「なんやこれ! アメリカとブッシュ、マジゆるせねっすよ!」
後輩シヅキ君と我が家で一杯やっていると、彼が突然そんなことを言いだしたのである。
その原因は、たまたまつけていたテレビであった。
当時、9.11への報復で、米軍によるアフガン空爆が行われており、その様子が報道されていたのだ。
仮面ライダーや戦隊シリーズなどヒーロー番組をこよなく愛する熱血漢シキヅ君には、そのような乱暴狼藉が許せるはずもなく憤っている。
私は焼酎を飲みながら、
「アメリカってこういう《野蛮な○○(ナチとかアカとかイスラムとか)をぶんなぐって、民主主義で再教育する!》つーの好きやよなあ。日本も全然他人ごとちゃうけどさあ」。
やっぱそれって、岸田秀先生が分析するところの「インディアン・コンプレックス」のせいなんかね。
なんてボンヤリ見ていたが、正義の男シキヅ君は怒りがおさまらないのか、
「なんで世界では戦争ばっかり起こるんや! 正義はどこにあるんや!」
ひとしきり嘆くのだ。
熱い男である。こういう男がいてくれると、我々もめんどくさ……もとい、日本の未来をまかせられるというものだ。
こういうとき、人の反応はそれぞれで、映画ファンの友人サノ君は戦争と聞くと、いつもニュース番組に釘付けになる。
それはもちろん、正義を愛する心ゆえ……ではなく、戦場の
「特撮映像」
をチェックするためである。
戦車が、爆撃機が、兵士の持つ銃が、彼のマニア心をくすぐるのだ。
以前、友人同士で鍋パーティーをやっていたとき、テレビでユーゴ内戦の映像が流れたことがあった。
そこで皆が鍋の世話を焼く手を止めて、
「なんてひどい……」
「あたしたちにできることって、ないのかな……」
なんて神妙になっているところで、彼一人ワインをパカパカ空けながら、
「いやあ、セルビア軍のT-72戦車、超カッケーよな!」。
なんて盛り上がっていたのには、
「男の中の男や」
大いに感心したものだ。
女子への好感度を気にして、
「でもボクは信じるよ、きっと人類は愚かさを克服できるってね」
などと、大ウソぶっこきまくっていた私など、彼とくらべると、まだまだ修行が足りないと言えよう。
もちろんのこと、シヅキ君にもそのような冗談(?)は通じないだろうから黙っていたけど、止める人もいないとなると、ますますヒートアップ。
熱いねえ、と思わずコタツの設定温度を下げそうになったが、さらに友はやおらテーブルをドンと叩くと、こう叫んだ。
「全世界が平和になる方法、オレ知ってるっすよ!」
はあ?
いきなりスケールのでかい宣言である。
マハトマもビックリの世界平和宣言。そんな方法が簡単に見つかるなら人類も苦労はないというか、なにをいうとるんやこの男は。
こちらの苦笑をよそに、友はさらに
「こんな戦争、オレやったら、すぐに終わらせられます!」
ええええええええ!!!!!
泥沼のアフガン状勢に、突然の終戦宣言。
この戦争を終わらせる。
セリフはムチャクチャかっこいいけどさ。オマエは『幼年期の終り』に出てきたカレルレンかなんかか?
ど……どうやれば、ええんでしょ?
いきなりの展開にちょっと腰が引けた私が尋ねると、彼は焼酎をくいっとあおり、さらなる一撃をぶつけてきたのである。
「それはね、全世界中の人間が『カードキャプターさくら』を見ればいいんですよ!」
(続く【→こちら】)