「いわば【将棋2】ですよ」
深夜のラジオ番組で、そんなことを言ったのは、マヂカルラブリーの野田クリスタルさんであった。
きっかけはM-1優勝後から、各メディアでブイブイ言わしている野田さんが出しているゲームの話題から。
その名も「スーパー野田ゲーPARTY」。通称「野田ゲー」。
M-1優勝の原動力となった「つり革」や、かわいい(?)動物を使った「新・干支レース」など、おもしろそうなゲームが目白押しだが、当ページ的に気になるのは、当然これであろう。
「将棋2」
いわゆる本将棋をベースにしたものだが(正確にはローマ数字の【Ⅱ】表記)、玉がどれかプレーヤーにもわからないわ、駒が200種類もあるわ、場外にも動かせるわと、かなり横紙破りな内容。
さっそく、「これは将棋ではない」論争が起こりそうだが、実際、お二人のやられている「オールナイトニッポン0」でも、
野田「これはすごいぞ。なんたって、将棋の続編だからな」
村上「いや、将棋はドラクエみたいなシリーズものじゃないから」
野田「その名も【将棋2】。【将棋1】を、よりおもしろくしてるから」
村上「え? 野田さんは将棋のことを【将棋1】って呼んでるの? いつか、日本将棋連盟に怒られるよ!」
なんてやりとりがあるわけだが、その通り。
私はこの『将棋2』に、非常なる違和感をおぼえる一人だ。
指摘したいのは、そもそもの『将棋1』というネーミングのこと。
たしかに「将棋2」という響きはおもしろく、氏のワードセンスが光っているが、残念なことに「将棋」自体が、そもそも「1」ではない。
将棋というと、日本古来の伝統文化のようであるが、実はわが国オリジナルの遊戯ではなく、世界にはそれ以外にも、チェスをはじめ、中国将棋の象棋(シャンチー)や朝鮮将棋のチャンギ。
またタイのマークルックなど、様々な形の「将棋」が存在する。
で、実はこれら世界の将棋には、さらなる元ネタというのが存在し、それが将棋の起源とされており、それこそが
「チャトランガ」。
古代インドのボードゲームで、駒を使って盤上で戦うという、まさに「将棋」。
好戦的な王様に戦争をやめさせるため、ある高僧が「代用品」として制作したという説があるが、真偽のほどは不明。
2人制と4人制のルールがあるそうで、ペルシャやアラビアでは、サイコロを使って遊ぶこともあったとか……。
……なんて、こまかいことは増川宏一さん著書の『将棋の起源』(平凡社ライブラリー)などを読んでいただきたいが、ざっくりいえば、
1・インドで生まれたチャトランガが、シルクロードなどを通って、東西に広がった。
2・西へ行ったチームはアラビアやペルシャで「シャトランジ」になり、ヨーロッパでは「チェス」に。
3・一方、東方遠征組は、お約束のように中国に渡って「シャンチー」に。
4・その後、朝鮮半島で「チャンギ」。東南アジアでは「マークルック」などになって遊ばれることに。
5・最後に極東の日本が、それをキャッチし「将棋」になった。
つまり、まとめれば将棋自体が「1」ではなく、さかのぼればインドのチャトランガ自体が
「チャトランガ1」
あるいは、
「初代チャトランガ」
「ファースト・チャトランガ」
「無印チャトランガ」
などなど、呼ばれるべきなのだ。
そこからカウントすれば、西方組は「シャトランジ」が「チャトランガ2 見知らぬ国のトリッパー」。
「知の象徴」とされるチェスは「チャトランガ3 モーフィー時計の午前零時」ということになる。
これでいけば、インドから中国に行って成立した「象棋」も「チャトランガ2 恋姫†無双」。
西と東のどちらが「正統な2か」は議論があるだろうが、ここは東の話にしぼれば日本将棋連盟のホームページによれば、そこから朝鮮半島経由か、あるいは東南アジアから伝えられ「将棋」が生まれた。
どちらにしても、ワンクッションあるということは、「チャンギ」か「マークルック」が「チャトランガ3 漢江の怪物」あるいは「チャトランガ3 ハヌマーンと仏像泥棒」。
そして、日本の将棋は「チャトランガ4 武将風雲録」ということになるわけだ。
以上のようなことを丁寧に見ていけば、野田氏の意見に違和感を感じたことは、容易に想像できるだろう。
将棋をシリーズ化するなら「将棋1」より、やはりここは「チャトランガ4」と呼称すべきなのである。
必然、野田氏の作ったゲームは、その続編だから、「チャトランガ5」。
あるいは「インド将棋5」と、名づけるべきではないか。
このままでは世界中に散らばる「チャトランガ警察」が黙っていないだろう。
「パクリ疑惑」
「インド起源の遊戯を、あたかも自国の伝統文化のよう吹聴する歴史修正主義」
「取った駒を使えるよう勝手に改変するなど、オリジナルにリスペクトがない」
などなど彼らに見つかれば炎上必至であり、野田氏の今後のキャリアにも関わってくるやもしれぬ。
なので、一刻も早く「将棋2」を「チャトランガ5」あるいは「インド」呼称では、また「国名原語主義警察」に捕まるおそれもあるため、
「バーラト将棋5」
と改めることをオススメする。