世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

舞との2年間と、まだ見ぬ春音・・・

2007年10月25日 23時17分53秒 | Weblog
俺には2年間付き合っている女がいる。
名前は舞。
舞の一重瞼は、控え目でおとなしい彼女の性格そのものを一層強く表している。
そんな彼女との2年間は淡々と過ぎた。

そろそろ、互いに互いを飽きてきたのかもしれない。
街を歩きながら、ふと彼女を横目で見ると、彼女の視線はどこか遠くに向けられていることが多くなった。
舞に言わせれば、俺もきっとそうなんだろう。
舞が決して穿こうとしないミニスカート。
その裾から剥き出しにされた他の女の太股に、俺は目を奪われていることがある。

それでも俺たちは、互いの存在を無意識の根底に消すことは出来ずに、2年という時間は俺たちの間を流れていったのだ。
これからもそんな静かな生活を過ごすのだろう。俺の隣には当然の如く舞がいる…そんな生活。

明日から舞は、両親と旅行に出る。
なんでもその旅行は、舞から両親へのプレゼントらしい。
少ない給料をコツコツと貯めて、両親に旅行をプレゼントをする…舞はそういう行為がよく似合う女だ。

舞が旅行に出たその日の夜。
久々の解放感から、俺は友人に繁華街で飲むことを提案した。
愚痴を言い合う内に、酒が進み…暗黙の了解という名目が俺たちを支配した。

風俗という場所には行ったことがある。
しかし、舞と付き合い始めてからは、一度も行きたいとは思わなかった。
悲しげに、そして更に薄くなるであろう舞の瞼を俺は見たくなかったのだ。

俺は舞を愛している…。
なのに、俺は今、ネオンに彩られた「シオン」という店の前に立っている。

どこからか、舞の一重瞼が俺を見つめている。
その睫が涙で濡れている…そう直感的に思った瞬間、俺は店内に入った。
友人も俺に続いた。

「いらっしゃいませ」
暗い店内に男が立っている。
蝶ネクタイが似合わない貧相な体をした男だ。

女を指名するように男に促された。
高揚感と舞への罪悪感が入り混じった俺に、男はそっと囁く。

「この子なんていかがですか?当店ナンバー1ですよ」

春音。

リストには春音という名前とプロフィールが記載されていた。
写真は無いから顔はわからない。

俺は男に言われるがまま、春音という子を指名した。
いや、指名ではなく、男の言葉を復唱したに過ぎない。

「春音」


「こちらへどうぞ」
違う男が俺を迎えにきた。

舞への罪悪感は、春音という女が待っている部屋に近付くにつれ、薄れていった。
むしろ、この2年間の淡白な暮しから一瞬でも逃れられるという興奮と不思議な安堵感が俺の心身に芽生えていった。

春音

君は一体どんな子なのか?

春音
春音…

俺はドアの前で、まだ抱いたことの無い女の名前をもう一度口にした。




…ってそんな妄想をしてしまう出来事があった。
本日は心療内科デー。
最近の寝付きの悪さといったら、んもぅ…。
考え事をしていると眠れない。
あんなこと。
こんなこと。
余計に睡眠が怖くなり、妙に「寝ること」に拘ってしまう。
身体は疲れているのに、精神が昂ぶって眠れない苦痛は、不眠症の人ではないと絶対に分からない。
辛いのは翌日で、仕事中に意識が朦朧となる。

入眠困難ということで、2年間、愛着を持って飲んでいた舞こと、「マイスリー」と別離することになった。
新しく夜のお供になるのは春音こと、「ハルシオン(0.125mg×2)」。
睡眠導入剤の王道であるハルシオン。
俗称「春紫苑」

綺麗な名前だが、実際、どうなんだろう。

それにしても、2年間、私を支えてくれたマイスリーとの別離はとても悲しい。
「♪春なのにぃ~、お別れですか~」
ってな具合。
マイスリーの梱包は、星印の絵柄が入っている。
(こんな具合→★★★)
私にはずっと、それが希望の星の象徴だったわけで。

だから、クマ医師に
「マイスリーを辞めて、ハルシオンにしましょう」
と言われたとき、素直に頷けなかった。

でも、ここで駄々をこねたら、クマ医師は困ってしまうだろう。
彼だって、仕事で私にハルシオンを処方しようとしているんだし。

そんなこんなで、今宵から新しい彼女と夜を過ごすことになった。
脱がしてみると、紫の色彩をした肌がけっこう淫靡である。
強烈に私を誘ってくる。

ますは試してみっか。
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