「ダラダラしながら初段になりたい!」
という、ふざけ……自分の人生に嘘をつきたくない真摯な将棋ファンのため、茫洋と二段になった私が、アドバイスできることはないか。
ということで、私的「楽して上達法」を紹介しているところ(激辛道場編は→こちら 高校で詰将棋マニアとの出会い編は→こちら ネット将棋で大ブレイク編は→こちら)。
前回は、
「ボンヤリと棋譜並べ+ネット将棋」
という、私的有段者への道を紹介してみたが(→こちら)、この経験から言えることは、
「自分が楽しくできる勉強だけで、初段くらいならいけるかも」
よく、初心者向けの「将棋入門」や、プロのアドバイスなど訊くと、
「定跡をおぼえて、得意戦法を作って、簡単な詰将棋を解いて、あとはプロの対局を鑑賞して参考にしつつ、実戦を指しまくればいい」
まさに、ぐうの音も出ない「正解」であるが、われわれボンクラからすれば、
「それができりゃあ、世話ないよ」
そこで私は、自分もやった「一点突破型」をすすめるわけだ。
上記の勉強法のすべては無理でも、楽してというか、さほどストレスなさそうなやりかたを、ひとつだけやる。
「定跡のマスター」だけ。
「得意戦法を磨く」だけ。
「詰将棋」だけ。
「観戦」だけ。
それだけで、まず3級にはなれます。
事実、「棋譜並べだけ」の私と、先日登場いただいた、「詰将棋だけ」の友人コウノイケ君(詰将棋マニアな彼との出会いは→こちら)は、他がスカスカでも、それくらいの棋力はあったと思う。
というと、「3級ねえ……」とテンションの上がらない方は、おられるかもしれないが、なかなかどうして、3級をあなどってはいけない。
というのも、だれかと指したり、また自分自身の経験でもわかるが3級というのは、
「将棋をある程度、玄人っぽく楽しむ」
ということが、可能になってくるラインだからだ。
将棋というゲームは、ルールおぼえたての、10級同士の遊びでも十分おもしろいが、ある程度の棋力が備わると、より「深み」「厚み」が増してくる。
その第一段階が「3級」ではないかと思うのだ。
これくらいになれば、自分で指していても、ちゃんときれいな駒組ができて、「手筋」「格言」通りの手が指せる。
最後の詰みも、ちょっと詰将棋っぽい手が披露できたりすることもあったりして、なんというのか、
「いわゆる、プロとかのっぽい将棋」
を楽しめるようになるのだ。
テニスでいえば、子供用のスポンジボールで遊んでいたのが、曲がりなりにも公式のボールで、ちゃんとしたコートでプレーできるようになる感じ、とでもいうのか。
「公式戦に出て、それなりな試合の形になる」
というくらいが3級のイメージだから、なかなかのもんでしょ?
さらにいえば、観戦していても、そこそこ予想手が当たるようになったり、解説でいう、
「先手優勢ですけど、勝ちやすいのは後手かな」
「ふつうはこうですけど、○○九段ならこうやりそうですね。ほら、当たった」
「AIはこう言ってますけど、人間的には怖くて指せませんねえ」
みたいな、感覚的なものが、なんとなく理解できるようになったりも、3級くらいからではないか。
具体的には、昨年の竜王戦、第3局で、羽生善治九段が豊島将之竜王に、評価値で90%以上の数字をたたき出しながら、そこから敗れてしまった。
それを
「まさかの結末」
「必勝からの大逆転」
「ついに羽生もおとろえた」
みたい記事や、ファンの声が聞かれたりしたわけだが、コアな将棋ファンは、
「あそこで▲94角は、指せないよなー」
ということが、なんとなく理解できてたりするから、
「いやー、あれを負けても、羽生さんのせいじゃないよ」
「むしろ、折れずにヒタヒタと追い上げていった、とよぴーの精神力と勝負術をほめるべきやんね」
てな気になるわけで、そのラインが「3級」くらいなんじゃないかと。
2020年の第33期竜王戦、第3局。
羽生が優勢ながら、豊島もいやらしくねばって、超難解な終盤戦。
ここで羽生が指した▲53銀が敗着で、AI推奨の▲94角とすれば、先手が勝勢に近かったが、これが「詰めろ」だと看破するのは超難解で、現に両対局者とも「後手勝ち」で一致していたそう。
3級くらいになると、「いやー、ここで角は人間にはムリっしょ!」とか、語っちゃえるようになって、通っぽい気分が味わえ楽しい。
また昨年度、王位戦第2局とかも、
「藤井聡太、大逆転勝利」
て書かれてたけど、あれだって、
「評価値は圧倒しても、あそこから勝ち切るのは、実はかなりの難問やねんなー」
「藤井のがんばりもすごかったし、木村王位が足を踏み外しても、決しておかしいことではないよなあ」
とかね。
2020年の第61期王位戦、第2局。
飛ぶ鳥落とす勢いの藤井聡太を、木村一基王位が圧倒。
途中から、ずっと先手勝ちだったが、評価値の数字以上に局面がむずかしかったことと、藤井七段の巧妙なねばりもあって、木村は勝ち切れず。
でも、これをもって「木村がヘボい」とは思わないくらい、この終盤戦の難解さ(と、おもしろさ)を感じれられるのが、3級くらいから。
要するに、「3級」になると、
「ここから将棋が、またさらに、10倍くらい、おもしろくなる」
だからまず、初心者は初段の前に「3級」を目指すべきで、それなら私やコウノイケ君のような
「わがまま一点突破勉強法」
でもクリアできる。
でもって、そこからさらに「初段」を目指したければ、あとは実戦を指しまくればよい(「実戦だけ」で3級になった人は、他の勉強法をチョイ足しすればよい)。
私はそれで二段だし、コウノイケ君も大学で将棋部に入り、実戦に目覚めたら、一瞬で三段になった。
それもこれも「棋譜並べ」「詰将棋」という触媒があったおかげで、一気に花開いたわけだが、2人とも別に「勉強」しようと思って、やっていたわけではない。
ただただ、のほほんと自己流で将棋に接していたら、それが知らぬ間に「下地」になっていただけだ。
肩肘張らなくても、3級なら行けるし、
「将棋をちょっと専門的に楽しむ」
なら、これでも充分。
初段はハードルが高いという人は、まずここを目指してみては、いかがであろうか。
(続く→こちら)