「角不成」のしのぎ 杉本昌隆vs渡辺明 2008年 第67期B級1組順位戦 上野裕和vs前田祐司 2004年 第63期C級2組順位戦

2021年10月15日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 大駒の「不成」には子供のころ感動したものだった。

 将棋において、桂馬香車は「不成で使うのが好手になるケースも多いのは、格言にもなっているところ。

 だがこれが、飛車に関しては、成って損をするところがないのだから、「不成」にする意味はまったくない

 ……と見せかけて、実は飛車や角が不成で好手になることもあり、それが詰将棋の「打ち歩詰め」を回避する手筋。

 将棋は最後に、持駒のを打って詰ますのは反則で、それだけだと意味のよくわからないルールなのだが、幸いにと言っては変だけど、これがあるおかげで、ものすごく奥が深くなったのが詰将棋の世界。

 この筋を回避するため、詰将棋には飛車や角をあえて「不成」で使うという形が出て「おー」と歓声が上がる。

 ここのところ、『将棋無双』(→こちら)や『図巧』(→こちら)など江戸時代の古典詰将棋を紹介してきたが、そこでも頻出し、あざやかなワザの数々には感嘆しかない。

 また、ここに超の上に、もうひとつ超がつくレアケースではあるが、実戦でも大駒の「不成」が出てくる、奇跡的な形というものもある。

 前回は先崎学九段が、若手時代に順位戦でやってしまった大ポカを紹介したが(→こちら)、今回は不成にまつわる絶妙手を。

 

 2008年の、第67期B級1組順位戦

 渡辺明竜王と、杉本昌隆七段の一戦。

 相穴熊の激戦から、むかえたこの場面。

 

 

 

 最終盤、△15香と「最後のお願い」の王手が飛んできたところ。

 これはすでに「形づくり」だが、われわれがただ見ただけでは、先手玉は詰んでいるように見える。

 ▲15同角成の一手に、△16歩▲同馬△同銀成から狭いところにいる杉本玉は、かなり危ない。

 しかし、ここで劇的な応手があったのだ。

 

 

 

 

 ▲15同角不成で詰みはない。

 △16歩打ち歩詰めで打てない。ここで渡辺は投了

 こんな手で敗れて、さぞやくやしいだろうに、ちゃんとここまで進めて投了した渡辺もえらい。

 私はあまり「形づくり」というものにこだわらないタイプで、特に若手棋士なんかは最後まであきらめず、食らいついて行く根性を見せてほしいものだが、こういう場面は例外でしょう。

 なんて、きれいな図。熱戦を戦った二人に拍手、拍手。

 正確には、ここは▲15同角成でも詰みはなかったようですが、まあそれは野暮ということで。

 

 続けて、もうひとつ。

 2004年の第63期C級2組順位戦

 前田祐司八段上野裕和四段の一戦。

 前田の急戦向かい飛車から、激しい玉頭戦に突入。

 

 

 

 

 △95香と走って、前田は勝ちを確信していた。

 ▲同角成の一手に、△96歩、▲同馬、△同銀成、▲同玉、△91飛から先手玉は詰んでいるからだ。

 しかし、ここで前田に読み抜けがあった。

 もう、正解はおわかりですよね。

 

 

 

 

 

 

 ▲95同角不成で、先手玉は助かっている。

 さっきの杉本が見せた▲15同角不成は、渡辺もおそらく知ってての「形づくり」だろうが、こっちは相手が見えてなかったから、純粋な絶妙手として炸裂。

 投了を待っていたはずの前田は、さぞや、おどろいたことだろう。

 以下、上野が逆転で勝ち。深夜のドラマだった。

 

 (実戦で出た「飛不成」編に続く→こちら

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論理の芸術 湯川博士&門脇... | トップ | 火災警報器のボタンを押さな... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。