ダン・ガードナー『リスクにあなたは騙される』を読む。
9.11のテロ以降、数年間のデータによると、アメリカでは交通事故による死傷者数が増加した。
その数は9.11の犠牲者の6倍。
それまで飛行機を利用していた人々が、テロを恐れて車移動に切り替えるようになり、その分だけ事故が増えることとなったのだ。
よくいわれることであるが、飛行機というのは頻発する交通事故と比べると、圧倒的にリスクが少ない乗り物である。
本書によれば仮にテロがその後も猛威をふるい、週に1度(!)という頻度でハイジャックを起こしたとしても、1年間毎月1回飛行機を利用する人が死ぬ確率は、わずか13万5000分の1。
一方、交通事故で死ぬ確率は6000分の1。
しかしそれでも、人はほぼゼロに近い確率のテロでの死をおそれ、それよりも20倍も危険な車に乗ろうとする。
こういう、実にイヤなエピソードから幕を開ける本書は、この例のように、人がいかにリスクに対して、的確に対応できないかを列記していく。
人はなにかを判断するとき「データや論理」ではなく圧倒的に「感情」を重視するからで(著者はこれ「頭」と「腹」と呼んでいる)、するとどうしても、先入観や情報操作に惑わされやすくなってしまうからだ。
この状態のことを、著者はこう喝破する
「頭脳は石器時代のままなのに、社会は情報時代をむかえている」。
つまりは現代社会はこれだけ発展し、教育が普及し、理性が重んじられているのにもかかわらず、それを使いこなせていない。
たとえば、これはSF作家の山本弘さんや日本文化史研究家のパオロ・マッツァリーノさんも主張しておられるが、現代の日本は歴史的に見て、かつて無いほどに安全な場所だ。
にもかかわらず、ワイドショーなどのいいかげんなコメントに惑わされて、
「若者は荒れ、治安が悪化している」
「凶悪犯罪が増えている。こんな事件は昔はなかった」
などと、トンチンカンなことを主張したりする。
また、その圧倒的な治安の良さに加えて、現代日本は医療や衛生面でも進歩している。
1900年の世界は、先進国ですら子供の15%から20%が5歳になる前に死んでしまっていたのに(!)、今では0、5%にまでおさえられた。
やはり100年前はせいぜい50歳だった平均寿命が、今では30年近く延びた。
世界史の本を少し読めばわかるが、多くの地域で飢餓は解消されている。天然痘や結核といった死病が撲滅され、ペストやコレラも治療可能。
資金があれば、ポリオやマラリアをもおさえることができる。その意志さえあれば、何万、何十万、下手すると100万単位で人命を救うことすらできるのだ。
それでも多くの人が、
「科学など信用できない」
「現代医療はまちがっている」
「人は原始の自然に還るべきだ」
などと言って、根拠もない疑似科学や詐欺まがいの民間医療に入れあげたりもする。
そういった、よくある錯誤やカン違いに、われわれがいかにおちいりやすいかを本書は取り上げてくれて、これがいちいち勉強になるやら耳が痛いやらで、刺激的なのである。
(続く→こちら)