勤務先の高校では、英検、漢検をはじめとして簿記やワープロ、情報処理など、何種類もの検定試験を実施している。合格発表用のボードには、「簿記検定合格者」「英検合格者」などの紙が所狭しと貼られ、おびただしい数の数字が並ぶ。
「せんせえ、俺の番号、何番ですか?」
合格発表が行われるたびに、受験番号を聞いてくる生徒が必ずいる。
「受験票は?」
「なくしました」
さすがに、入試でこういうやり取りはないが、自分の番号がわからなければ、合格発表も意味がない。きっと暗号のように見えるだろう。
「えーと、3087番だよ」
「はい、ありがとうございました」
生徒は忘れないように、「3087、3087」と口に出して番号を復唱する。そして、掲示板の前で叫ぶのだ。
「あー、俺の番号、ねぇよぉ!」
クラス全員が受ける検定もある。しっかり者は、ちゃんと受験票を用意しているけれども、7年前に受け持った私のクラスはうっかり者ばかりだった。
親切心から、受験票がなくてもわかるように、番号ではなく合格者の名前を読み上げる。
「井口、石川」
生徒がどよめく。
「いきなり、新井が飛ばされてるぜ!」
その検定は、合格率6割といったところだろうか。思ったよりも出来が悪かった。
合格者全員を読み上げたところで、いつも元気な理香がうつむき、しばらく動かないのに気づいた。
「理香? どうしたの?」
声をかけても返事がない。よく見ると、涙をボロボロ流して泣いている。すぐに仲良しの女子が駆けつけ、理香を慰めた。
「もー、先生が名前で言うからだよ!」
理香は不合格だったので、名前が呼ばれず、たいそう傷ついたらしい。
「きょっ、今日は、も、もう帰ります……」
かすれた声を絞り出し、よろけながら彼女は立ち上がった。
ああ、大失敗……。
かと思えば、絵美子のような生徒もいる。
「先生、アタシ、ワープロ検定合格したの!」
「えっ、そうだっけ?」
おかしい。たしか絵美子は、ひどい点数で落ちたと担当者が嘆いていたはずだが……。
「ちゃんと番号あったの?」
「あったよ! さっき、○○先生に3101番って教えてもらったもん。見てみなよ」
たまに、不合格なのに、担当者のミスで番号が載ることもある。もしそうだったら、何と言って納得させようか、と私は悩んだ。
絵美子は、数字の並んだ貼り紙を指差し、得意気に振り返った。
「ね、ほら。3101、あるでしょ」
たしかに番号はあったが、それはワープロ検定ではなく、簿記検定の結果だった。
「絵美子、見る場所間違えてるよ……」
やはり、合格発表は暗号なのだ。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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「えーと、3087番だよ」
「はい、ありがとうございました」
生徒は忘れないように、「3087、3087」と口に出して番号を復唱する。そして、掲示板の前で叫ぶのだ。
「あー、俺の番号、ねぇよぉ!」
クラス全員が受ける検定もある。しっかり者は、ちゃんと受験票を用意しているけれども、7年前に受け持った私のクラスはうっかり者ばかりだった。
親切心から、受験票がなくてもわかるように、番号ではなく合格者の名前を読み上げる。
「井口、石川」
生徒がどよめく。
「いきなり、新井が飛ばされてるぜ!」
その検定は、合格率6割といったところだろうか。思ったよりも出来が悪かった。
合格者全員を読み上げたところで、いつも元気な理香がうつむき、しばらく動かないのに気づいた。
「理香? どうしたの?」
声をかけても返事がない。よく見ると、涙をボロボロ流して泣いている。すぐに仲良しの女子が駆けつけ、理香を慰めた。
「もー、先生が名前で言うからだよ!」
理香は不合格だったので、名前が呼ばれず、たいそう傷ついたらしい。
「きょっ、今日は、も、もう帰ります……」
かすれた声を絞り出し、よろけながら彼女は立ち上がった。
ああ、大失敗……。
かと思えば、絵美子のような生徒もいる。
「先生、アタシ、ワープロ検定合格したの!」
「えっ、そうだっけ?」
おかしい。たしか絵美子は、ひどい点数で落ちたと担当者が嘆いていたはずだが……。
「ちゃんと番号あったの?」
「あったよ! さっき、○○先生に3101番って教えてもらったもん。見てみなよ」
たまに、不合格なのに、担当者のミスで番号が載ることもある。もしそうだったら、何と言って納得させようか、と私は悩んだ。
絵美子は、数字の並んだ貼り紙を指差し、得意気に振り返った。
「ね、ほら。3101、あるでしょ」
たしかに番号はあったが、それはワープロ検定ではなく、簿記検定の結果だった。
「絵美子、見る場所間違えてるよ……」
やはり、合格発表は暗号なのだ。
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