻生真宮子さん)からの自宅への嫌がらせ電話砲で、智子(坂口良子さん)に浮気がバレちゃった藤夫(柴俊夫さん)の「…どーしたんだ?ぼんやりして?」としらじらしく探り入れる目つきがよかったですね。こういう、昭和滑稽風味のベタさって、ステレオタイプな場面だからこそ役者さんの腕の見せどころという感じ。
風俗嬢晴美(有沢妃呂子さん)に夢中の健一くん(芦田昌太郎さん)に「彼女と付き合うことは認めてもいい」とサプライズを放ち、「但し受験はちゃんとしろ、その娘だって、自分のためにおまえが進学をあきらめたと知ったら困るだろう」「その娘のためにもそうすべきじゃないのか」とアメムチで諭す姿も、桂子からの度重なる電話攻撃に「お父さんだってヘンなオンナから電話かかってくるじゃん」と健一くんに弱み握られた後だけに、かえって説得力がありました。やっぱり思春期男子のお父さんは、清廉潔白一本槍よりも“黒焦げにならない程度の火遊び経験”はあったほうがいいなあ。
晴美役の有沢さんは、一時期の三原じゅん子さんを丸くしたような、(ほぼ死語だけど)“おヘチャ”系の可愛い子ちゃんで、お水どっぷりの生活ながらほのかに土の匂い家庭的な匂いも漂わせる辺り、『白と黒』第一部の華だったサリナちゃん(桂亜沙美さん)を思い出させます。賤業の泥の中に咲いた一輪の白い花、“心だけはお嬢さまより清らか”“オレだけの天使”という幻想は、やはり作家なら一度は書いてみたいキャラジャンルのひとつですよね。
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