翌日の体育祭に備えて、私はTシャツとジャージを選んでいた。
「赤、青、黄は避けた方がいいね。白か黒が無難かも」
特定の団の色にならぬよう、箪笥の中を探していく。日焼け対策もしなくては。黒の薄手のハイネックを出し、全体的なバランスを確認する。
「よし決まり。じゃあ、お風呂に入ろうっと」
Tシャツを脱ぎ、キャミソールだけになったとき、スマホの着信音が鳴り響いた。ここ数年「アヒル」にしているので、「ガアガアガア、ガアガアガア」とけたたましい。続いて、「○×△さんからです」との音声も聞こえた。この人は私の元上司で、職場が変わってもあれこれ面倒をみてくれる便利な……もとい、親切な人である。
急いでスマホを手に取り、カバーを開ける。おや? カメラが起動しているのはなぜだろう。細かいことはあとにして、まずは「応答」をスライドした。
「もしもーし、笹木ですっ」
ちょうど、面倒で手間のかかることを頼んでいたのだ。その件かもしれないから、愛想よくしなくては。よそゆきの声で出たはいいが、電話はすでに切れていた。
「あれれ、何だろう。操作ミスかな」
履歴を見ると、「FaceTimeビデオ」と書いてあった。なんだこりゃ? すかさず検索してみる。
「うっわぁ、iPhone同士でできる無料のビデオ通話だって。だからカメラが起動してたのか」
嫌な予感がした。続けて、今度は元上司からメールが届いた。
「先日ご依頼のあった○○が完成しました。明日送りますのでお待ちください」
やはり操作ミスではなく、私に用事があって先ほどの電話をかけたようだ。
おそらく、元上司は単なる連絡をするつもりだったのに、ボタンを間違えたのだ。昔から、うっかり者で、小さなミスをいくつもしでかす人だった。「発信」にすればよかったところを「ビデオ通話」にしたものだから、薄着の私が液晶に登場し、仰天してすぐに通話を終了した、といったところではないか。
スマホのカメラを内向きにしてみた。いったい、どんな映像が送られたのか、確認せずにはいられない。
「なんだ、鎖骨ぐらいまでしか見えないじゃん」
画面は予想よりも小さいせいか、キャミソール姿は映らなかったようだ。でも、化粧を落とし、くすんだ肌の素顔が大写しになっていた。自分でありながら、怖くてギョッとする。
「これじゃ、速攻で切るよね」
ひどくガッカリしてスマホを閉じた。
使いかたによっては、この機能、人間関係にヒビを入れそうな気がするんだけど……。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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特定の団の色にならぬよう、箪笥の中を探していく。日焼け対策もしなくては。黒の薄手のハイネックを出し、全体的なバランスを確認する。
「よし決まり。じゃあ、お風呂に入ろうっと」
Tシャツを脱ぎ、キャミソールだけになったとき、スマホの着信音が鳴り響いた。ここ数年「アヒル」にしているので、「ガアガアガア、ガアガアガア」とけたたましい。続いて、「○×△さんからです」との音声も聞こえた。この人は私の元上司で、職場が変わってもあれこれ面倒をみてくれる便利な……もとい、親切な人である。
急いでスマホを手に取り、カバーを開ける。おや? カメラが起動しているのはなぜだろう。細かいことはあとにして、まずは「応答」をスライドした。
「もしもーし、笹木ですっ」
ちょうど、面倒で手間のかかることを頼んでいたのだ。その件かもしれないから、愛想よくしなくては。よそゆきの声で出たはいいが、電話はすでに切れていた。
「あれれ、何だろう。操作ミスかな」
履歴を見ると、「FaceTimeビデオ」と書いてあった。なんだこりゃ? すかさず検索してみる。
「うっわぁ、iPhone同士でできる無料のビデオ通話だって。だからカメラが起動してたのか」
嫌な予感がした。続けて、今度は元上司からメールが届いた。
「先日ご依頼のあった○○が完成しました。明日送りますのでお待ちください」
やはり操作ミスではなく、私に用事があって先ほどの電話をかけたようだ。
おそらく、元上司は単なる連絡をするつもりだったのに、ボタンを間違えたのだ。昔から、うっかり者で、小さなミスをいくつもしでかす人だった。「発信」にすればよかったところを「ビデオ通話」にしたものだから、薄着の私が液晶に登場し、仰天してすぐに通話を終了した、といったところではないか。
スマホのカメラを内向きにしてみた。いったい、どんな映像が送られたのか、確認せずにはいられない。
「なんだ、鎖骨ぐらいまでしか見えないじゃん」
画面は予想よりも小さいせいか、キャミソール姿は映らなかったようだ。でも、化粧を落とし、くすんだ肌の素顔が大写しになっていた。自分でありながら、怖くてギョッとする。
「これじゃ、速攻で切るよね」
ひどくガッカリしてスマホを閉じた。
使いかたによっては、この機能、人間関係にヒビを入れそうな気がするんだけど……。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
若いときにこんな機能があれば使ったかもしれませんね。
オバさんになった今は興味がないです。
他人様にすっぴんを見せるなんて景観公害(笑)
さっさと切ってくれてよかったですよ。
孫とペットは最強ですね。
うちにもいれば違うのかな。
外孫やかわいいペットでもいれば、ヘビロテなのでしょうが。
身内以外ではあまり使いたくない機能。
即切られた元上司の心遣い、ナイス。
親しい間柄でないと、この機能は危険です。
すっぴんを見られるのも困りものですよ。
でも、那須に住む両親だったら何も気にせず、楽しめたのですが。
しばらく会っていないから、まったく条件が違います。
仕事上のつき合いは特に危険かも。
カメラが起動した時点で気づけと言われても無理です。
初めてのことは場数を踏まないと慣れないし。
呼び出し音で区別できると便利ですね。
次は失敗しないように気を付けます。
遠くに住んでいる人の顔を見たいときには便利です。