2日連続で、すごい将棋を観てしまった。
前回は藤井聡太七段と佐々木大地五段による王座戦の激戦を紹介したが(→こちら)、今回はタイトル戦から。
今期の棋聖戦は「現代の最強者対決」と話題を呼んでいた。
棋聖のタイトルを持つ豊島将之は、名人と王位も保持。
一方、挑戦者の渡辺明は棋王と王将の二冠。
つまりこのシリーズは勝った方が「三冠王」。
またこのふたりは昨年度の「最優秀棋士賞」をわずか1票差で争ったという(豊島7、渡辺6で豊島がMVP獲得)因縁もあり、まさに頂上決戦と呼ぶにふさわしい好カードだ。
そんな5番勝負は、第一局から大熱戦となった。
渡辺先手で、力戦気味の相居飛車に。
角を切る強襲がうまくいった感じで、渡辺がやや指せそうに見えたが、どっこいこの将棋はそう簡単に終わらないのである。
後手陣が薄く、まとめにくそうに見えたが、△49銀と打ったのが好手で、まだまだむずかしい将棋。
解説では△49角が検討されていたが、△49角、▲59飛、△48銀よりも、△49銀、▲59飛、△48角のほうが△37角成と桂を取る形になって良いということか。
この将棋は手が広く、中終盤の変化が膨大。
とにかく超難解で、そこに麻薬的なおもしろさがあった。
一手ごとに「おお!」と、うならされまくりで、一時も目が離せないのだ。
善悪はわからないけど、「雰囲気は出ている」という手ということで、たとえばこういうの。
▲34桂を受けて△33金打。
現地で検討していた淡路仁茂九段によると、ここは
「敵の打ちたいところに打て」
で△34桂と打つ手も有力だったようだが、こちらも気持ちの強さを感じる金打ちだ。
簡単には負けないぞ、と。私好みの「根性入った」金である。
少し進んで、こういう手とか。
△86歩、▲同歩に△87歩とたらす。
手筋中の手筋で、駒が入れば△88からバラして、△87にたたいて△75桂。
場合によってはすぐに△76桂とか、とにかく先手玉を「見える形」にするのが寄せ合いのコツ。
その後、この「眉間にナイフ」のプレッシャーをめぐる攻防がくり広げられて、もうハラハラドキドキ。
さらに進んで、こんな手。
メチャクチャに、きわどいタイミングでの利かし。
その前の▲52角もアヤシイ手だが、▲43角成を受けずにここで味をつける。
いいか悪いかは、やはりまったくわからないが、幻惑感はすごい。玄人の勝負術という感じである。
ただし、渡辺二冠だって負けてはいない。
私は関西人なので、どうしても豊島棋聖の手に目が行きがちだが、今絶好調のこの男だって魅せてくれるのだ。
▲35銀のカチコミが強烈。
▲56馬と王手しながら逃げる筋があるから、この局面になれば指す人も多いだろうけど、それにしてもド迫力である。
△同歩に▲25歩とタタいて、△同桂に▲45角。
こめかみにドリルをゴリゴリやって、ついに先手が勝ちかと思いきや、なんと後手玉はギリギリ寄らず、さらなる延長戦へ。
詰みのように見えた豊島の玉が、きわどく詰まず、この局面。
△32角が、これまたなんともドラマチックな合駒。
▲72飛と、△75桂を消しながらの「保険」をかけての寄せに対して、逆王手風味な遠見の角。
これが遠く、▲87にいる玉をねらって油断がならない。
▲33金、△13玉、▲32金とすぐに取られてしまうが、△同金に▲同飛成とできないので(△75桂で詰まされる)、まだ勝負はわからない!
そして、クライマックス。
渡辺二冠のブログによると、端から歩で王様をつり上げた寄せ方がまずかったようで、ここではついに後手が勝ちになっている。
△43角と打ったのが、金銀にヒモをつけながら、先手玉への一気の攻略も見た強烈な波動砲。
こんな大模様に広がる角を打たれては、さすがの渡辺もいかんともしがたい。以下、いくばくもなく投了となった。
いかがであろうか、この大熱戦。
とにかく、この将棋はプロもあきれるほど難解で、なにが正義かまるでわからない。
それでいて、ニコ生聞き手の貞升南女流初段も感嘆するほどに、めっぽう楽しいものだった。
私も長年将棋を観てきたが、これはオールタイムベスト級の、いやさ今まで観戦した中で一番おもしろかった対局かもしれない。
羽生世代や谷川浩司のタイトル戦などで、さんざんすごい勝負は見てきたものだが、まさかここへきて、さらにそれ以上のものが出てくるとは……。
やはり将棋というゲームには、無限の可能性があって、やめられない。
この季節はテニスのフレンチ・オープンとウィンブルドンがあって、そろそろツール・ド・フランスもはじまるというのに、こんなもん見せられて、ますます睡眠時間が心配な今日この頃である。
(大山康晴十五世名人による絶妙の受け編に続く→こちら)