イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

さようならミセス・ジェット

2013-03-31 16:11:52 | 再放送ドラマ

 世の中コトブキ報もあれば悲報もあるもので。坂口良子さんの訃報をいきなり午前中のNHKラジオ第一のニュースで聞くとは。

 デビューのきっかけになった1971年(昭和46年)の集英社の週刊セブンティーンと言えば、高校生や短大生のお姉さんたちが読んでいるイメージだったので、坂口さんも失礼ながらだいぶお年上と思っていたら、改めて訃報記事の横のカッコ書きを見たら、幾つも違わない、月河とほとんど同世代だったことがわかりました。本当に早過ぎるさよならです。

 同世代のモテモテ可愛い子ちゃん女優さんとくれば、同性のルサンチマン含みの視線でもっと熟視していてもよさそうな気がしますが、不思議と訃報を聞くまで関心の枠内にいたことがない、月河としては言わば“放置してきた”人なんです。

微妙に年上感がある、というより“同世代感がない”のは、坂口さんが可愛さ振りまく盛りの頃のドラマ代表作を、当方がほとんどまったく見ていないからという原因もあります。『サインはV』の実写ドラマ化も、昭和44年の岡田可愛さん、中山麻理さん&范文雀さん版は同世代間で結構話題になり、休み時間のモノマネネタにもなりましたが、坂口さん主演にかわった『新・サインはV』の昭和48年頃には熱が醒めていて、嵌まって観ている子はクラスにもほとんどいませんでした。小学校高学年から中学生になるかならないかの年代は本当に興味の勾配がはやく、夢中になっていても半年かそこらで次の対象に移ってしまうのです。

そこへ持ってきて、(このブログのリピーターのかたならおおかた周知のように)月河はドラマの中でも学園甘酸っぱ青春もの、にぎやか家族ワイワイものがどえらく苦手で、ラテ番組表でそういう臭いのする枠はまたいで通り過ぎるようにしていたという、勝手な嗜好の問題もあります。

ラジオやネットの訃報では『アイちゃんが行く』をデビュー作として言及、続いて『前略おふくろ様』『たんぽぽ』『池中玄太80キロ』を代表作に挙げている媒体が多かったように思いますが、月河はこれらぜんぶ、タイトルだけがギリ記憶にある程度。『前略~』は実家母がわりと見ていましたが、ショーケンと田中絹代さんと、あと桃井かおりさんと川谷拓三さん、ショーケンの職場である料亭の女主人として八千草薫さんと、その娘役で木之内みどりさんも出ていたかな、という感じ。本当に失礼ながら坂口さんがどんな役でどれくらい出番があったのかまったく印象がない。

近い年代の、雑誌モデル出身やオーディション抜擢組の歌手アイドル、たとえば麻丘めぐみさんや浅田美代子さん、ちょっと上の小林麻美さん等に比べると、女優がメインの坂口さんは当時の『明星』や『平凡』といったヤング(←死語)向け芸能グラフ誌で割かれるページ数が少なかったり、載っていても巻頭カラーの華やかなパートでなく、後ろの方の、活字の多いじっくりしたページだったりもしました。

思うに、前出の『前略~』等の“代表作”にしても、坂口さんが出演していなければ成立しなかったような作品ではないのでしょう。広く当時の視聴者に好感を持たれたドラマの、ほどほどの位置に坂口さんは居て、ほどほどだからこそ坂口さんの好感もアップしたというところではないでしょうか。愛くるしさ、隣のお姉さん的な親しみやすさ、失礼ついでに言わせてもらえば田舎っぽいオボコい感じなど、一時期の沢口靖子さんと共通するものがあるように思います。どんな年代の男性でも「好きだな」「かわいいね」「タイプだ」と人に言うとき躊躇や後ろめたさが伴わない。ミス・セブンティーンに行っていなければ、早晩NHK朝ドラヒロインに合格していたような気もしますが、そっち方向にならなかったのはご本人の志向性もあるにせよ、敢えて言えばもうひとつの持ち味“肉体性”でしょうね。朝ドラワールドが譲らない“健康的”の範疇から少ーしハミ出すんですよ。ヒップとかフトモモとか。オンナなんですな。

キャリアを積んでも、可愛らしさや親しみやすさのほうが前に来て、演技力上等!!という感じにならなかったのもいまの沢口さんと似ていますが、あぁこの人女優さんなんだ、芝居できるんだ、と月河が初めて思ったのが1976年(昭和51年)の『グッドバイ・ママ』でした。

ジャニス・イアンのエンディングテーマの胸打つ歌声に引かれてなんとなく継続視聴、お話は悲しいながらもごくごく夢々しいものでしたが、不治の病で迫り来る余命の中、幼い愛娘の父親になってくれる男を探して奔走する若すぎるシングルマザーの役、いま思い返せば坂口さん、放送当時は20歳だったのですね。雑誌モデルあがりで演技キャリアせいぜい45年の20歳で、市川森一さん脚本のあの詩的でホロにが含みの世界を嫌味なく演じられる女優さんがいま居るか??ということになったら、坂口さんに「演技派タイプではなかった」なんて評価は失礼千万でしょうな。

その後ウン十年を経て、月河が女優・坂口さんをいちばんたっぷり見たのは、再放送の昼帯ドラマ『その灯は消さない』と『風の行方』。前者の本放送時は坂口さん40歳、後者では44歳で、ともに子持ち家庭持ちの共働きキャリアウーマン役でした。奇しくもこの少し前に実生活では結婚生活が破綻され、負債を抱えて非常に苦しい状況だったはず。考えようによっては禍転じて福となすで、女優さんも男性主人公の脇で、カスミを食ってニコニコしていればオッケーだった時代から、実社会で働く地に足ついた女性らしく見せなければ役が回ってこなくなった時代を、坂口さんは生身のリスクを冒して、それこそ痛みに耐えて乗り切って見せてくれたわけです。

最近はドラマより、芸能人ゲストトーク番組で、タレントデビューした娘さんの“付き添い”みたいな雰囲気でにこやかに座っている姿の方が多かったような気がする坂口さん。続報によると2年前には重病発覚、通院治療をかさねておられたそうで、あるいは残された時間を悟り、「私があちらに行っても、娘を可愛がって引き立ててやってくださいね」と『グッドバイ・ママ』の心境でカメラに向かっておられたのかもしれません。

何であれ一所に懸命な人の姿は胸を打ちます。この記事を書くために幾つか調べてみたら、デビュー直後は当時のアイドルの例にもれず、女優人気の客を拾うようなシングルレコードも何枚かリリースしておられますが、音楽のほうで稼ぐ山っ気はまったくなかったようで、80年代に写真集2冊出した以外は“演じる”仕事ひと筋でした。見た目のイメージ以上に“女優魂(だましい)”の人だったのです。

初婚の負債から解放され、お子さんたちも自立の時期を迎え、つらい時期を支えてくれた長年の恋人と入籍されて名実ともに第二の人生を、健康で元気で歩まれていたら、演技者としてさらなる新境地もあったでしょうに。

ご冥福をお祈りするとともに、『グッドバイ・ママ』の再放送はないかな。

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