将棋「天下の一局」をChatGPTが教えてくれた 藤井猛棋聖vs加藤一二三八段 1984年 棋聖戦 第4局

2023年03月12日 | 将棋・雑談

 ChatGPTの話題で世間は持ちきりである。

 その衝撃度に、今さら説明するまでもないだろうが、これが会話形式で質疑応答ができるというAI

 
 外国語の翻訳やら、プログラムを書いてくれたりとか、なんでもできる万能ぶり。
 
 果ては大学のレポートやら、講演の原稿やら、小説まで書くとなっては、すごいヤツが出てきたもんである。
 
 さっそく私も、着衣の少ない女性が出てくるステキな動画のおススメをたずねて、

 


 申し訳ありませんが、私は倫理的な理由から、そのような動画の紹介はできません。

 代わりに、健全で価値ある趣味や興味に関するアドバイスをお探しの場合は、お手伝いできます。 



 などというナイス助言をいただいたりして、優雅な人工知能ライフを送っている。
 
 まさに、『2001年宇宙の旅』のHALが実現したわけだが、こうなると様々な使い方を模索したくなる。
 
 まずやはり、私としては当ブログのネタ探しだ。
 
 特に将棋ネタは、一局ごとに過去の観戦記を読み直したり、詰みの部分をソフトで精査したり。
 
 ときには手元に資料がないから古本屋で雑誌のバックナンバーなど買いなおしたりと、わりと手間お金もかかっている。
 
 そこをこのChatGPT様を使えば、
 
 
 「過去の将棋の名局をピックアップして、手の解説や雑談も充実させたうえで、そこからガッパガッパ金が入り、アイドルと結婚できるような記事に仕上げてください」
 
 
 と入力するだけで一丁上がりなのだ。
 
 これで、いちいち棋譜を並べなおしたりする手間が省けるわけで、なんとラクチンなのかと鼻歌交じりにさっそく、
 
 
 「将棋の世界で過去一番の名局とはなんですか」
 
 
 という質問をしてみたところ、その答えというのが、

 


 


 将棋の世界で過去一番の名局と言われるのは、1984年棋聖戦第4局藤井猛九段加藤一二三八段の対局です。

 (中略)
  
 その後、この名局は「天下の一局」と呼ばれ、将棋の歴史に残る名局として知られています。



 
 ……
 
 なんだか、おかしいように見えるのは気のせいだろうか。
 
 私の記憶では、このころの棋聖戦は年に2回開催で、1984年度前期の第44期棋聖戦は、米長邦雄棋聖(王将・棋王)と谷川浩司名人が戦っていた記憶が。
 
 また後期の45期棋聖戦では、新鋭の中村修六段2勝1敗と、米長棋聖をカド番に追いこんで話題となったはずだが(結果は米長がかろうじて防衛)。
 
 だが、まさか人工知能が間違いを犯すわけがないので、これらの知識が間違っているのであろう。
 
 実際は藤井猛九段加藤一二三八段が戦ったのだ。
 
 どっちが棋聖か不明だが、実績的には加藤先生か。
 
 といっても、ひふみんは棋聖取ったことないはずだけど、もちろんAIが間違いを犯すことなどありえないから、きっと私の知らぬところで取っていたのだ。
 
 人の記憶など、本当にあてにならない。
 
 そこで、今度こそしっかりと調べてみようと、まず藤井猛九段について質問してみたところ、

 


 


 


 
 2009年史上最年少で、四冠(棋聖、王位、王座、棋王)を獲得するなど、将棋界の中でもトッププレイヤーとして知られています。


 


 藤井猛九段といえば、やはり竜王3期の実績から「藤井竜王」のイメージがあるが、四冠王になっていたとは知らなかった。
 
 また、2009年に「史上最年少」とは37、8歳くらいか。
 
 ずいぶんと歳をとった「最年少」だが、それだけ四冠を取る道が険しいことが分かる。
 
 つまりは藤井聡太五冠はそれを20年近く更新したわけで、彼の才能のすさまじさが伝わってくるではないか。
 
 また加藤先生については、

 

 
 
 どうということない内容だが、注目なのが名前である。


 加藤一二三(かとう・いちぞう)は、日本将棋連盟所属のプロ棋士で、1948年生まれの現役棋士です。



 
 「ひふみん」とか「ピンさん」でおなじみの加藤九段だが、本名が「いちぞう」だったとは衝撃の事実である。

 なるほど「ひふみ」とは鈴木一朗が「イチロー」のような登録名だったのかもしれない。
 
 加藤リスペクトあまねきのため御子息に「一二三(ひふみ)」と名付けた小林健二九段は、今ごろどう感じているのだろうか。
  
 そんなわけあるかい、という意見もあろうが、もちろんAIが間違いなど犯すはずもないので、これが事実なのだ。

 什麼生とえば説破のように「いちぞう」といえば「ゾルゲ」しか思い浮かばない私としても、この将棋はぜひ並べてみたいが、今のところ棋譜が見つかっておらず、ならば聞けばいいということで、

 


 


 
 申し訳ありませんが、1984年の棋聖戦において藤井猛九段と加藤一二三八段の間で行われた対局は存在しません


 

 まさかの裏切り

 

 


 藤井猛九段は1984年度に棋聖位獲得していますが、その挑戦者が加藤一二三八段ではありませんでした。



 しかも、棋聖を獲得していたのは藤井猛九段のほうだったとは!。

 挑戦者は「いちぞう」ではない。なら、このときの挑戦者はだれだったのかと問うならば、

 


  
 1984年度の棋聖戦の挑戦者は、羽生善治九段です。



 羽生さんだったとは!
 
 なるほどこれは、謎が解けてきた。
 
 つまりは、藤井猛棋聖に前期は加藤一二三八段が、後期に羽生さんが挑戦したと考えればしっくりくる。
 
 この両者をしりぞけたことからして、藤井猛九段もまた並の棋士でないことが伝わってくる。
 
 こうして、過去の歴史についてAIと会話するというのは、非常に有意義な時間であった。
 
 1984年と言えば藤井猛九段はまだ奨励会にも入ってないけどなあとか疑問は残るわけだが、これも要するに、
 

 「研修会時代からすでにタイトルを取れる実力があった」
 
 
 ということであろう。

 首をかしげる方もおられるかもしれないが、言うまでもなくAIが間違いなど犯すはずがないのである。

 

 (「陣屋事件の真相」編に続く)

 

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ダイヤモンド野澤輸出 M-1グランプリ最下位記念「おもしろ将棋」

2022年12月28日 | 将棋・雑談

 「おもしろ○○」
 
 というお笑いジャンルがある。
 
 これは、先日行われたM-1グランプリ2022年でスベ……高得点を獲得する笑いに不自由していたお笑いコンビ、ダイヤモンド野澤輸出さんが、主にツイッターなどで披露しているもの。
 
 
 【例】

 
 ★おもしろ湯

 「ぬるま」
 
 ★おもしろサンダルの呼び方
 
 「つっかけ」
 
 ★おもしろするだけ
 
 「チン」 
 
 ★おもしろ朝ドラスタッフ
 
 「ことば指導」 
 
 ★おもしろくるしい
 
 「愛」
 
 

 ちなみにこれは、アレンジ(?)して漫才にもなっている。

 私はダイヤモンドのネタが大好きで、特に「竹ブラジル」は


 
 「マジ、ただの天才やん」
 


 感動したものだが、その才能の特異性ゆえにM-1決勝では期待と同時に
 
 「危ないかもなあ」
 
 危惧していたら、それがモノの見事に当たってしまった。
 
 まあ、ダイヤモンドのファンは意外と予想してたかもしれないけど、出演後の表情や言動を見ていると、マヂカルラブリー野田さん言うところの


 
 「ポップ最下位」


 
 に変換できそうだし、これから期待できるのではないか。
 
 ということで、みんなダイヤモンドの漫才と、野澤さんのツイッターを見よう!

 と今回はこれだけが言いたかったんだけど、なんだかここで終わるのも愛想がない。
 
 そこで、私もひとつ野澤流「おもしろ○○」にチャレンジしてみたい。
 
 テーマは「おもしろ将棋」。ぜひ、野澤さんの相方である小野竜輔さんの声で、読み上げてください。

 


 

 ★おもしろ八大タイトル 

 「竜王」

 

 ★おもしろ棋戦優勝者

 「達人」
 
 
 ★おもしろ女流タイトル
 
 「女王」


 ★おもしろ無冠

 「前名人」


 ★おもしろ戦法

 「タコ金」
 
 
 ★おもしろ囲い
 
 「カニ」


 ★おもしろ矢倉囲い

 「流れ」
 

 ★おもしろ美濃囲い

 「ちょんまげ」
 
 
 ★おもしろ棋風

 「地蔵流」


 ★おもしろ負け方

 「トン必至」
 
 
 ★おもしろ反則
 
 「行きどころのない駒を打つ」


 ★おもしろ駒

 「竜馬」


 ★おもしろ盤

 「足つき」

 

 ★おもしろ飛車

 「生飛車」

 

 ★おもしろ角

 「成り角」

  
 ★おもしろ盤外戦術
 
 「たくさんご飯を食べる」

 

 ★おもしろ千日手
 
 「一人」

 

 それではみなさん、よいお年を。

 

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羽生善治九段が豊島将之九段を破り、藤井聡太王将への挑戦権を獲得

2022年11月22日 | 将棋・雑談

 羽生善治九段が、王将戦の挑戦者になった。

 ここ数年、無冠転落やA級からの陥落など、苦戦の続いていた羽生だが、今期はその力を少しずつ取り戻しつつある様子だ。

 勝率では、いわゆる「2勝1敗」ペースの6割5分以上をマークし、棋王戦では佐藤天彦九段に敗れたものの勝者組決勝まで進出で、まだ敗者復活から挑戦の可能性を残している。

 そして、注目の王将リーグでも若手のホープから、タイトルホルダーに現役A級をなで斬りにして挑戦権獲得

 A級順位戦に匹敵するとも言われる難関リーグを、全勝で駆け抜けたのだから、これはもう文句のつけようのない結果となった。

 これでファンが待ち望み、また話題性もバツグンな

 「藤井聡太羽生善治

 のタイトル戦が実現。

 ただ、七番勝負の展望はと言えば、まあこれはハッキリ言って「藤井有利」であって、これは羽生さんがどうより、今の藤井五冠ならだれが出たってそうなってしまう。

 それに、私は今さら羽生さんの記録とかにもこだわっておらず、というか、「永世七冠」をかけて戦っていたときですら、もし永世竜王を取れないまま終わっても、別にそれはそれでいいと思っていた。

 羽生さんのデビュー時から見ていた身としては、その強さと熱い将棋を(特に「羽生-佐藤康光」と「羽生-久保利明」というカードは本当にハズレがない)十分以上に堪能させてもらった。

 なんで、なにかと取り上げられる「タイトル100期」も、それこそ渡辺明名人棋王が、

 

 「羽生さんは、100期とかこだわってないんじゃないかなあ。もう実績的には充分すぎるし、単にゴロがいいかどうかだけの問題でしょ」

 

 ドライなことをおっしゃっていたけど、私もこれに近い。

 もちろん、羽生さんは勝つつもりで挑むんでしょうけど、負けても、それはそれでという感じかなあ。

 少なくとも「100期ならず」みたいな残念感はない。いい内容の将棋は見たいけど。

 ただ、ひとつだけ贅沢な望みを言えば、双方3勝3敗最終局に突入すれば最高の展開。

 それこそ、まさに「最後の戦い」ということになって、どっちが勝っても激アツではないか。

 願わくば、ぜひその一局を眼に焼き付けたいものだが、あれ、そういや私は「囲碁将棋チャンネル」に入ってないから見れないわ。

 うーむ、羽生さんは試練を乗り越えたのに、こっちにはまさか貧乏という大敵がまっていようとは。

 となれば、あとは一縷の望みを違法アップロードにたくしたいところで、ぜひ倫理観の低い将棋ファンのみなさまがたに、よろしくお願いしたいところだ(←最低の結論だよこの人)

 

 

 

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藤井聡太王将への挑戦者は羽生善治か? それとも豊島将之か?

2022年11月17日 | 将棋・雑談

 藤井聡太羽生善治のタイトル戦は実現するのか。
 
 というのが、今期王将リーグを舞台に大いに盛り上がっている。
 
 羽生善治九段と言えば、昭和後期から平成の将棋界において圧倒的な王者として君臨してきた大棋士。
 
 ところが、竜王広瀬章人八段に奪われ無冠に転落したあたりから、その棋神のごとしだった強さが鳴りを潜めてしまった。
 
 タイトル戦や棋戦優勝から遠ざかり、竜王戦で挑戦者になるも、豊島将之竜王1勝4敗と完敗。

 順位戦でもA級から陥落。1期での復帰を期待されたB1でも、早々に4敗目を喫するなど、思わぬ苦戦を強いられている。
 
 年齢的に棋力が下り坂になるのは、どんな棋士でもさけられない運命で、さすがの羽生でもそれに対抗するのは、むずかしいよう。
 
 このままだと、昔のような存在感もなくなっちゃうかもなあ、とか心配してたら、あにはからんや。

 まず棋王戦では、佐藤康光九段広瀬章人八段伊藤匠五段を破って勝者組決勝に進出(まさに今、佐藤天彦九段戦を観戦中)。
 
 王将リーグでも快進撃を見せ、服部慎一郎五段近藤誠也七段糸谷哲郎八段永瀬拓矢王座渡辺明名人棋王を次々破って、土つかずの5連勝
 
 若手のホープから、現役のA級タイトルホルダーをつるべ打ちしてこの成績だから、すばらしいの一言。
 
 最後に残った豊島将之九段戦に勝てば文句なしで挑戦者
 
 負けても3戦を残している豊島九段が1敗でもすれば決定。
 
 仮に羽生相手もふくめて3連勝しても、まだプレーオフがあるという、羽生にとっては断然有利な星勘定となったのだ。
 
 ただ、そこは天下の豊島将之のこと。
 
 そう簡単に「どうぞお通り」というわけにはいかず、服部五段と渡辺名人を破って最終戦に希望を残す。
 
 こうなると、勝負はわからなくなってきた。
 
 藤井-羽生のタイトル戦は観たいけど、必死で戦っている人に


 「空気を読め」


 
 というのは、冗談でもあまり言いたくないので、もうあとは見守るだけ。
 
 私は羽生ファンであるが、同時に豊島ファンでもあるので、まあここは


 
 「どっちが勝ってもオレの勝ち」


 
 というスタンスで行くしかないわけだが、それでもやはり、羽生さんに少しばかり肩入れしてしまうのは、たぶんちょっとした歴史的な「忘れ物」感があるから。
 
 まず、そもそもの話、今回の王将戦は私だけでなく、多くの人が藤井-羽生戦を期待していると思われる。
 
 それはまあ、単純に話題性ということもあるが、人によっては、そこまででもないという声も、あるかもしれない。
 
 これが、仮に「羽生王将」に「藤井挑戦者」が挑んで、それで防衛なり奪取なりすれば、


 
 「新旧交代の戦い」


 
 として盛り上がるが、藤井聡太はすでに五冠を保持する第一人者。
 
 A級でなく、タイトルも持っていない今の羽生との「格付け」は、対戦成績もふくめて、とっくに終わっているのではないか。
 
 その意味では、やはり豊島や永瀬、渡辺や糸谷のような「」をバリバリで戦う棋士か、近藤や服部のような次代を担うニューフェイス(棋王戦の伊藤匠五段とか)が出たほうがいい。

 という声もそれはそれで一理あるわけだが、それでもやはり、


 
 「今回は羽生さんに……」


 
 と考えてしまうのは、特に昭和後期から平成の将棋界を知っている私が、
 
 
 「結局最後まで、あの大棋士と羽生善治のタイトル戦が実現しなかった」
 
 
 というモヤモヤを、なんとなく思い出したりしているから、なのかもしれない。
 
 
 (続く
 
 
 

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先崎学の語る藤井猛の「天才性」と、藤井システムの意義

2022年07月14日 | 将棋・雑談
 前回の続き。
 
 升田幸三九段の見せる大ポカの数々について、かつて河口俊彦八段はこう喝破した。
 
 

 「それは升田が天才ゆえに、人と違うことを考えているからだ」

 
 
 すなわち、凡人には思いつかない「新手」「妙手」を繰り出せる才を持つ人は、同時にその同義の裏面である「大ポカ」も披露してしまう。
 
 変な言葉なのを承知で言えば、一種の「職業病」「必要悪」のようであり、「考えられないポカ」を披露する発想こそが、「歴史を変える新戦法」を生み出す源泉になっているのだと。
 
 これと似たようなことを、先崎学九段が、ある棋士を評するときに書いていた。
 
 書かれていたのは藤井猛九段のことだ。
 
 
 
 
 
1990年の第8回三段リーグ1回戦。藤井猛三段と、近藤正和三段の一戦。
終盤、藤井勝勢の局面で、近藤は▲63桂不成と王手。
ほとんど「思い出王手」のような形で、ここは相手にせず△81玉でなんの問題もなかったが、なんと藤井は堂々△49飛(!)。
これを見たコンちゃんは「王様って取ってもいいんだよねぇ?」と▲71桂成。藤井は「あー!」と絶叫。
おもしろいことに、このショッキングな負けにもかかわらず、この後藤井は連勝街道を驀進し四段に昇段。
リーグ終盤、藤井が昇段しそうな時にだれかが「こうなると、王様を取られたのはもったいなかった」と言うと、師匠の西村一義九段は「集中している証拠だからいいんだよ」。
師匠からすれば、なんてことないフォローだったのかもしれないが、つまりは「そういうこと」なのである。
 
 
 
 
 
 これは藤井が王位戦で、羽生善治王位に挑戦したころだから、2012年のものであろう。
 
 先チャンはこの勝負を
 
 

 「真の天才対決」

 
 
 そう呼んでいる。以下、少し長いが紹介したい(改行引用者)
 
 

 藤井システムは将棋界を変えた戦法である。
 
 そして彼がひとりで編み出したのは同業者として奇跡に思えるくらいの独創的な戦法、考え方であった。
 
 将棋界では毎年新手や新戦法が出るが、多くは皆で研究した末の産物であったり、そこで指されなくともいずれ近いうちに別の誰かが考えたろうというものである。
 
 藤井システムは違う。藤井という棋士がいなければ、この戦法は生れなかったし、それにつづく振飛車の技術革新もなかったろう。
 
 ひとりの棋士によって将棋の歴史は数十年の時空を飛び越えることに成功したのである。
 
 褒めてばっかりでは彼もかゆくなってしまうだろうからちょっと辛辣なことを書くと、藤井の弱点は中終盤にある。
 
 狭い部分を攻める能力には凄いものがある(業界ではガジガジ攻めという)が、局面が広くなった時に悪手が出易いのだ。この点で、彼は同世代の英才達に微少なハンディキャップがある。
 
 だが、そのことは、彼の数々の業績を考えた時に、むしろ藤井猛という棋士の天才性を逆説的に証明するものであると私は強く思う。
 
 そしてその天才性は、弱点によって藤井という棋士の生涯勝率が多少他に比べて劣ったとしてもまったく揺らぐものではないと断言できる。
 
 この夏の王位戦こそ、真の天才対決なのである。

 
 
 藤井もまた、終盤などでポカをやりがちで、本人も
 
 「芸術的な逆転負け」
 
 自虐ネタにしていることが多い。
 
 観戦している人は親しみをこめてネタにし、私もケラケラ笑ってはいるが、でもそれは本当の意味で嘲笑しているわけではなく、きっと多くの将棋ファンも、また同じであると思われる。
 
 それは「ヒゲの大先生」と同じく、「王手放置」などそのポカの数々が藤井の持つ、「真の天才性」の発露であるからなのだと、心のどこかで皆わかっているから。
 
 だから、本人が嘆きながら頭をかこうと、動画サイトやコメント欄でどうイジられようと、その価値も評価も「まったく揺らぐものではない」のだ。
 
 
 
 
 ■おまけ
 
 (藤井猛伝説「一歩竜王」のシリーズはこちら
 
 (藤井猛竜王のあざやかな終盤はこちら
 
 (藤井システムに影響を与えた羽生善治についてはこちら
 
 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 
 
 
 
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「【升田のポカ】は人と違うことを考えている天才性にこそある」と、河口俊彦は言った

2022年07月13日 | 将棋・雑談
 「ヒゲの大先生」といえば、ポカが有名である。
 
 升田幸三九段と言えば、その全盛期に名人九段(竜王)・王将三冠王(当時の全冠制覇)になっただけでなく、木村義雄大山康晴の永世名人2人を「指し込み」に追いこむ、はなれわざを見せた。
 
 「指し込み」とは昔の王将戦に会ったシステムで、3連勝4勝1敗など、スコア的に星3つの差が開くと、勝っているほうがを落として戦うことになっていた。
 
 サッカーで言えば、
 
 「おまえ弱すぎるから、ハンディやるよ」
 
 とばかりに、1人選手を減らして10人で挑んでくるようなものだ。
 
 「下手」を持たされる側からすれば、屈辱きわまりない制度であり、しかもそこでも升田に敗れてしまった大山(木村は「陣屋事件」のどさくさで香落ち戦は指されなかった)は、「名人」が駒を落とされたうえに負けた、という事実のあまりのみじめさにを流したそうだ。
 
 
 
 
 
1955年、第5期王将戦の第4局は、升田幸三八段が大山康晴王将(名人)に「香落ち」上手をもって戦うことに。
図は大山に一矢あって、上手の升田が△84桂と打ったところでは優勢になり、以下制勝。
子供のころ「名人に香を引いて勝つ」と抱いた、途方もない夢を本当に実現してしまった。
 
 
 
 
 升田はよく色紙などに、
 
 
 「名人の上」
 
 
 と書いたそうだが、
 
 
 「名人に香を引いて勝つ」
 
 
 物差しの裏に書き残して家出してきた少年が、まさにそれを実現させるというドラマチックがすぎるストーリー。
 
 将棋界の最高峰である名人の「」なんて書いてしまうのも、決してケレンやハッタリではなかったわけなのだ。
 
 そんなスーパスター升田幸三だが、意外なことにタイトル獲得数や棋戦優勝回数はさほど多くなく、それこそ一度はコテンパンにのしたはずの大山の総タイトル数は80期だが、升田は7期
 
 一般棋戦優勝も大山が44勝にくらべて6勝と、相当に見劣りする。
 
 まあ、大山が強すぎたのは今さらとしても、その宿命のライバルだった升田なら、もっと勝っていてもおかしくないのに、永世称号すら持っていないのも意外だ。
 
 なので、升田の称号は今でも「升田九段」であり、一応「実力制第四代名人」ということになっているが、いかにも後付けの呼び名だし、升田自身も好んでいなかったそうだ。
 
 ではなぜにて、「ヒゲの大先生」がその実力とくらべて、実績的に歯がゆいのかと言えば、ひとつは体調面
 
 若いころ兵隊に行き、南方戦線の激戦地で無理をさせられたため、体を壊してしまった。
 
 また、煙草を好んだ無頼派だったことにくわえて、「高野山の決戦」など大山に勝てなかったことから、そのたしなむ量も爆発的に増えたとあっては、なかなか「絶好調」で対局に挑むとはいかなかった。
 
 そしてもうひとつが、ご存じ「升田のポカ」であって、「高野山の決戦」をはじめ名人戦などでもアッと言うウッカリで、必勝の将棋を落としたりしている。
 
 本人は「楽観」してしまうのを悪い癖だと自戒しているが、実は理由はそれだけではないという声もある。
 
 たとえば、升田を敬愛する河口俊彦八段によると、升田が信じられないミスを犯すのは、
 
 
 「天才は人と違うことを考えているから」
 
 
 升田と言えば、画期的な序盤戦術を次々と生み出す天才棋士だが、そういう「創造性」に長けた棋士は、「ふつうと発想が違う」からこそ、「ふつうの手」でいいところで、ついクリエイティビティを発揮してしまう。
 
 それがうまくハマれば「新手」「絶妙手」につながるわけだが、反転すると「考えられないポカ」になると。
 
 升田の言うウッカリの言い訳に、こういうものがある。
 
 
 「後でやるはずの手を先にやってしもうた」
 
 
 たとえば、ある局面で桂馬を跳ねて、を寄って、最後にを打つという流れがあったしよう。
 
 そこで大先生はなんと、桂馬跳ねと金寄りを「指したつもり」になって、いきなり銀を打ってしまうのだ。
 
 どんな妙手順でも、順番を間違えれば空中分解するのは当たり前で、「升田のポカ」にはこういう不可解性があるというが、それは単に「そそっかしい」のではなく、「別の風景が見えている」ゆえに、そうなるのだと。
 
 ホンマかいなという話で、そもそも「後に指す手を先に」なんてミスを、実際やるものだろうかという気もするが、これがないこともないから、おもしろいもの。
 
 
 
 
 2009年のC級1組順位戦。北島忠雄六段と広瀬章人五段の一戦。
 図は後手玉に詰みがあるが、ここで▲44金と打ったのが、信じられない底抜けで、△32玉まで広瀬投了。
 ここでは先に▲44銀と打って、金を後に使えば後手玉は簡単に捕まっている。「金はトドメに残せ」のセオリーにも反して、まったくの意味不明な手順だ。
 寄せの名手が見せた、まさに「後に指す手を先に」という【升田のポカ】で、おそらく広瀬は簡単な手順の裏に手が「見えすぎて」つんのめったしまったのだろう。
 
 
 
 敷かれたレールの外側にある何かを見つけられる(そしてそれをまた「論理」で再構築できる)人は、ときにその「ひらめき」に裏切られるのだろうか。
 
 このところ「ヒゲの大先生」のことを書きながら、そんなことを思い出してたら、フト、あれそういや、なんか似たようなこと言ってた人がいたんじゃないかと、脳内のアンテナが反応した。
 
 なんだったかなー、たしか先チャンの本じゃなかったっけなー。
 
 そこで電子書籍で買い直した、先崎学九段のエッセイ集をめくってみると、ありました。
 
 序盤で天才的な創造性を発揮する「あの男」の見せるポカこそが、まさに升田のそれと同じであると、先チャンは言うのである。
 
 
 (続く
 
(その他の将棋記事についてはこちらをどうぞ)
 
 
 
 
 
 
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将棋記事の年表を作ってみた

2022年06月01日 | 将棋・雑談

 将棋記事の年表を作ってみた。

 きっかけは将棋ファンの友人タニマチ君で、友が言うには、

 

 「キミの将棋ネタってさー、とっちらかって読みにくくない?」

 

 続けて曰く、

 

 「時系列とか取り上げる棋士とか、戦型もバラバラで、なーんかまとまりないねんなー」

 

 たしかにその通りで、私の書くものは、今日は羽生さん七冠王フィーバーを取り上げたと思ったら、次は大山名人に飛んで、次は谷川さんの十七世名人獲得とか。

 「花の55年組」の活躍を経由して、中原名人誕生や名著『米長の将棋』とか、なるほど古典がメインかと思えば急に藤井聡太を持ってくるとか、やってることに一貫性がない。

 それはまあ、もともと、こんなもん長くやるとは思わず、そもそも最初の「大ポカ」編がタニマチ君の、

 

 「今、将棋ブームやし、ちょっとひとネタやってみたら?」

 

 という誘いでなんとなく初めて、それが好評だったから「妙手」編までやって、藤井猛九段の「一歩竜王」、本来はそこらあたりで終わるはずだったのだ。

 個人的には、これだけは書いておきたかったというのが、

 

 「羽生-泉の順位戦

 「一歩竜王

 「さばきのアーティスト△24飛

 「大山康晴のしのぎ△54金」。

 

 まあ、将棋なんてだれも読まないし(将棋以外もだれも読んでないけど)、そんなもんで充分かな、と。

 それくらいテキトーな感じで書き始めたら、そこそこアクセスがあったらしく、ならばと続けて書いていたら、そのままなんとなく、ここまで来てしまったわけだ。

 こんなんだから、一貫性なんて望むべくもなく、さらには飽き性なので、テーマをもったものをあつかうと、途中でダレてくる。

 実際、こないだの「中原誠名人」編でも、本来なら気合を入れて「中原サーガ」を書いてみようと、「剃髪の挑戦者」「米中戦争」「谷川浩司との死闘」とかも、いろいろと調べたりしたんだけど、途中でめんどうになって、投げだしてしまったのだ。

 まあ、せっかく昔の本とか読み直してみたから、いつかはやると思いますが(やらないかも)、それくらいに根気がない。

 ウケそうなネタ探して、下調べして、そこから編集して動画とか上げてる人、マジですごいッス。

 こっちなんて、ホントにトイレとか風呂の中でフト思いついたものを、なんの脈絡もなくアップしてるだけだもんなあ。

 当然、マーケティングとかも皆無だし。今活躍してる、人気棋士とかあんま出ないし。

 嗚呼、なんてマイナー野郎なんだ。昨今、女性の将棋ファンも増えているというのに、きっとここには一人もいないに違いない。

 いや、世の中には山根ことみさんのように、『詰むや詰まざるや』に目を輝かせるような変……世俗に迎合せず、しっかりとした自己を確立させた女子もいるのだ。もしかしたらここにも、

 

 「源一きゅんの振り飛車がステキすぎて、夜も眠れません」

 

 みたいな女子高生が、いないとも限らない。

 よっしゃ! ここは一番、奇特……将棋史に興味を持ってくれている女性ファン(妄想の中では関根麻里さん似)に向けて、ひとつ流れをまとめてみよう。

 私はこの棋史制作計画を「セルダン作戦」と命名。主に名人戦とか見てるときに(待ち時間が長いものね)カメの歩みでコツコツやってみたら、一か月以上かかりましたが、なんとか完成。

 改めて昔の記事を並べてみると、

 

 「やっぱ、『羽生世代』を取り上げてるのが多いなー。あとは大山先生か」

 「中原-米長時代が、なぜか少ないなあ。たぶん、それやったら自分が書くより『米長の将棋』読んだほうが早いってなるからやろな。あと、升田先生も。でも、升田先生の妙手は、超有名なものばかりで、今さら感があるねんなー」

 「平成後期が少ないのは、処分した記憶の新しい『将棋世界』を買い直すのに抵抗がある、貧乏性やからなんよな。マジで文化系人間は《断捨離》なんて誘いに乗ったらアカンわ」

 

 などなど、自分の傾向がわかって、なかなかおもしろい。

 ということで、次回からしばらく、わが将棋年表を貼っていきます。事務仕事は苦手なので、間違ってるところがあればご愛敬。

 だいたい10年区切りくらいで、現代までたどり着きます。

 これに関しては、おいおいなんでそんな細切れにするのか。せっかく出来たのなら、どーんと一気に放流した方がインパクトがあっていいのではないか。

 という意見はあるかもしれないが、もちろんそんなことをするわけがないのは、ダラダラ更新する方が、その間、私がサボれて楽チンだからである。

 これを機会に、過去の記事も読んでいただけると、とてもうれしいです、ハイ。

 

 (江戸時代・昭和初期から終戦編

 

 

 

 

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「将棋ワーキャー」のコーナー! inspired by 真空ジェシカのラジオ父ちゃん その2

2021年12月10日 | 将棋・雑談

 真空ジェシカが、M-1グランプリの決勝に進出した。

 ということで、先日(→こちら)はお気に入りのラジオ番組「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」の人気企画、

 

 「ワーキャーのコーナー」

 

 これの将棋バージョンを考えてみたわけだが、こういうのは、パーティーゲーム感覚で、仲間とキャッキャやった方が、より楽しめるもの。

 ということで、さっそく将棋ファンの友人ウエマチ君に声をかけてみると、彼は先日の記事を見るなり、

 

 「こんなラインアップ、だれがわかるねん!」

 

 友によれば、私の出した名前は一般性を欠いており、最近のファンはポカーンであろうと。

 曰く、塚田正夫なんて今の子はだれも知らんとか(失礼な!)、ガダルカナルってなんやねんとか(団鬼六先生の本によると戦時中は「55の位は天王山」を「55の位はガダルカナル」と言っていたとか)要は「マニアックすぎ」とのダメ出しを受けまくった。

 なんだか話は、トガっているせいで、テレビなどで結果を出せない若手芸人に対する、先輩の説教のようになってきたが、そこから2人で、

 

 天野宗歩坂田三吉はワーキャーだが、小野五平は玄人受け」

 「花田長太郎関根金次郎は玄人受けだが、土居市太郎に関しては【土居矢倉】がブレイクしたから、もはやワーキャー」

 

 などなど議論は紛糾したが、それでもなんとか意見をまとめ、少しばかり修正したみた。

 
 それが、

 

 ■歴代実力制名人

 ワーキャー名人=渡辺明

 玄人受け名人=丸山忠久

 

 ■タイトル戦

 ワーキャータイトル戦=名人戦

 玄人受けタイトル戦=十段戦

 

 ■一般棋戦優勝

 ワーキャー棋戦優勝=NHK杯選手権者

 玄人受け棋戦優勝=タイトル戦昇格前の叡王戦

 

 ■順位戦

 ワーキャー順位戦最終局=将棋界の一番長い日

 玄人受け順位戦最終局=降級争い 

 

 ■高学歴棋士

 ワーキャー高学歴棋士=中村太地

 玄人受け高学歴棋士=北浜健介

 

 

 ■攻め将棋

 ワーキャー攻め将棋=戸辺誠

 玄人受け攻め将棋=中村真梨花

 

 ■受け将棋

 ワーキャー受け将棋=木村一基

 玄人受け受け将棋=渡辺大夢

 

 ■新手メーカー

 ワーキャー新手・新戦法メーカー=山崎隆之

 玄人受け新手・新戦法メーカー=阿部健治郎

 

 ■人気振り飛車党棋士

 ワーキャーあこがれの振り飛車党棋士=久保利明

 玄人受けあこがれの振り飛車党棋士=中田功

 

 ■中飛車

 ワーキャー中飛車=ゴキゲン中飛車

 玄人受け中飛車=ツノ銀中飛車

 

 

 ■矢倉囲い

 ワーキャー矢倉囲い=金矢倉

 玄人受け矢倉囲い=銀矢倉

 

 ■格言

 ワーキャー格言=「歩のない将棋は負け将棋」

 玄人受け格言=「銀は千鳥に使え」

 

 ■桂使いの名手

 ワーキャー桂使いの名手=三枚堂達也

 玄人受け桂使いの名手=中原誠

 

 ■竜王戦ドリーム

 ワーキャー竜王戦ドリーム=梶浦宏孝

 玄人受け竜王戦ドリーム=真田圭一

 

 こんな感じかなあ。

 せいぜい頭ひねって修正してみましたが、ウエマチ君、どんなもんでしょ?

 

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「将棋ワーキャー」のコーナー! inspired by 真空ジェシカのラジオ父ちゃん

2021年12月08日 | 将棋・雑談

 真空ジェシカが、M-1グランプリの決勝に進出した。

 私は昔からラジオが好きで、radikoやYouTubeが充実した今は関西以外の番組やネットラジオなども楽しめるようになって、これが実にすばらしい。

 ダウンタウンの『ヤングタウン木曜日』や『誠のサイキック青年団』など、深夜放送を熱心に録音していた学生時代のような熱が再燃しているところである。

 最近だとお笑いのラジオからネットにあがったネタ動画に移行して、そこからファンになるケースが多く、

 

 『ラフターナイト』→『空気階段の踊り場』→『キングオブコント優勝』

 

 という流れで大ブレイクした空気階段など、典型的なそのパターン。

 今では、すっかり売れっ子になった2人には、

 

 「まあな、水川と白鳥も、今はああやって活躍しとるけど、俺が育てたようなもんや」

 

 なんて鼻高々だが、真空ジェシカも『ラフターナイト』→『ギガラジオ』からのM-1で、完全にそのラインに乗っかってきた。

 これはもう、ぜひとも本番で爆発してもらうしかないわけで、決勝にむけて、大いに盛り上がっているところだ。

 そんな真空ジェシカも、自分たちでやってる『ギガラジオ』以外に、ちゃんとした(?)ラジオ番組も持っている。

 それが、TBSラジオでやってた『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』で、今はポッドキャストに移行しているが、『踊り場』と同じく、「ラフターナイト」優勝からの抜擢だから、これはたいしたものなのである。

 ふつうより、メールコーナーがやたら多めとか、独特の空気感を持った放送が味なのだが、中でもゆかいのがリスナーからメールで募集する

 

 「ワーキャーのコーナー」

 

 これは世にある、神羅万象あらゆるものを、

 

 「ワーキャー」

 「玄人受け」

 

 に分けてしまうというもの。

 「ワーキャー」とは要するに「ベタ」「素人さん向け」で、番組ホームページで出ている例は、

 


 ワーキャーセンター試験科目「英語」

 玄人受けセンター試験科目「倫理」

 


 元受験生からすると、玄人受けは「ドイツ語」。

 社会なら「マイナー科目の典型例」としてよく出てきて、理系学生に人気の(出題範囲がせまいため)倫理より、そこにもかかりにくい「地理」の方がいいと思うが、このあたりは議論が紛糾しそう。

 そんな私も、将棋に関してはファン歴も長く、多少は「玄人」と自負しているところもある。

 そこで今回は、来年には売れっ子になっているだろう、真空ジェシカに乗っかり企画として、棋界の「ワーキャー」と「玄人受け」を考えてみたい。

 それではガクさん、お願いします。

 

 「将棋ワーキャーのコーナー!」

 

 ■歴代実力制名人

 ワーキャー名人=渡辺明

 玄人受け名人=塚田正夫

 

 ■タイトル戦

 ワーキャータイトル戦=名人戦

 玄人受けタイトル戦=九段戦

 

 ■一般棋戦優勝

 ワーキャー棋戦優勝=NHK杯選手権者

 玄人受け棋戦優勝=オールスター勝ち抜き戦5連勝

 

 ■順位戦

 ワーキャー順位戦最終局=将棋界の一番長い日

 玄人受け順位戦最終局=指し分け2回で降級点消去 

 

 ■高学歴棋士

 ワーキャー高学歴棋士=中村太地

 玄人受け高学歴棋士=加藤治郎

 

 

 ■攻め将棋

 ワーキャー攻め将棋=戸辺誠

 玄人受け攻め将棋=高島一岐代

 

 ■受け将棋

 ワーキャー受け将棋=木村一基

 玄人受け受け将棋=神谷広志

 

 ■新手メーカー

 ワーキャー新手・新戦法メーカー=山崎隆之

 玄人受け新手・新戦法メーカー=山田道美

 

 ■人気振り飛車党棋士

 ワーキャーあこがれの振り飛車党棋士=久保利明

 玄人受けあこがれの振り飛車党棋士=石川陽生

 

 ■中飛車

 ワーキャー中飛車=ゴキゲン中飛車

 玄人受け中飛車=英ちゃん流中飛車

 

 

 ■矢倉囲い

 ワーキャー矢倉囲い=金矢倉

 玄人受け矢倉囲い=流れ矢倉

 

 ■格言

 ワーキャー格言=「歩のない将棋は負け将棋」

 玄人受け格言=「55の位はガダルカナル」

 

 ■桂使いの名手

 ワーキャー桂使いの名手=三枚堂達也

 玄人受け桂使いの名手=富沢幹雄

 

 ■竜王戦ドリーム

 ワーキャー竜王戦ドリーム=梶浦宏孝

 玄人受け竜王戦ドリーム=伊奈祐介

 

 こういうのは、お題があれば、いくらでも楽しめそう。

 やってみると、ちょっとした空き時間なんかのヒマつぶしに最適なので、将棋ファンの皆様はお試しあれ。

 

 (続く→こちら

 

 

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「中原誠の名人防衛は【詐欺師の手口】」と米長邦雄は言い、高橋道雄は「違う」と応えた

2021年11月19日 | 将棋・雑談

 「おいおい、【詐欺師の手口】って、なんやねん」


 この間、そんなLINEを送ってきたのは、友人フカリバシ君であった。

 先日、中原誠名人が見せた、執念ともいえる名人防衛劇を紹介したが(→こちら)、友はそこで米長邦雄九段が口にした、


 「詐欺師の手口


 という言葉にひっかかり、それってなんじゃらほいと、連絡してきたのだ。

 こちらとしては、藤井聡太三冠竜王も奪取、「最年少四冠王」で大盛りあがり、でも関西人としてはとよぴー無冠で、素直にはしゃげないなあ……。

 ……みたいなことを書こうとしてたうえに、さすが昔の話で資料も残ってないので、ここは華麗にスルーしたかったが、自分で書いたものはしょうがない。

 ということで、当時のことを思い出しながら少し説明してみたい。

 「詐欺師の手口」とは、この名人戦を総括した米長が、中原の見せた勝負術を評した言葉。

 1992年、第50期名人戦で、高橋道雄九段の挑戦を受けた中原は、1勝3敗という崖っぷちから、3連勝で奇跡の逆転防衛。

 将棋の内容的には、高橋が押していたため、これはスコア以上の大逆転感があったが、ここにひとつ、このシリーズを語るアヤがあった。

 決着後の評論観戦記などで、こう書かれることが多かったからだ。

 


 「高橋は、苦手の横歩取りをぶつけられたせいで、名人になれなかった」


 

 たしかに、結果だけ見れば、そういうことはできる。

 高橋は矢倉3勝したが、相掛かり横歩取りには1勝もできず、シリーズも勝つことができなかった。

 流れ的にも、データ的にも、それは間違っていない。

 これを後押ししたのに、米長の観戦記があり、そこで出たのがこの言葉なのだ。

 他人の、それも名人の将棋をつかまえて詐欺よばわりとは、ずいぶんと剣呑だが、そこで米長は高橋の将棋を

 


 「田舎から出てきた、働き者で実直なお父さん」


 

 に例えて話を進める。

 今期の名人戦は、高橋道雄九段が中原誠名人に、

 


 「矢倉で決着をつけましょう」


 

 と提案し、名人もそれに乗ったと。

 ところが、名人の方はいざ自分が負けそうになると、

 


 「矢倉で決めるとか、それは口約束に過ぎない」


 

お父さんが苦手とする空中戦法を駆使して攪乱。

 そのまま、上着のポケットから財布をスるようにして(と米長は例えていた)、

 

 「矢倉で名人になる」

 

 と決意していたお父さんとの紳士協定を、ごまかしてしまったと。

 おしゃべりや文章が、うまい人にありがちな、


 「気の利いたことを言おうとして、かえってわかりにくくなる」


 という、若干めんどくさい言い回しだが、要するに、

 


 「高橋君の将棋はすばらしかった。相手が堂々と戦ってくれば、君が名人だった」


 

 弟弟子をはげまし、中原には、

 


 「アンタ、名人とか言うたかって、結局は矢倉から逃げてのことですやん」 


 

 そう苦言を呈し、さらには、

 


 「でも、それでキッチリ勝ったアンタは、やっぱすごいですけどな」


 

 ついでに称賛もするという、やはりここでも

 

 矢倉は将棋の純文学

 「相矢倉戦を制してこそ、真の王者たりうる」

 

 との「矢倉原理主義」が顔をのぞかせるという、なんとも持って回った一文だったのだ。

 さすがに当時の『将棋マガジン』は手元にないから、間違ってるところもあるかもしれないけど、だいたいのニュアンスはこういうものであった。

 『米長の将棋 完全版』の2巻に、米長が名人になった期のA級順位戦(中原-高橋戦の翌期)を自戦解説している章があるのだが、そこで少しだけそのことに触れている。

 

 

 


 「なるほどねえ」というところで、一応それが「結論」ということになったのだが、話はここで終わらなかった。

 これに、高橋道雄が反論したのだ。

 たしか、その一年後に今度は米長挑戦者になったときだったと記憶するが、自分のことをフォローしてくれた兄弟子には申し訳ないけど、それはちょっと違うと。

 自分は横歩取りは苦手どころか、むしろああいう、飛車角桂で軽く飛びかかっていくような将棋は好みだし、得意でもあると。

 先輩に対して静かな口調ではあるが、ハッキリと反論。言うもんである。

 最初これを読んだときは、


 「まあ、負けてくやしいもんな。【苦手】【弱点】とか決めつけられて、ちょっと言い返したくもなりますわなあ」


 なんて「負け惜しみ」と思いこんでいたのだが、その後、高橋道雄は横歩取りの革命であった


 「中座流△85飛車戦法」


 が出てきたとき、これを見事にマスターしてA級に返り咲いたこともあった。

 

2008年、第67期B級1組順位戦の最終局。

8勝3敗で自力昇級の目を持った高橋と、キャンセル待ち3番手ながら(高橋との直接対決のため実質2番手)チャンスがある行方尚史八段との一戦。

大一番は横歩取りから難解な空中戦が展開されるも、高橋が制勝。

このころはこの形で勝ち星を稼ぎ、高橋にとってはまさに、A級復帰の原動力となったドル箱戦法であった。

 

 

 

  

 たしかに、高橋は横歩取りが「苦手」なんかではなかった。

 いや、もしかしたら若いときはそうだったかもしれないが、たとえ後付けでも、

 「有無言わさぬ結果

 で応えられたら、それには敬意を表するしかない。

 わかったようなことを言わないでほしい。オレは【苦手】をぶつけられたんじゃない。セコい手で撹乱されたわけでもない

 相掛かり横歩取りも、堂々と戦って敗れただけだ、と。

 高橋道雄の訴える声が、聞こえるようではないか。

 私だったら、すぐ乗っかって、

 

 「そーなんスよ、ヨネ兄さん! あの人、マジでヤバいっしょ。矢倉やらんとか、名人のくせにサブいですわー。逃げまくりで、棋士の誇りとか、ないんスかね?」

 

 とか絶対言っちゃうよなあ。

 だからまあ、あの七番勝負はノーカンというか「実質名人」はもうオレでええやんとか、Twitterとかでブツブツ言うぜ。

 だって、矢倉では勝ったもん! 

 それとくらべて、なんてプライドなのか……。

 とかなんとか、別に自分が負けたわけでもないのに、我が身を恥じたものであった。

 私は自分に闘争心がないせいか、こういう若者の強がりのような反応を、どこかまぶしく思えてしまう。

 だから、当時のトップ棋士の矢倉へのこだわりと、高橋道雄の意地とセットで、なんとなくだが今でもおぼえているのだ。

 

 

 

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読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その4 逆転したら、お茶を飲んで深呼吸!

2021年09月14日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで、定跡もおぼえず、詰将棋も解かず二段になれた私。

 その武器は

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 というか、「逃げ切り」がヘタなので「逆転でしか勝てない」という、かたよったスタイルなのだが、ここまで不利になったら、

 

 「とりあえず、敵陣にイヤミつけとけ」

 「とりあえず、玉を固めとけ」

 「とりあえず、成駒作って寄せていけ」

 

 これをやるべしという、3つの実戦的挽回術を紹介した。

 そんなアバウトなもんでいけるんかいなと、いぶかしむ人もいるかもしれないが、実際私はこのやり方で二段に、それも「あと1勝三段」(←それはもういいよ!)という二段になれたのだから、それなりの効果はあるはず。

 なにより、この3つをやっておくと決めておけば、いざ苦しくなったときに頭を悩まさなくてもよく、

 

 「読まないで指せる」

 

 これが大きい。

 集中力は、最後の最後にとっておく。

 また、これでいざ逆転となると

 

 「敵陣が乱れている」

 「自玉は固い」

 「成駒がたくさんで相手玉を俗手で寄せられる」

 

 となるわけで、かなり「勝ちやすい」のだ。

 そこで今回は、こう言った具体的な要素を押さえたうえで、勝つために大事な心構えを確認しておきたい。

 

 心構え その1

 

 「不利な局面でいちいち考えない」

 

 将棋において、先取点を取られると勝ちにくいのは、そのリードされたこともさることながら、

 

 「苦しい局面を、じっと考えなければいけない」

 

 このストレスによる疲弊があるから。

 駒損で王様も薄く大駒も働いてない、みたいな評価値マイナス1000くらいの局面を、じっと見つめてみよう。

 いい手は見えないし、読んでも読んでも光明は見えないしで、グッタリするどころか、下手すると投げてしまう人もいる。

 こういうときはマジになってもしゃあないので、いい意味で「いい加減」に指す。

 

 「負けた、負けたと言いながら」

 

 なんて人もいるように、「どうせ不利なんだから」と開き直って勢いよく指す。

 

 

1991年、第58期棋聖戦5番勝負の第4局。
屋敷伸之棋聖と、南芳一王将の一戦。
南が2-1で王手をかけ、この一局も中盤で必勝形になるが、そこから屋敷が居直ったような「16手連続ノータイム指し」を披露。
それに幻惑されたのか、ここで南が▲33銀と打ったのが大悪手で(冷静に▲46銀が正解)、△48歩、▲同飛、△37歩成で一気に差が縮まり、そのまま屋敷が大逆転勝利。

 

 

 負けてるときはヘラヘラしろ。

 ネット将棋なら、相手が見えないから、一回あくびでもするか、鼻歌を歌うのもいい。

 とにかく、肩の力を抜く。

 こういうとき、深く考えなくても手を選べる、前回までの「イヤミ玉カタ成駒」の「三原則」が役に立つのだ。

 2008年の「永世竜王シリーズ」で、いきなり3連敗をくらった渡辺明竜王のように、

 

 「どうにでもしてくれ」

 

 とやれば、意外に相手が「勝てるぞ」と固くなり、乱れてくれたりするのだ(「永世七冠」をかけた「100年に1度の大勝負」は→こちら)。

 必敗のところを、「三原則」を使ってねばりまくり、相手がもてあまし、あせり出してくればしめたもの

 口笛でも吹きながら、あとは「GO」のサイン(相手が決定的に「やらかす」瞬間)を待つ。

 逆転勝ちするコツは、勢いを疑わないこと、いい意味でテキトーに指すこと。

 そしてなにより「詰まされるまで投げない」根性図々しさである。

 「テキトー」と「根性」は矛盾するようだが、やってみると不思議なほど、使い分けることができます。

 

 「最初はテキトーで、【負けた負けた】と言いながら、無欲で喰いつく」

   ↓

 「だんだん差が詰まってくるうちに、テンションが上がってきて、勝負手をひねり出す気力もわいてくる」

   

 「逆転模様の終盤は元気百倍で、自然と集中力もMAXに!」

 

 という流れが理想。合言葉は、

 「角損くらいなら互角」。

 どうせ負けなんだから、失うものなどないのだ。

 米長邦雄永世棋聖鈴木大介九段など、

 

 「序中盤は少しくらい不利な方が力が出る」

 

 とおっしゃっていたが、その気持ちで戦うべし。

 

 心構え その2

 

 「逆転した後は、しっかりと時間を使え」

 

 これは当たり前のことだが、勝負で高まっているときには、つい軽視しがちだ。

 根性が報われて、負け戦を「どっせい!」とばかりにひっくり返したとき、そこで一回すわり直すのが大事。

 ここまでは居直りと時間攻めなどもふくめて、パシパシとばかりにノータイム指しに近いことをしてきたかもしれないが、いったん逆転となったら、そこでギアを入れ替えるべし。

 これが簡単なようで案外できないことも多く、むしろ逆った瞬間に、

 

 「やったラッキー」

 「これで勝てる」

 

 浮足立って、時間があるのについ手拍子で指してしまったり、浮かれた頭で、地に足のついてないまま局面を進めてしまったりする。

 これでは逆効果どころか、今まで自分がやってきたことを、そのまま自分に返していることになる。

 ひっくり返すために、あれこれ手を尽くして相手にゆさぶりをかけているのに、勝ちが見えたとたん、自分の心がコントロールを失っては本末転倒

 不思議なことに、将棋というのは相手が悪手を指したとたんに、

 

 「しめた!」

 

 とばかりに、すぐ指してしまいたくなる。

 時間はあるし、待ったもできないのに、なぜ、そんなことになってしまうのか。

 謎ではあるが、これは本当に困った「あるある」なのである。

 将棋というのは

 

 「最後に悪手を指した方が負けるゲーム」

 

 となれば、相手が悪手を指したところからは、

 

 「いかにこちらが、悪い手を指さないか」

 

 にシフトしなければならない。

 こういうとき、時間をしっかり使うというのが、一番大きな味方なのである。

 

 

2002年、第60期A級順位戦。藤井猛九段と、森内俊之八段の一戦。
勝てば名人挑戦という森内は、すべて決まったこの局面で、手を止める。
1分を費やして、ゆっくりとお茶を飲み、△29金と指して勝った。

 

 

 とにかく、有利になったら一回、手を止める

 こうなると盤面のみならず、メンタル面でもアドバンテージを握れるわけで、あとは落ち着いて料理すればよい。

 コツは、まずお茶を飲む。

 ウェットティッシュで顔と首の後ろをぬぐう。時間があるなら、トイレに立つ。

 ほほを軽くたたく、ちょっと立って体操でもする、頭にアイスノンを乗せる。

 手拍子で指さないように、マウスやスマホから、いったん手を放して後ろに回し、お約束だが目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。

 全部は無理としても、そのひとつを「ルーティン」にするといい。

 かつて、大名人だった中原誠十六世名人は相手が悪手を指した瞬間、すかさずトイレに立つという習慣があった。

 やはり気を静め、手拍子で指してしまわないようにすることと同時に、相手に反省をうながす効果も、あったという。

 悪手というのは、不思議なことに、指した瞬間!」となることが多い。

 中原に去られ、残された対戦相手は、自らのミスと盤の前で一人対峙しなければならない。

 実につらい時間である。

 これにより、着手したとたん、中原が席を立つのは、

 

 「お前は今、とりかえしのつかない失敗をしたんだぞ」

 

 という「死の宣告」の役割を果たすこととなり、多くのトップ棋士たちがをへし折られてきた。

 今でいえば、羽生善治九段が勝ちを読み切ったとき見せる、手の震えと似たようなところがあったわけだが、ともかくも、

 

 「チャンスで、すぐに指さない」

 

 というのは、いろんな意味で有効である証。

 逆転するまでは「勢い」が大事だが、勝ちになったら一転「平常心」こそがモノを言う。

 そうしてから、

 

 「こうなったら、逃がさんでえ」

 

 不敵に笑って、再度盤面に没頭すれば、なにも考えないより、相当に再逆転しにくくなるはず。

 これは絶対、間違いない。お試しあれ。

 

 (詰将棋との向き合い方編に続く→こちら

 

 

 

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読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その3 成駒作って、にじり寄れ!

2021年09月12日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べと、ネット将棋だけで、定跡もおぼえず詰将棋も解かずに「あと1勝で三段」だった二段になれた私。

 その武器は

 

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 

 であり、前回はそのコツのひとつ、

 

 「とにかく玉を固めとけ」

 

 というのを紹介したが、今回伝えたいのがこちら。


 
 ■逆転のコツ その3

 

 「とりあえず、成駒寄せとけ」

 

 将棋の不利な局面で、

 

 「駒損で、攻めが切れ筋におちいる」

 

 というのがある。

 私など序盤のかけ引きなんかが、めんどくさいタイプなので、なにも考えずに、どーんと仕掛けて行ったりする悪癖がある。

 これがまた攻めの下手な自分が、うまくやれるわけもないので、たいていが、

 

 「大きな駒交換があって、おちついたところで計算したら銀損で、一体なにをやってるのか」

 

 みたいなことに、なりがちなのだ。どんだけ見切り発車やねん。

 で、私の場合「ここからが本番」になるのだが(←いや、そのにもっと考えろよ!)、駒損だと困るのが、とにかく戦力が足りないこと。

 まともな攻め合いでは勝ち目がないので、こういうとき発動させるべき「クレイヴァリング作戦」により、とりあえず成駒を作るのが良い。

 基本はをタラしての「と金」作りで、

 

 「と金は金と同じで金以上」

 

 という格言通り、これが一枚加わるだけで、一気に頼もしさを感じる。

 特に穴熊はがんばって、と金でを一枚けずれたら、相当に「見えてくる」形だ。

 残念ながら歩切れだったり、いいところに立つ筋がなくても、をひっくり返して攻める。
 
 振り飛車なら遊んでいる桂馬を▲85桂から▲73桂成とか、場合によってはでなく「をたらす」なんてのもありだ。

 

 

1996年の第54期C級2組順位戦。武市三郎五段と、勝又清和四段の一戦。
▲72歩とタラしたのが、「こんな手で幸せになったのは、大山先生しかない」と言われた手。
だが、この歩はのちに▲71歩成となり、▲72と、▲73と、と桂馬を取る活躍を見せ、武市はその桂を好機に使って勝利。
『対局日誌』でこの将棋を取り上げた河口俊彦八段は、
「この局面で筋は▲46歩、△同歩、▲45歩だが、きれいな手はかえって危ないという面もある」

 

 

 え? 筋が悪い? あとで棋譜を見た人に怒られそう

 さもあろう。

 だが、こっちは現実に今、局面が不利なのである。こういうときは

 「なりふりかまわず、貼りついていく」

 これが大事なのである。

 カッコつけるより、とにかく嫌がらせをする。この精神で戦う。

 そのためには、「成駒を作って寄せていく」というのは、なかなかのメソッドなのだ。

 元手がかからないうえに、成桂と金がジリジリせまっていくと、これが相手に相当なプレッシャー

 

 

 

 1993年のB級1組順位戦。加藤一二三九段と森安秀光九段の一戦。

 加藤はA級昇級、森安も消化試合ながら、勝てば兄のように慕っている内藤國雄九段にチャンスが回ってくるとあって、おたがい負けられない大一番。

 先手が指しやすそうながら、次の手がむずかしいと言われる中、▲11にいたと金を▲12と(!)、と引いたのが鍛えの入った名手。

 以下、先手は▲13と、▲14と、▲24と、とパクパク駒を取り、振り飛車にプレッシャーをかける。

 あせらされる森安は暴れていくが、加藤は得した駒で▲39歩、▲67銀と面倒を見て、最後は端からラッシュをかけ、4度目(!)のA級復帰に成功。 

 

 

 さらには、こちらが

 

 「むずかしいことを考えなくていい」

 

 というのも大きい。

 有利な局面では、むこうが「決め手」を発見しなければいけないが、こっちはただ成駒を動かして「あなたまかせ」でいいのだから、なものである。

 敵の猛爆を、防空壕の中で耐え忍びながら、それでもジリジリと忍び寄っていく。

 相手が寄せそこなえば、その瞬間に、と金ガブリとかみつけばいいのだ。

 成駒で金銀ボロボロはがせる形になると、なにも考えずに寄せることができるから、詰将棋をやらない、穴だらけの終盤でも簡単に勝てる。

 こうやって、相手が必死で手を読む中、こっちはノータイム▲73桂成▲63成桂▲53成桂▲42成桂▲32成桂と、ひたすらなにも考えずにすり寄っていく。

 そうして、むこうが28秒58秒)くらいまでギリギリ考えてるのを見ながら、

 

 「おー、あせってる、あせってる。こら決め手がありそうで、なさそうで、悩んでますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらずスマホやタブレットの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (続く→こちら

 

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読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その2 玉を固めてチャンスを待て!

2021年09月10日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで、定跡もおぼえず詰将棋も解かずに「あと1勝で三段」だった二段になれた私。

 その武器は

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 であり、前回はそのコツのひとつ、

 「効いてるかどうかはわからんが、とりあえずハッタリで敵陣イヤミをつけろ」

 というのを紹介したが、今回伝えたいのがこちら。


 
 ■逆転のコツ その2

 「とにかく、玉を固めとけ」。

 将棋というのは言うまでもなく、王様が詰まされると負けるゲームである。

 となれば、それを守るというのは一番大事な作業であり、特に不利な局面では、いかに1手でも2手でも延命できるか。

 そのテクニックが、試されるのである。

 まず基本的なのが「金銀を埋めまくる」。

 泥臭く、決してカッコいいとはいえないが、やはりここはなりふり構わず行きたい。

 カナ駒がなければ、でもでも、とにかく玉まわりのスキマをふさぐ。

 ここに発動された「決号作戦」により、陥落寸前の玉でも、投げずにペタペタ駒を張っていると、

 「これで、案外ねばっている」

 というケースも結構あったりするのだ。

 振り飛車なら、いいタイミングで▲59歩の「金底の歩」とか。

 矢倉銀冠で飛車を打ちこまれたとき「▲79香(▲39香)」とか、△86歩、▲同歩を利かされた矢倉なら「▲87銀」と埋めるとか、穴熊でも▲39歩底歩が固い。

 

 

 

1995年、第54期C級2組順位戦。先崎学六段と、藤原直哉五段の一戦。
後手が大苦戦ながら、歩を3枚バリケードにして、必死の防戦。
吹けば飛ぶようなバラックの城だが、藤原に痛い見落としが出て、先崎が執念の逆転勝ち。

 

 

 とにかく飛車でもでも埋めまくる。

 「もったいない」

 「そこで駒を使うと攻め味がなくなる」

 と言われるかもしれないが、とにかく「駒の壁」を形成しておけば、容易には負けない。

 勝ち味が少なくても、1手でも手数を伸ばせば

 「相手が大ポカをするチャンスが1ターン増える

 プロですら、大差の将棋でも「早く投げてくれないかな」と考えるというのだから、どんな形でも

 「早く終わらせない」

 ことは有力な戦術である。

 私なども、そこらにあるものをすべて投げつけて、駄々っ子のような粘着でねばりまくる様は、米長泥沼流ならぬ、

 「スターリングラード流

 と恐れられ(あきれられ?)たものだが、将棋で、特に同レベルの棋力がぶつかれば、最後に大事なのは結局「根性」であり、その意味で私のファイトスタイルは旧日本軍の正当な後継者であった。

 郷田真隆九段も、言ってたではないか。

 

 「将棋は情念のゲーム」 

 

 すごい大差でも、「本土決戦」の精神で戦えば、予想以上にまくれるものです。投げたらアカン。 

 ちなみに、テキトーと根性は相反するようで、意外と両立できます。これ本当。

 埋める駒がないときは、「玉の早逃げ」を考える。

 よく

 

 「さすがに、八手も得しないよね」

 

 といわれる早逃げだが、いいタイミングで発動させると思いのほか効果があるし、相手の意表をつける。

 なにより、いかにも玄人っぽい指しまわしなので、むこうが

 

 「コイツ、けっこうやるやんけ」

 

 という気分にさせられるかもしれない。

 オススメは「米長玉」で、ガッと攻めこまれたときに、サッと指をすべらすように▲98玉と寄ると、なにやら五条大橋で弁慶を翻弄した牛若丸のようでカッコいい。

 実際、「羽生世代」の棋士たちや「受ける青春」の異名を取った中村修九段が若手時代、終盤でこの「▲98玉」や「▲97玉」を発動させ、土壇場で体を入れ替えるという将棋をよく見たもの。

 

 

 

1993年、第34期王位戦第3局。
郷田真隆王位と、羽生善治四冠との一戦。
後手が指せそうな局面で、すっと寄った▲98玉の「米長玉」が、羽生らしい手渡し。
これで玉が遠くなったうえに、いつでも▲88金打で固めるねばりも効く。
実戦も、ここから羽生が逆転勝ち。

 

 あと「中段玉」というのもあるが、これはやや上級者向きである。

 玉の上部脱出は、相手をあせらせる有効な手段だが、いざ自玉が裸で中段に踊りだすと、指し手がむずかしい

 

 「中段玉寄せにくし」

 

 これは本当だが、実は玉のダンシングはやっているほうも、目がチカチカするのも事実。

 手がまったく見えないし、流れ弾にいつ当たるかわからないし、なにより「読まずに指す」スタイルには存外向かない。

 

 

2012年、第25期竜王戦7番勝負の第3局。渡辺明竜王と、丸山忠久九段の一戦。
入玉形の熱戦だが、丸山の時間に追われて打った、▲14角が敗着となった。
ここでは▲47角なら、先手が勝ちだったようだが、こういう形は攻め方も受け方もゴチャゴチャして、正解を選ぶのは至難。

 

 

 なので中段玉は敵陣にと金など成駒があって、かなり入玉できそうなときなら一目散に目指すべきだが、そうでないなら

 

 「中段玉行くぞ」

 

 という姿勢を見せて、プレッシャーをかけるくらいがいいと思う。

 とにかく、時間をかせいで相手に

 

 「一手でも、多く指させる」

 

 ことが秘訣で、

 

 「おー、もてあましてる、もてあましてる。金銀埋めまくって《コイツ、筋悪いなあ》ってイラ立ってますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらず、スマホやパソコンの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (続く→こちら

 

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読まずに勝てる(?)将棋必勝法 不利な局面における、正しい嫌がらせ講座

2021年09月08日 | 将棋・雑談

 「ゴロゴロ寝ながら、初段になりたい!」

 

 という、ダメ人……費用対効果を重視する、経済観念にすぐれた将棋ファンのため、同じような「グズグズ初段」だった私が、その棋歴を思い出し、アドバイスを送っている。

 そのラインアップは、

 

 ガチすぎ道場編こちら

 高校詰将棋青春篇こちら

 ネット将棋でブレイク編こちら

 棋譜並べの方法編こちら

 まずは「3級」を目指そう編こちら

 

 といったところで、定跡本も読まず、詰将棋も解かず、

 

 「そんないいかげんなやり方で二段に、それもあと1勝三段の二段になれたな」

 

 あきれる読者諸兄も、おられるかもしれない。

 たしかに

 

 「ダラダラ棋譜並べして、あとはテキトーに実戦を指しただけ」

 

 と聞けば単なるナマケモノのようだが、実はこの

 

 「テキトーに指す」

 

 というのが、私にとってひとつ、勝つコツのようなものであった。

 もちろん、ふつうにダラけたり、無気力に指すのは論外だがいい意味で」テキトーというのは大事。

 これまで再三書いてきたが、私の将棋というのは前半に大量リードをゆるしても、そこから勝負手根性で追い上げるという、典型的な「逆転勝ち」タイプ。

 このスタイルで大事なのは、

 

 「不利な局面でヘラヘラしていられる」

 

 それには「テキトー」は不真面目どころか、すこぶる大きな武器になるのだ。

 そこで今回はナマケモノの見る、アマチュア級位者から、初段レベルの逆転術を紹介したい。

 キーワードは「手を読まずに勝つ」。

 それではどうぞ。

 

 ■逆転のコツその1

 

 「とりあえず、イヤミつけとけ」

 

 将棋で不利になると、ふつうの手を指していては勝てるものでなく、相手に悪手を指してもらうのが必須になる。

 とはいえアマチュアでも、3級くらいから上になると、基本的な手筋や詰みの形はマスターしているもの。

 なので、わかりやすく「筋に入る」形になると、なかなかミスなど期待できないものだ。

 では、どうするのかと問うならば、これはもう筋の見えにくい、ゴチャゴチャした形に持って行って、プレッシャーをかけるのが一番。

 ここに発動された「オイレンシュピーゲル作戦」により、まずは何も考えずに、端歩など突き捨ててみる。

 ▲95歩、△同歩、▲93歩とか(矢倉なら▲15歩から▲13歩)、とにかく嫌味をつける。

 

 

2016年、マイナビ女子オープン第1局。
加藤桃子女王と室谷由紀女流二段との一戦。
先手優勢の局面から、端歩を突くのが定番の嫌がらせ。
その後も室谷必勝の局面が続くが、加藤の根性もすさまじく、最後は逆転してしまった。

 

 

 美濃囲い相手なら、▲62歩の頭に一発タタく。

 

 

 1997年の第56期C級1組順位戦。先崎学六段と、鈴木大介五段の将棋。

 6連勝同士の大一番は、先崎が優位に進め、図の▲62歩が手筋一閃。

 どう応じても美濃囲いが乱れて味が悪い。

 鈴木大介は△71金とかわすが、▲69飛が狙いすました一撃で、△76金に▲65飛と切り飛ばし、△同角に▲45飛と飛車が大海にさばけて先手優勢。

 

 

 ▲74歩コビンをいじくる。▲86桂と設置して、▲74桂打の「つなぎ桂」をねらう。

 逆に振り飛車は、とにかく▲26香と設置して、舟囲い△23の地点をねらう。

 矢倉なら▲24歩と突き捨てるとか、▲41銀とかけるとか。

 

 

 

 1977年の王位戦。加藤一二三棋王と、米長邦雄八段の一戦。

 形勢不利な局面で、米長の放った▲24歩が「一本、筋」という突き捨て。

 △同歩は▲25歩のツギ歩があるから、加藤は△同銀。

 こうして中央がうすくなったところで、▲45歩とするのが、リズムのいいゆさぶり。

 

 ▲23歩と一発タタくとか、▲22歩△同金(銀)でにする。

 穴熊ならやはり▲14歩、△同歩、▲13歩、△同香、▲25桂とか。▲32歩の頭にタタくとか、いきなり▲13桂成のダイブとか。

 なんかとにかく、相手の玉形を乱しておく。これが効きます。

 

 

2018年の叡王戦。石井健太郎五段と石田直裕五段の一戦。

穴熊相手にはとにもかくにも、まずは端から手をつける。

ここにイヤミがあるだけで、穴熊側もなかなかなストレスだし、この局面だと△44にいる角のニラミも頼もしい。

 

 

 え? ▲95歩、△同歩、▲93歩に△同香とか素直に応じられて、次の攻めがないって?

 いえいえ、それでいいんです。

 こういうのはズバリ「ハッタリ」。

 さらに言えばその場のノリ雰囲気である。

 これといったねらいがなくとも、やられた方はイヤなもの。

 みなさんだって、の立場だと、つぶされることはないとわかっても、結構悩むでしょ?

 矢倉△86歩と突かれたときに、▲同歩▲同銀かは、居飛車の永遠のテーマ。

 

 

1953年第12期名人戦第5局。大山康晴名人と升田幸三八段の一戦。
中盤の難所で、△86歩、▲同歩、△87歩が居飛車党なら必修の手筋。
▲同金は金が上ずるうえに、将来の△95桂を警戒しながら戦わなければならないが、放っておくのもイヤミで、玉も狭すぎる。
升田は▲同金と払うが、そこで△56歩と戦端を開いて先手のムリ攻めを誘い、大山がそれをしのいで勝ちに。

 

 


 
 これが、相手にプレッシャーをかける。

 なんてことない嫌がらせが、結構バカにならないし、持ち時間をけずれるのも実戦的にでかい。

 ミスを誘うに、一番いいのは精神的な疲弊に追われる状況なのだから、それを呼びこむ「最善手」は

 「ねらいはハッキリしないけど、なんとなくイヤな手」

 島朗九段はかつて、こんなことを言った。

 

 「優勢になると、蚊に刺されても痛く感じる」

 

 あの剛直で「男らしい」棋風である郷田真隆九段ですら、

 

 「勝ちになると、一回王手されるのも嫌」

 

 数々の修羅場をくぐり抜けた、トップ棋士でもそうなのだ。

 ならもう、どうせ不利なんだから、ジワジワせまりましょう。王手も、するだけならタダだ。

 相手が読んでなさそうな方角から弾を飛ばすと、より効果的である。

 それで泥仕合に持ちこめば、もうこっちのもん。

 どんな負けてても、どうせ秒読みの激戦で「正しい手」を指し続けることなんて、ウチらクラスでは(プロでも?)できないのだと、うそぶいていればいいのだ。

 こうやって、実は効いてるかどうか微妙な端攻めや、タレ歩でゴキゲンをうかがって、相手が28秒(58秒)くらいまでギリギリ考えてるのを見ながら、

 

 「おー迷ってる、迷ってる。こら優勢と見てフルえてますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらず、スマホやパソコンの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (ねばりの極意編に続く→こちら

 

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「3級」からが、将棋はより楽しい! ボンクラ上達法 初段まで一歩手前編 その2

2021年09月05日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 将棋は「3級」になると、これまでより、また何倍もおもしろくなる。

 また「初段」ほどハードルが高くなく、私や友人コウノイケ君のような、

 

 「めんどい方法は捨てて、好きな勉強法だけやる」

 

 という、呑気なやり方でも到達できるし、さらにはその後の「ブレイクスルー」の下地にもなるため、この、

 

 「一点突破で、とりあえす3級」

 

 は、かなりオススメである。

 というと、そんな「棋譜並べだけ」とか、「詰将棋だけ」で、ホンマに上達でけるんかいなと、疑問に感じられる方もおられよう。

 しかしこれは、私たちのヘボい経験だけでなく、先崎学九段も、似たようなことを、おっしゃっているのだ。

 先チャンの場合は「囲碁」のはなしだが、『NHK囲碁講座』テキストのコラムで、自身の囲碁上達プロセスを書いておられた。

 それはもう、

 


 「このゲームは形が大事」


 

 

 というところから、手筋集や、石の形に明るくなるを読んで、それで有段者(ここで六段になるのがボンクラと天才の差だ)になったそうな。

 本人曰く、石の生き死になど、理解しないままやってたから、

 


 「筋はいいが、とんでもなく非力な六段」


 

 とのことで、まあ、謙遜もあるのだろうが、やはり棋譜だけで学んだ私も、似たようなところがあるから、言いたいことはわかる。

 要するに、将棋で言えば、

 

 接近戦が苦手」

 「詰みの部分が、あいまい

 

 みたいなもんで、かたよってはいるが、やはり、

 

 「ゴロゴロ寝ながら」

 「ひとつを極める」

 

 というメソッドで、ある程度強くなれることの証明でもあるし、実際、

 


 「アマチュアの方でも、詰将棋や詰碁をやらなくたって、三段くらいはなれる」


 

 など、われわれボンクラが、喜びにむせび泣くようなことも、書かれていた。

 詰将棋(詰碁)をやらなくていい

 なにかこう、「われわれの勝利だ!」と気炎をあげたくなる話ではないか。

 私個人としては、楽してニ、三段になれれば、それ以上のぜいたくは言わないわけで、この「先崎宣言」で大いに満足。

 それどころか、将棋を本格的に楽しむことは「観る将」でも「指す将」でも、3級でいいと思っているわけだから、ますます希望のある話ではないか。

 ただ、中には、せっかく3級や初段になれたなら、

 

 「もっと強くなりたい」

 

 という人も出てくるかもしれない。

 その心意気や良しだが、三段以上の四段五段クラスになるには、私の見たところ、正直これでは限界がある。

 四段以上になると、たとえば私のスタイルだと付け焼刃の「アヤシイ手」など通じないし、終盤のスプリント勝負は、てんで話にならない。

 なにより序盤の駒組で決定的な差をつけられ、仕掛けて数手で中押しとか、まったく将棋にならなかったりする。

 これは「詰め将」コウノイケ君も、大学で実感したそうで、

 


 「得意の、トン死ねらえる局面に行く前に、コールド負け食らうねん。てゆうか、その終盤戦も、みんな全然ボクよりレベルが高い!」


 

 自己流の哀しさである。

 『ヒカルの碁』で、葉瀬中の三谷くんの力戦が、海王中の岸本くんに、まったく通じなかったときのようなものだ。

 

 

 「自己流」の実戦的戦い方で挑む三谷くんですが……。

 

 

地力の差はいかんともしがたく、この余裕っちな態度

 

 

 これは、まさに先チャンの本にも書いてあって、六段で頭打ちになったのを、囲碁のプロ(奥様の穂坂繭三段)に相談すると、

 「詰碁

 一言だけ帰ってきたそうな。
 
 詰将棋好きで、すぐれた詰将棋作家を大リスペクトし、その本の中で、

 

 


 「詰将棋だけをひたすら解いていれば、それだけで県代表クラスになれる」


 

 

 とまで豪語する先チャン(ちなみに羽生善治九段も、これと同じことを昔言っている)だが、なぜか詰碁はお嫌いなようで、

 

 


 「詰碁は苦手でねえ。他にないかな?」

 「詰碁」

 「いや、それは頭が痛くなるし」

 「詰碁」

 「それだけは勘弁してください、お代官様」

 「だから、詰碁だってば!」


 

 

 まさに、取りつく島がないとは、このことである。

 たしかに自己流だと「三段限界説」というのは、自分自身を照らし合わせても、説得力があるところではある。

 私は定跡がおぼえられないし、詰将棋を「鑑賞」するのは好きだが解くのはめんどくさい

 コウノイケ君は詰将棋が得意とはいえ、「詰み」だけに特化しすぎて、終盤戦での「腕力勝負」や心理的な「駆け引き」のようなものに疎い。

 なので戦い方に「厚み」がなく、三段どまりなのだ。

 まあ、そこはまた、そこまで行ってから悩めばいいわけで、私的にはまず「3級」を目指すべし。

 「一点突破」で3級

 プラス「実戦」で初段

 その後もコツコツやってれば、「ブレイクスルー」が起こって(2、3ヶ月から半年くらい)、もしかしたら二段、三段も視野に入るかもしれないが、自分の感覚では将棋って、

 

 「2、3級で、初段を目指しているときが、一番楽しい」

 

 とも思うので、その意味でも、

 「まず3級

 になれる「一点突破」勉強法はオススメなのです。

 

 (実戦の逆転術編に続く→こちら

 

 

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