青山南『アメリカ短編小説興亡史』を読む。
前回(→こちら)は、サクサク読めて、アメリカ文学史も学べる本書を激プッシュしたが、今回は私自身が読んでおもしろかったアメリカの小説や、その他の本を紹介したい。
★猿谷要『ニューヨーク』
アメリカの歴史入門といえば、この人の本ははずせない。
日本と密接な関係というか、偽悪的にいえば「宗主国サマ」であるアメリカだが、ヨーロッパと中華編重の学校世界史では、意外と穴になってるのが米国史(今はどうなのかな?)。
それを、読みやすく、また知性的な視点で語れる猿谷先生の著作は、まさに必読。
このほかにも、
『物語アメリカの歴史』
『ハワイ王朝最後の女王』
『アトランタ (世界の都市の物語)』
『北米大陸に生きる』
などなど、猿谷要にハズレなし!
☆柴田元幸『アメリカ文学のレッスン』
ご存じ、人気翻訳家であり、エッセイストとしてもすばらしい仕事をこなす、柴田先生。
現代文学のイメージが強いが、この本ではポーやメルヴィルなど、定番の古典を解説。
金原瑞人さん、岸本佐知子さん、鴻巣友季子さん等、翻訳家というのは文章自体も達者な人が多い。
それはロシア語通訳でもある、米原万理さんの言うように
「外国語で仕事をするのに大事なのは、日本語力」
だからかもしれないが、ある意味作家以上に
「どうすれば、わかりやすく伝わるか」
これに腐心する作業をしているからではないか。
ここでも、「文学」という一見かたくるしそうな材料を、まるで楽しい茶飲み話のように料理する、柴田先生の腕が見事。
フォークナーなんて、全然知識も興味もなかったけど『アブサロム、アブサロム!』が無茶苦茶に読みたくなった。
★デイビッド・ハルバースタム『さらばヤンキース―運命のワールドシリーズ』
1964年の大リーグでは、無敵の覇者であったニューヨーク・ヤンキースが苦戦を強いられていた。
主砲ミッキー・マントルのおとろえや、チームの若返りの失敗。
差別の歴史を乗り越え、新たな戦力となるはずだった、黒人選手へのかたくなな忌避の反応など、さまざまな「経年劣化」が原因だ。
それでも、地べたをはうようにしてリーグを制したヤンキースだったが、ワールドシリーズでもセントルイス・カージナルス相手に勝ちきれない。
もつれたシリーズは、とうとう3勝3敗となり、ついに運命の最終戦に突入するが……。
新しい時代を理解できず、またかたくなに拒否した「古き名門」が、その波に飲まれていく様を、硬派なジャーナリストでもあるハルバースタムが、静かに描いていく。
平家物語ではないが、栄ゆくものもいつかは滅び、そしてその古きものはいつの時代も、かならず同じあやまちと、あがきをくり返す。
題材は野球だが、これはスポーツにかぎらず、人間不変の真理を描いているところが、厚みとなっている。
そう、「古き良き時代」をなつかしむ人は、その時に美化されがちな過去の幻影にしばられ、新しい波の中、その「良き記憶」に復讐される。
それは、いつまでたっても変わらない、人という生物の「業」のようなものなのであろう。