「すごい詰み」を見ると、なんだか得したような気分になれる。
将棋の終盤戦というのはそれだけでもエキサイティングだが、最後の場面で、
「え? 本当にこれが詰むの?」
といった皆が目をむくような収束を見せられると、その満足度も倍増。
藤井聡太八冠が人気なのも単に強いだけでなく、そんな「えー!」な寄せや詰みを見せてくれる期待度があるからなのだ。
そこで今回は、そんな「ホンマに?」な詰み筋を。
1987年のA級順位戦。
米長邦雄九段と加藤一二三九段の一戦。
両者らしい、がっぷり四つの矢倉戦になり、後手の加藤が仕掛けたところから米長も反撃をくり出す。
むかえたこの局面。
米長が駒得だが、後手の攻めも桂が跳ねてきて、7筋も素通しで怖い形。
先手は飛車と銀の位置が中途半端で、一方の後手からは△76桂とか、△77歩、△97桂成に△75銀など山ほど攻撃手段がある。
「矢倉は先に攻めたほうが有利」
という法則によれば、後手ペースということになりそうだが、ここで米長がいい手を見せてくれる。
▲58銀と引くのが、落ち着いた受け。
遊び駒になりかけている銀を、ジッと引きつけておくのが「大人の手」という感じ。
後手からは△76桂というのがきびしい攻めだが、それには▲同金と取って、△同飛に▲67銀と上がるのがピッタリの好感触。
取り残されそうな銀を、さばかせるのはおもしろくないと、加藤は△77歩から入り、▲同桂、△同桂成、▲同金直。
そこで△85桂と攻めを継続するが、強く▲同銀と食いちぎって、△同歩、▲45飛、△44歩、▲85飛と豪快に転換するのが米長流の力業。
まるで振り飛車のさばきのような大駒使いで、一気に視界が開けた印象だ。
以下、加藤も△96歩から攻撃を続行して、勝負は最終盤へ。
図は加藤が△76銀と打って、一手スキをかけたところ。
これで、先手玉はほぼ受けなし。一方の後手陣はまだ囲いが健在で、一見して先手が負けのようだが、米長はすでに読み切っていた。
後手玉には、なんと詰みがあるのだ。
腕自慢の方はチャレンジしてみてください。ポイントはあの駒の利きが絶大で……。
▲14桂、△同歩、▲13銀が豪快な寄せ筋。
△同桂は▲21飛と打って、△33玉に▲24銀、△同歩、▲同角まで。
△同香と取るしかないが、そこで▲33銀(!)と打ちこむのがカッコイイ決め手。
「焦点の歩」ならぬ焦点の銀で、後手は5通りもの応手があるが、すべて詰んでいるのだからすごいものだ。
△同桂はやはり▲21飛。
△同玉は▲25桂、△22玉に▲13角成と切って、△同桂に▲21飛。
加藤は△同金寄と取ったが、ここは△同金直でも△同角でも同じで、▲13角成があり、ここで投了。
以下、△同玉に▲14歩と取りこんで簡単。
▲68角の利きがすばらしく、意外なほど後手玉は狭かった。
見事な収束で、まさに「さわやか流」と呼ばれた米長らしい勝ち方であると言えよう。
■おまけ
(米長の驚異的な終盤力はこちら)
(米長のすばらしい見切り)
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