藤井猛九段の将棋は、なにかとネタにされやすい。
前回は鈴木大介九段による終盤の魔術的勝負術を紹介したが(→こちら)、今回も「振り飛車御三家」つながりで藤井猛九段の話題を。
藤井猛といえば、
「藤井システム」
「藤井矢倉」
「角交換四間飛車」
など、序盤戦術とともに取り上げられるのが終盤のポカ。
「信じられないような芸術的逆転負け」
そう本人も自虐するような、たしかにとんでもないウッカリもあるが、そこがクローズアップされすぎると、ちょっとと感じることもあるものだ。
たしかに「羽生世代」の中では、スプリント勝負を得意としているタイプではないが、それはあくまで、「あのバケモノ集団」とくらべての話。
まあ、ふつうに考えれば終盤が弱い人がA級八段やタイトルホルダーになれるわけもないし、われわれファンもわかっておもしろがっているわけだけど、あらぬ誤解が広がっても、それはそれで困りもの。
論より証拠と、今回は藤井猛九段のいい手を見ていただくことにしたい。
2001年の第14期竜王戦。
「一歩竜王」の防衛劇(それについての詳細は→こちら)に続いて、羽生善治四冠(王位・王座・棋王・王将)を挑戦者にむかえている。
第2局の最終盤、飛車の王手で先手が負けに見える。
▲38になにを合駒しても、△同飛成で詰んでいるからだ。
投了しかないかと思われる局面だが、ここで「次の一手」のようなしのぎがある。
▲48歩が軽妙な一手で、先手玉に詰みはない。
△同飛成に▲17玉で、竜が陰になって△39角成がなくなっている。
なんとも、センスのいい手ではないか。
きれいなワザだが、このあたりでは藤井も読み切りだったのだろう。
数手進んで、この図。
先手玉は一目受けなしで、後手玉はまだ詰まない。
▲22金打、△同角、▲同金、△同玉、▲41成桂に△42歩で、遠く竜が△42の地点を守っているのだ。
この綱渡りの終盤が「羽生マジック」かと思われたが、ここで先手に決め手がある。
▲39銀と打ったのが、実にさわやかな一手。
金を一段目に引きずり降ろして、威力を半減させる手筋だ。
△同竜はタテの利きが消え、上記の手順で△42に合駒できないから詰む。
本譜は△同金で詰めろが解除され、▲53成桂まで藤井勝ち。
美濃囲いの特性を知りつくしたような、華麗な手筋の2連発。
振り飛車党の方には、ぜひ盤に並べて観賞してほしい終盤術だ。
(西山朋佳の剛腕編に続く→こちら)