「ライトノベルの表紙をおじさん向けにしてみよう」という企画がおもしろい。
一時期、本屋さんに行くとよく思ったのが、
「昔読んだ本が、ずいぶんと今風の表紙になってるなあ」。
アニメ化や映画化で、その1シーンが抜粋されているものは昔からあったが、昨今では売れっ子のマンガ家やイラストレーターが、今の読者層や若いファン開拓のため、オリジナルの絵で腕を振るうケースも多い。
私はミステリファンなので、そこから例を挙げてみると、たとえば本格推理の巨匠エラリー・クイーン。
中学生のころからお世話になってるハヤカワ・ミステリ文庫(ハヤカワでは「エラリイ・クイーン」表記)だと、こういうの。
ちょっと抽象画チックなのが味である。「ハヤカワ(&創元)」率が相当高いウチの本棚には、この絵面がおなじみである。
これが今だと、やっぱ地味だよなーということで、角川文庫の表紙がこちら。
クールなエラリー様で、なかなかカッコイイ。
越前敏弥先生の新訳もすばらしく、これなら「読んでみよう(買い直そう)」という気になるではあるまいか。
アニメ調のイラストは、やはりジュブナイル系と相性が良く、ミスヲタ子供読み物の定番といえば、江戸川乱歩先生の『少年探偵団』シリーズ。
これも、自分が小学校の図書館でむさぼり読んだのが、こういうの。
ずいぶん時代がかった「少年読み物」といった絵柄だが、おそらくこれは当時の(1930年代!)「アニメ絵」のようなもので、子供の食いつきもよかったのだろう。
これが、今だとこんな感じ。
今の子が手に取るのは、こっちだなあ。実際、乱歩先生の作品は「怖い」という印象が強いから、それでスルーしちゃう子供もいるというし。
同じく乱歩先生では、『屋根裏の散歩者』がこちら。
「春陽堂書店」版ということで、ミステリ読みにはおなじみ。グレゴリ青山さんをはじめ、レトロ昭和ファンにはたまらん一品。
それが今だと、こうなります。
アニメ『乱歩奇譚』のものだけど、もう同じ内容の本とは思えません(笑)。
てか、「青い鳥文庫」あたりで明智小五郎や小林少年にふれて、「もっと読みたい!」と目をキラキラさせている子供に、春陽堂書店のを見せたら、間違いなく泣くなあ。怖いよ!
こういった変遷に関しては賛否両論で、お笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーさんのように、
「表紙がアニメっぽいのが苦手なんですよ」
という人もいれば、SF作家の山本弘さんのように、
「ハヤカワのSFなどは、以前は挿絵がついているのが普通だった(カズさんはグレッグ・イーガンなど海外SFの大ファン)」。
と反論される人もいて、たしかにジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの大傑作『たったひとつの冴えたやりかた』は川原由美子先生のイラストがイメージにピッタリで、その魅力も三倍増し、いやそれ以上のものになっている。
これに関しては、どこまでいっても好みの問題だけど、私自身は中身は同じなわけだし、それだったらあまりに違和感のあるモノ(まあ、これも結構あるにはあるんですが)以外は、まあいいんでないかと。
で、こういった流れを受けて、イラストレーターの北村ヂンさんが考えたのが冒頭の
「ライトノベルの表紙をおじさん向けにしてみよう」(→こちら)
『涼宮ハルヒ』と『三姉妹探偵団』のコラボとか、いやもう同世代くらいの「元若者」には爆笑必至。
岩波文庫版『エロマンガ先生』なんて、よく思いつくなあ。フランス書院版もいいね! いやあ、おもしろい。
あとやっぱり、SFの世界で最強の「ジャケ買い」といえば、これでしょう。
ジェイムズ・H・シュミッツ『惑星カレスの魔女』。
表紙を描いたのは、もちろんのこと宮崎駿大師匠。これが平積みになってたら、とにもかくにも買うことになってしまう。
中身の方は、「まあ、そこそこおもしろいスペースオペラかな」くらいだから、この表紙による魅力の「かさ増し」感はなかなかのもの。
でも、やっぱり買って損はさせない、すばらしい絵ではないか。積読にするだけでも価値がある。
ちなみに、原書はコレ。
アメリカンだなあ。これまた、同じ作品とは思えませんねえ。