平山夢明『デルモンテ平山の「ゴミビデオ」大全』を読む。
ホラー作家である平山夢明さんが、『週刊プレイボーイ』に連載していた映画レビューを単行本化したもの。
1980年代、家庭用ビデオデッキの普及とともに、日本中に雨後の筍のごとくあらわれた「レンタルビデオ」店に、わけのわからないまま置かれていたB級にもならないXYZ級のダメ映画を取り上げている。
バンドブームやファミコンブーム、「泣ける映画」乱発にSNSでの発言など、文化的バブルの活気の裏にはかならず、あぶく銭といっちょ咬みで踊りながら消え去った、「ゴミ」な作品が跋扈する。
そこで生まれた、どうしようもないビデオの数々と、「鬼才」平山夢明の腰くだけな文体に、脱力しながらもどこか戦慄すら走るという、まさに現代の奇書と言える内容になっているのだ。
取り上げられる映画のインパクトは、まずタイトルからしてうかがい知れるところがある。
この連載のきっかけとなった、『殺人豚』をはじめ、
『デブコップ』
『吸血バンバンジー』
『殺人パン屋いらっしゃい』
『快楽美女集団 ボイ~ンってやっちゃうよ』
『セックス発電 男女100人絶頂物語』
『死刑執行ウルトラクイズおだぶつTV』
『吸盤男オクトマン』
『安全失禁電撃ボビー!』
『カバチョンパ 殺人カバの恐怖』
『吸血バンバンジー』
『殺人パン屋いらっしゃい』
『快楽美女集団 ボイ~ンってやっちゃうよ』
『セックス発電 男女100人絶頂物語』
『死刑執行ウルトラクイズおだぶつTV』
『吸盤男オクトマン』
『安全失禁電撃ボビー!』
『カバチョンパ 殺人カバの恐怖』
もうタイトルを並べるだけでも、お腹いっぱい。
もちろん、中身も題名以上にスットコで、オクトマンはタコの怪人なのに着ぐるみを濡らしたくないから水に入らないとか、東芝のパルック(ただの蛍光灯)がそのままで「侵略宇宙人の乗るUFO」とか。
メイクする予算がないから、肉屋で買ってきたハラミやタンを貼りつけて「ゾンビ」にしたり。
SMプレイをDVと勘違いして両親を斧で殺した少年が、そのトラウマでジェイソンのような斧殺人鬼になったり。
いじめられっ子がパパの発明品で、股間の「ゴールデンボーイ」を巨大化させたらモテモテになるけど、それをめぐって「高校生秘密結社」と戦うハメになったり……。
ふだんは偉そうな文化人などが「人類は愚かだ」なんて言い出したりするのを、
「自分のことはカウントしてへんのかい! どの立場から言うてるねん。《ハワイは日本人が多くてイヤ》とかいうトホホ日本人と同じやないか!」
なんてつっこんだりすることがあるが、この本を読むと、心の底から素直に、
「そっすねー、マジ超オロかっスねー」
そう同意できる。『赤毛のアン』で有名なルーシー・モード・モンゴメリーの『丘の家のジェーン』という小説で、主人公ジェーンのパパに、
「勇気をもって生きなさい。世界は愛でいっぱいだ」
というセリフがあるんだけど、これには私も、
「勇気をもって生きなさい。世界はホンマ、阿呆ばっかりやからなー!」
そう踊りだしたくなるもの。人生ってすばらしい。
とにかくこの本は、ビデオのどうししようもなさと、デルモンテ平山の投げやりともいえる文章が見事な化学反応を起こし、とてつもなくバカバカしいのが、いっそすがすがしい。
論より証拠と、短いものをひとつ引用してみよう。『バズーカ・ファミリー ヘッド博士はテクニシャン』という映画では(改行・引用者)、
大馬鹿アーパーギャルが太くてデカい男を捜してウロウロウロウロしていると、天の恵みか地獄のさたか、なんとチンポの形の頭を持つエイリアンがあらわれました。
いくらハリー・リームスがデカくても《頭》には負けます。女どもも興奮のあまり失禁したり発狂したりするのですが、エイリアンにとっては、その姿が怖くてしかたありません。
なんとか気の弱いなにも知らないエイリアンをだまして、その頭を使おうとする六本木ぶら下がり的アーパーたちは必死になって
「あなた、ここはお帽子なのよ~ん」
などとコーマン開く馬鹿もいれば、エイリアンの頭がツルリンなのをいいことに、
「あなたこれはヅラの毛よ~ん」
などと毛ダワシをおっかぶせようとしたりします。
しかし好事魔多し。なんと巨大チンポ頭を持つエイリアンはオカマのオナニストだったのです。
逆上したギャルは使えないならいらないとエイリアンを皆殺しにするのでした……ポンポン。
いくらハリー・リームスがデカくても《頭》には負けます。女どもも興奮のあまり失禁したり発狂したりするのですが、エイリアンにとっては、その姿が怖くてしかたありません。
なんとか気の弱いなにも知らないエイリアンをだまして、その頭を使おうとする六本木ぶら下がり的アーパーたちは必死になって
「あなた、ここはお帽子なのよ~ん」
などとコーマン開く馬鹿もいれば、エイリアンの頭がツルリンなのをいいことに、
「あなたこれはヅラの毛よ~ん」
などと毛ダワシをおっかぶせようとしたりします。
しかし好事魔多し。なんと巨大チンポ頭を持つエイリアンはオカマのオナニストだったのです。
逆上したギャルは使えないならいらないとエイリアンを皆殺しにするのでした……ポンポン。
ポンポンって、なんやそれという脱力感だが、そうでもいわないと話がオチないギャランドゥ。
この手のレビュー本は、
「ここまでヒドイと、逆に見たくなる」
というのが定番の感想だが、この本に関しては、
「ここまでヒドイうえに、逆に見たくすらならないところがすごい」
ここで紹介されているビデオは、愛も勇気も冒険もテーマもないトホホ度420%の怪作ばかり。
それを「精読を拒否する文体」で語る平山さんのやり方は見事な「正解」だ。
「2人が出会った奇跡って、あるんやな」
思わずつぶやいてしまいましたとさ、ポンポン。