世の中には、フェティシズムというものがある。
女性のうなじがいいという「うなじフェチ」。
靴にリビドーを感じる「靴フェチ」。
マッチョな男性の胸板にときめく「筋肉フェチ」。
こういうものは極めて個人的な嗜好であり、他人に理解されることは少なかったりするが、理解されがたいからこそ、こういう話というのは、おもしろいもので聞いてて、
「そんなん、思いつかへんなあ」
感心することが多いからだ。
たとえばミュージシャンで作家の大槻ケンヂさんは、中島らもさんとの対談でこんなことをおっしゃっていた。
「ボクね、顔面崩壊フェチなんですよ」
顔面崩壊フェチ。
それは一体なんだ、マイケル・ジャクソンのことなのかと問うならば、そうではなく、
「鼻フックとか好きなんですよ」
鼻フック。
よくバラエティー番組の罰ゲームなどで出る、鼻の穴にかぎ爪を突っこんで、後ろから引っぱるというもの。
鼻フックといえば、ダウンタウンの松っちゃんも若いころ、
「鼻フックされてる女の子って、いいよね」
私にはよくわからないが、才能のある人にとって鼻フックというのは、なにかしらの魅力があるプレイなのかもしれない。まこと、フェティシズムの世界は奥が深い。
そういえば、オーケンは「姉さんはフェティシストだった」って歌ってたなあ。
そんなオーケンは、さらなるマニアックな性癖としてあげたのが、
「昆布ふんどしマニア」
昆布ふんどし。
まったくの意味不明だが、文字通りで昆布をふんどしのようにはいて、それでよろこぶというマニア。
すごい嗜好である。
「ふんどしが好き」というのなら、まだなんとなく、わからなくもない気もするが、
「ふんどしが好き! ただし昆布限定」
とは、どんな縛りなのか。
深すぎるぞ、昆布ふんどし。
ヨーロッパなどのアブノーマルな性癖を様々紹介していた、かの澁澤龍彦氏も、ここには目をつけなかったに違いない。
なにやら業が深い話だが、ここでオーケンの濃い話に対抗心を燃やしたのか、らもさんも、
「ボクは、ふんどしパブに行ったことあるで」
ふんどしパブ。
らもさんによると、店にはいると「ドドーン!」と和太鼓の音が鳴って、そこに現れたふんどし姿の女の子が、接待してくれる店らしい。
どんな店やという話だが、らもさんいわく「ええ店やで」とのこと。
ふんどし女子。
そんなにひねらなくても、私は普通に水着とか制服とか、そういうのがかわいいと思うが、マニアの心は複雑怪奇である。
そういえば、これまた松っちゃん情報だが、かつて大阪ではトップレス姿の女性が牛丼を運んでくれる「ちち之屋」という店があって、大阪時代の彼もよく通っていたという。
同じコンセプトのラーメン屋「めん道楽」というのもあったとか。
こういった店に関しては、ライムスター宇多丸さんをはじめ、
「食欲と性欲は共存できるのか?」
みたいな議論になりがちだが、「女体盛」とか、あと「ノーパンしゃぶしゃぶ」とかもそうだけど、こういうのって食がどうとか、性がどうとかよりも、
「こんなくだらないこと、やってるオレってバカやなあ!」
という、そういう遊びではないだろうか。
ある意味「粋」みたいな。まあ、行ったことないけどね。
ふんどしといえば昔、友人コノハナ君に「おもろい店、見つけたんや」と、なぜかわからないが、
「男色専用のレンタルビデオ屋」
に連れていかれたことがあった。
そこでは「ふんどし」と、「だんじり」が大人気であり、
「男が好きな人は、ふんどしが好きなんか、知らんかったなあ」
というとコノハナ君は、
「なんやキミ、そんなことも知らんかったんか。常識やで」
あきれたように、言ったものである。
不肖この私も、仕事で失敗したときなど
「常識がないぞ!」
なんて怒られたりするが、まさかこういう店で常識の無さを注意されるとは思わなかった。
そうか、男色界では「ふんどし」は常識であったか。
まだまだ、私の知らない世界はたくさんあり、まったくもって人生は勉強の連続だ、としかいいようがないのであった。
(続く→こちら)