春音はなかなか良い女だった。
金糸をあしらった下着からは、ほっそりとした手足が伸びている。
それらはブラックライトで照らされてやや紫色を帯びている。
舞とは対照的な二重瞼を持ち、派手なアイメイクが施されていた。
ドアを閉め、極彩色を敷き詰めたような室内に入り、俺はベッドに横たわる春音に近づいた。
「春音…さん」
俺は初めて見るその女に見惚れてしまい、ようやく彼女の名前だけを口にすることができた。しかも、何故か敬称で。
「嫌ね。春音で良いわよ」
そう言いながら、彼女は口角に不思議な溝を作った。
アイメイクで縁取られた目はゆっくりと三日月の形になった。
その目が、舞のそれと重なる…そう思った瞬間、俺は春音を押し倒した。
愛がなくても、
相手が舞でなくても、
俺はデキるんだ
…雄としての本能が理性を淘汰した瞬間だった。
舞が俺を見つめている。
そう思う度に俺の体は激しく動き、春音はマニュアルで定められたかのような声を上げ、身を捩った。
目の前にいる女が、舞に見えた瞬間、俺は果てた。
「舞…」
しまったと思ったが、もう遅い。
気まずさを露にする俺に春音は
「いいのよ」
とだけ言った。
やはりマニュアルで定められたかのように、汗ばんだ俺の背中を撫でた。
「…ごめん」
俺が謝った相手は春音ではなく、舞だと気付いたのは店を出たずっと後のことだ。
疲れた俺は、同じように疲れた友人とターミナル駅で別れた。
始発電車に揺られながら軽く寝ようかと試みたが、意識は残酷にも俺を寝かせてはくれなかった。
町並みを浮き立たせている朝日は窓から入って、俺の眼孔をも容赦なく刺激した。
目を瞑っても、瞼を通した光は視神経に届く。
瞼の毛細血管を通して、光はピンク色に見える。
そこに浮かぶのは舞だ。
明日、舞は俺に土産を買って帰ってくるだろう。
「お母さんが、次回の旅行はぜひあなたにも来てもらいたいと言っていたわ。そうそう、お母さんったらね…」
目を一文字にさせて、コロコロと笑う舞の顔がはっきりと浮かんでくる。
俺が自分に証明したかったことは、自分の雄としての本能だ。
それは、この2年間の淡々と流れる日常、その延長線上にある平凡な未来…そういったものに押しつぶされそうになる自分への恐怖心から派生したに違いない。
それにしても、この虚しさはいったい何だろう。
春音を抱いたことによって証明されたのは、皮肉にも舞への愛情のみだったなんて。
「…舞」
その呟きには、春音の前で漏らした時のものよりも遥かに愛情がこもっている。
俺には、それが舞への罪滅ぼしに思えた。
ってな妄想をしてしまった。今日も。
いや~、春音…いや、ハルシオンよ。
君には参った。
何なんだ?あの午前中の倦怠感は。
やっぱ、俺…じゃなくって、…私には舞(マイスリー)が合っているのかもしれない。
まぁ、暫くはハルシオンに頼ってみよう。
この二日間、官能めいたことを書いたが、…コレ、全部妄想なのである。
いかに私が妄想族かということを感じていただけたら、幸いだ。
金糸をあしらった下着からは、ほっそりとした手足が伸びている。
それらはブラックライトで照らされてやや紫色を帯びている。
舞とは対照的な二重瞼を持ち、派手なアイメイクが施されていた。
ドアを閉め、極彩色を敷き詰めたような室内に入り、俺はベッドに横たわる春音に近づいた。
「春音…さん」
俺は初めて見るその女に見惚れてしまい、ようやく彼女の名前だけを口にすることができた。しかも、何故か敬称で。
「嫌ね。春音で良いわよ」
そう言いながら、彼女は口角に不思議な溝を作った。
アイメイクで縁取られた目はゆっくりと三日月の形になった。
その目が、舞のそれと重なる…そう思った瞬間、俺は春音を押し倒した。
愛がなくても、
相手が舞でなくても、
俺はデキるんだ
…雄としての本能が理性を淘汰した瞬間だった。
舞が俺を見つめている。
そう思う度に俺の体は激しく動き、春音はマニュアルで定められたかのような声を上げ、身を捩った。
目の前にいる女が、舞に見えた瞬間、俺は果てた。
「舞…」
しまったと思ったが、もう遅い。
気まずさを露にする俺に春音は
「いいのよ」
とだけ言った。
やはりマニュアルで定められたかのように、汗ばんだ俺の背中を撫でた。
「…ごめん」
俺が謝った相手は春音ではなく、舞だと気付いたのは店を出たずっと後のことだ。
疲れた俺は、同じように疲れた友人とターミナル駅で別れた。
始発電車に揺られながら軽く寝ようかと試みたが、意識は残酷にも俺を寝かせてはくれなかった。
町並みを浮き立たせている朝日は窓から入って、俺の眼孔をも容赦なく刺激した。
目を瞑っても、瞼を通した光は視神経に届く。
瞼の毛細血管を通して、光はピンク色に見える。
そこに浮かぶのは舞だ。
明日、舞は俺に土産を買って帰ってくるだろう。
「お母さんが、次回の旅行はぜひあなたにも来てもらいたいと言っていたわ。そうそう、お母さんったらね…」
目を一文字にさせて、コロコロと笑う舞の顔がはっきりと浮かんでくる。
俺が自分に証明したかったことは、自分の雄としての本能だ。
それは、この2年間の淡々と流れる日常、その延長線上にある平凡な未来…そういったものに押しつぶされそうになる自分への恐怖心から派生したに違いない。
それにしても、この虚しさはいったい何だろう。
春音を抱いたことによって証明されたのは、皮肉にも舞への愛情のみだったなんて。
「…舞」
その呟きには、春音の前で漏らした時のものよりも遥かに愛情がこもっている。
俺には、それが舞への罪滅ぼしに思えた。
ってな妄想をしてしまった。今日も。
いや~、春音…いや、ハルシオンよ。
君には参った。
何なんだ?あの午前中の倦怠感は。
やっぱ、俺…じゃなくって、…私には舞(マイスリー)が合っているのかもしれない。
まぁ、暫くはハルシオンに頼ってみよう。
この二日間、官能めいたことを書いたが、…コレ、全部妄想なのである。
いかに私が妄想族かということを感じていただけたら、幸いだ。