「さわやか流」の詰み 米長邦雄vs加藤一二三 1987年 A級順位戦

2023年11月25日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 「すごい詰み」を見ると、なんだか得したような気分になれる。

 将棋の終盤戦というのはそれだけでもエキサイティングだが、最後の場面で、

 

 「え? 本当にこれが詰むの?」

 

 といった皆が目をむくような収束を見せられると、その満足度も倍増。

 藤井聡太八冠が人気なのも単に強いだけでなく、そんな「えー!」な寄せ詰みを見せてくれる期待度があるからなのだ。

 そこで今回は、そんな「ホンマに?」な詰み筋を。

 

 1987年A級順位戦

 米長邦雄九段加藤一二三九段の一戦。

 両者らしい、がっぷり四つの矢倉戦になり、後手の加藤が仕掛けたところから米長も反撃をくり出す。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 

 米長が駒得だが、後手の攻めもが跳ねてきて、7筋も素通しで怖い形。

 先手は飛車の位置が中途半端で、一方の後手からは△76桂とか、△77歩△97桂成△75銀など山ほど攻撃手段がある。

 

 「矢倉は先に攻めたほうが有利」

 

 という法則によれば、後手ペースということになりそうだが、ここで米長がいい手を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 ▲58銀と引くのが、落ち着いた受け。

 遊び駒になりかけているを、ジッと引きつけておくのが「大人の手」という感じ。

 後手からは△76桂というのがきびしい攻めだが、それには▲同金と取って、△同飛▲67銀と上がるのがピッタリの好感触。

 

 

 取り残されそうな銀を、さばかせるのはおもしろくないと、加藤は△77歩から入り、▲同桂△同桂成▲同金直

 そこで△85桂と攻めを継続するが、強く▲同銀と食いちぎって、△同歩▲45飛△44歩▲85飛と豪快に転換するのが米長流の力業。

 

 

 まるで振り飛車のさばきのような大駒使いで、一気に視界が開けた印象だ。

 以下、加藤も△96歩から攻撃を続行して、勝負は最終盤へ。

 

 

 図は加藤が△76銀と打って、一手スキをかけたところ。

 これで、先手玉はほぼ受けなし。一方の後手陣はまだ囲いが健在で、一見して先手が負けのようだが、米長はすでに読み切っていた。

 後手玉には、なんと詰みがあるのだ。

 腕自慢の方はチャレンジしてみてください。ポイントはあの駒の利きが絶大で……。

 

 

 

 

 

 

 ▲14桂、△同歩、▲13銀が豪快な寄せ筋。

 △同桂▲21飛と打って、△33玉▲24銀△同歩▲同角まで。

 △同香と取るしかないが、そこで▲33銀(!)と打ちこむのがカッコイイ決め手。

 

 

 「焦点の歩」ならぬ焦点ので、後手は5通りもの応手があるが、すべて詰んでいるのだからすごいものだ。

 △同桂はやはり▲21飛

 △同玉▲25桂△22玉▲13角成と切って、△同桂に▲21飛

 加藤は△同金寄と取ったが、ここは△同金直でも△同角でも同じで、▲13角成があり、ここで投了

 以下、△同玉▲14歩と取りこんで簡単。

 ▲68角の利きがすばらしく、意外なほど後手玉は狭かった

 見事な収束で、まさに「さわやか流」と呼ばれた米長らしい勝ち方であると言えよう。

 

 


 ■おまけ

 (米長の驚異的な終盤力はこちら

 (米長のすばらしい見切り

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

 

 

 


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