「坊主めくり」という遊びをご存じだろうか。
小倉百人一首の読み札だけを使うゲームである。
すべての札をふせ、積み重ねた山から順番に1枚ずつめくっていく。このとき、札は全員に見えるように公開するのだ。参加人数に制限はない。
読み札には絵が描かれている。絵が男性ならばそのまま持っていられるが、坊主の札を取ったら持ち札すべてを捨てなければならない。
姫の札だったら、捨て札をすべてもらうことができる。
めくる札がなくなったらゲームセット。持ち札の多い者が勝ちだ。
男性札は66枚、姫札は21枚、そして坊主は13枚。恐怖の坊主は確率13%とはいえ、結構ひいてしまったりする。
ルールは地方によって多少の違いがあるけれども、私の実家では最も簡単なこのルールで遊んでいた。
私たち子供が家庭を持ち独立してからも、元旦には実家で新年会を行っている。姉や妹も夫と子供を連れて大集合だ。
ひとしきり飲んで食べたあとは、恒例の坊主めくりがはじまる。夫と父は入らないが、私と姉、妹、母、義兄、義弟が参加し、童心に返って遊ぶのだ。
去年の一戦はこんな感じだった。
最初の一巡は、姫が出ても坊主が現れることがなく、ホッと胸をなで下ろすことが続いた。やや緊張感がゆるみ、義兄が札を表にしたときだ。
「うわっ、出た~!!」
素性法師 今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
義兄は渋い顔で持ち札すべてを捨て、すっからかんになった。
不思議なことに、1枚坊主が出ると連鎖反応が起こる。恵慶法師、蝉丸が続いて現れた。
「キャー」
「わぁ~」
姉に義弟が一文無しになり、捨て札の山ができた。
ここで私の順番が来たが、現れたのは山部赤人だった。
田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
姫じゃなかった…と私はがっかりした。
「ほほほ、いただきー」
ゲームに強い妹が姫・右近の札をひいた。捨て札全部が妹のものになった。
続いて姉がひいた札も姫・小野小町だったが、すでに捨て札はない。
「遅かった……」
こういう場合、もう1枚ひいてよいというローカルルールもあるらしい。しかし、わが家では「今頃~」と笑い飛ばされておしまいだ。
男性札が無難に続くと、次は姫が連続で出現した。伊勢、右大将道綱母、和泉式部……。
こんなところで無駄に出ると、あとが困るんだけど……。
そんな不安が胸をよぎった。
札の山はすでに半分以下となっている。順番が来て札をめくると……。
僧正遍照 天つ風雲の通ひ路ふきとぢよ をとめの姿しばしとどめむ
出た~!! 坊主だぁ~!
「やったー、ついに出たわ!」
姉は私の持ち札がゼロになったことを喜んでいる。ムカッ。
しかし、次の回で私は珍しく姫・相模をひき、捨て札すべてを取り返すことができた。
「面白くないわね」
姉が舌打ちした。捨てたり拾ったりもあったが、ゲームは終盤にさしかかっていた。
残り少ない札を順番にひくと、どうやら私が最後の一枚をもらうことになるらしい。
妹の持ち札が一番多いが、姫が来てくれないので捨て札もたまっている。最後の一枚が姫だったら一発逆転もあるかもしれない。
私もドキドキしたが、他のメンバーも最後の札に神経を集中させている。
さて、勝負の行方はいかに。
札に手をかけひっくり返すと、誰もが大声で笑った。
「あははははははー!!!」
西行法師 なげげとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな
最後の最後に坊主とは……。
西行さん、泣きたいのはこっちだよ!
あけましておめでとうございます。
本年もたくさんエッセイを書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。
さて、去年の屈辱を果たすべく、今年もこれから実家に行ってまいりま~す!
お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(12/26更新)
小倉百人一首の読み札だけを使うゲームである。
すべての札をふせ、積み重ねた山から順番に1枚ずつめくっていく。このとき、札は全員に見えるように公開するのだ。参加人数に制限はない。
読み札には絵が描かれている。絵が男性ならばそのまま持っていられるが、坊主の札を取ったら持ち札すべてを捨てなければならない。
姫の札だったら、捨て札をすべてもらうことができる。
めくる札がなくなったらゲームセット。持ち札の多い者が勝ちだ。
男性札は66枚、姫札は21枚、そして坊主は13枚。恐怖の坊主は確率13%とはいえ、結構ひいてしまったりする。
ルールは地方によって多少の違いがあるけれども、私の実家では最も簡単なこのルールで遊んでいた。
私たち子供が家庭を持ち独立してからも、元旦には実家で新年会を行っている。姉や妹も夫と子供を連れて大集合だ。
ひとしきり飲んで食べたあとは、恒例の坊主めくりがはじまる。夫と父は入らないが、私と姉、妹、母、義兄、義弟が参加し、童心に返って遊ぶのだ。
去年の一戦はこんな感じだった。
最初の一巡は、姫が出ても坊主が現れることがなく、ホッと胸をなで下ろすことが続いた。やや緊張感がゆるみ、義兄が札を表にしたときだ。
「うわっ、出た~!!」
素性法師 今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
義兄は渋い顔で持ち札すべてを捨て、すっからかんになった。
不思議なことに、1枚坊主が出ると連鎖反応が起こる。恵慶法師、蝉丸が続いて現れた。
「キャー」
「わぁ~」
姉に義弟が一文無しになり、捨て札の山ができた。
ここで私の順番が来たが、現れたのは山部赤人だった。
田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
姫じゃなかった…と私はがっかりした。
「ほほほ、いただきー」
ゲームに強い妹が姫・右近の札をひいた。捨て札全部が妹のものになった。
続いて姉がひいた札も姫・小野小町だったが、すでに捨て札はない。
「遅かった……」
こういう場合、もう1枚ひいてよいというローカルルールもあるらしい。しかし、わが家では「今頃~」と笑い飛ばされておしまいだ。
男性札が無難に続くと、次は姫が連続で出現した。伊勢、右大将道綱母、和泉式部……。
こんなところで無駄に出ると、あとが困るんだけど……。
そんな不安が胸をよぎった。
札の山はすでに半分以下となっている。順番が来て札をめくると……。
僧正遍照 天つ風雲の通ひ路ふきとぢよ をとめの姿しばしとどめむ
出た~!! 坊主だぁ~!
「やったー、ついに出たわ!」
姉は私の持ち札がゼロになったことを喜んでいる。ムカッ。
しかし、次の回で私は珍しく姫・相模をひき、捨て札すべてを取り返すことができた。
「面白くないわね」
姉が舌打ちした。捨てたり拾ったりもあったが、ゲームは終盤にさしかかっていた。
残り少ない札を順番にひくと、どうやら私が最後の一枚をもらうことになるらしい。
妹の持ち札が一番多いが、姫が来てくれないので捨て札もたまっている。最後の一枚が姫だったら一発逆転もあるかもしれない。
私もドキドキしたが、他のメンバーも最後の札に神経を集中させている。
さて、勝負の行方はいかに。
札に手をかけひっくり返すと、誰もが大声で笑った。
「あははははははー!!!」
西行法師 なげげとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな
最後の最後に坊主とは……。
西行さん、泣きたいのはこっちだよ!
あけましておめでとうございます。
本年もたくさんエッセイを書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。
さて、去年の屈辱を果たすべく、今年もこれから実家に行ってまいりま~す!
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