青山南『アメリカ短編小説興亡史』を読む。
前回(→こちら)は、サクサク読めて、アメリカ文学史も学べる本書を激プッシュしたが、今回は私自身が読んで、おもしろかったアメリカの小説や、その他の本を紹介したい。
★スティーブン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』
幻想的な作風が特徴である、ピューリッツァー賞作家の短編集。
流しのナイフ投げ芸人、自動人形や、安い移動遊園地。
などなど、見世物小屋的モチーフが散見されるところから、レイ・ブラッドベリを連想させるが、文体はリリカルなレイより、やや硬質な印象。
妖しげで夜っぽく、それでいてどこか官能的。
ポーやデュ・モーリアなど、ゴシックロマンとか好きな人は、絶対気に入ると思う。
「辺境作家」高野秀行さんも、おススメの一品。
お気に入りは「夜の姉妹団」。
真夜中に、少女たちがこっそり家を抜け出して、秘密の会合を行っている、という噂が町に流れる。
そこではみだらな行為が蔓延している、と大人たちは想像していたのだが、調べてみると実は……。
背徳っぽく、ちょっと百合的な期待もありながら、最後はある種、痛快でもあるという一遍。
★スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』
タイトルの通り、シカゴを舞台にした短編集。
敬愛する柴田元幸さんが、自分の訳書の中で一番のお気に入りだったというのだから、手に取らざるを得ない。
ニール・サイモン『BB三部作』や、マキャモンのような「少年時代」を感じさせ、『右翼手の死』という作品が好きだが、この本の個人的に魅力な点は、個々の物語とともに間奏のように流れる、短編未満のような断章。
ここで私が下手な紹介をするより、手に取って最初の『ファーウェル』を読んでみてほしい。
5ページほどの短いものだが、そのあまりのイメージの美しさに、惹きこまれること間違いなし。
「キエフのパン屋」という散文的な単語が、これほどまでに抒情的に響くとは。
私が作者なら、もうここだけで「勝ったも同然」という気分になることだろう。
☆マイク・ロイコ『男のコラム』
アメリカ文芸といえば、短編ともう一つはずせないのがコラムの魅力。
重厚な文学もいいが、のんびりしたい休日や、ちょっとした待ち時間をつぶしたいときなどには、軽くてシャレたコラムが合う。
日本では、中島らも、東海林さだお、大槻ケンヂ、玉村豊男、米原万理といった面々の雑文を愛読しているが、アメリカ代表といえば、やはりロイコおじさんに尽きる。
シカゴの名物コラムニストだったマイクは、とぼけたユーモアをまぶした、切れ味鋭い舌鋒が売り物の「戦う」コラム。
自分は多額のギャラをもらいながら、スタッフには「金のために働くな」とアジるジェーン・フォンダを皮肉り、杓子定規な公務員にものもうす。
「行き過ぎた」レディーファーストや嫌煙に対抗し、酒飲みとシカゴ・カブスと、ジョン・ウェインの古風な西部劇を愛する。
ケラケラと笑わせながらも、世にはびこる権威の横行や理不尽を、アイロニカルにやっつけてしまう、その腕前の見事さ。
アメリカのコラムといえば、ボブ・グリーンがまず上がることが多いけど、スタイリッシュなだけで、あんまし中身がないよね、ボブって。
私はマイク・ロイコを一押しします。
(続く→こちら)