平松伸二『ブラックエンジェルズ』並みな「ド外道」を探せ! 映画の魅力的な悪役について

2019年12月02日 | 映画
 「この世界に足りないのは、ド外道っスよ!」
 

 近所のモツ焼き屋で、熱くそうぶち上げたのは、後輩であるハナタグチ君であった。
 
 発端はマンガや映画の話からだったが、彼によると、最近はなかなかおもしろい作品に出会えていないという。
 
 なぜならそこには、

 
 「魅力的な悪役

 
 これが足りていないのだと。
 
 そうかなあ。『ダークナイト』のジョーカーとか、『シン・ゴジラ』の破壊シーンなんて評判ええやないの。
 
 なんて問うてみると、ハナタグチ君は

 
 「そういうんちゃうんです。ボクが言うてる悪役は、もっとシンプルで下世話なんです。なんか、偏差値高そうなのはダメなんですよ」

 
 彼によると、
 
 
 「頭脳明晰な殺人者」
 
 「完全なる悪」
 
 
 みたいな、哲学性があるもんとか、
 
 
 「原爆の怨念を背負って」
 
 
 とか、そういうのはアカンと。
 
 「思想
 
 「共感
 
 「情状酌量の余地」
 
 これがあると、ブチ殺してもカタルシスがないと。

 
 「もっと、だれが見ても《こら、殺されてもしゃあないわ》と思わせるヤツじゃないと、ボクは満足できません!」

 
 なるほど。要は感情移入を誘発するような「深み」があったら困るというこっちゃな。
 
 そんなとことん悪いヤツいうたら、平松伸二先生の大名作『ブラックエンジェルズ』に出てくるようなんのこと?
 
 と問うならば、ハナタグチ君は我が意をついに得たりと、

 
 「そう、そうっス! ド外道ッスよ! それが出ない映画とかドラマは、ボク物足りへんのですわ!」

 
 平松伸二『ブラックエンジェルズ』とはどういうマンガなのかといえば、「黒い天使」という暗殺者集団が主人公。
 
 現代の仕置人ともいえる彼らが、法で裁けない悪を次々殺していくという「勧善懲悪」ものだが、その悪の基準というのが、
 
 
 「平松先生が、テレビや雑誌で見て頭にきたヤツら」
 
 
 というのだからステキだ。
 
 『ブラックエンジェルズ』に出てくる悪者は、それはそれはお悪うございます。
 
 第1話からして、前科はあるが更生してがんばっている青年を、再犯させるよう執拗に挑発し、
 
 

 「逮捕ってのはな、犯罪が起きてからするもんじゃねぇ、起こさせてするもんなんだ!」

 
 
 との、とんでもない名セリフを吐き、あまつさえ青年の妹を暴行するだけでなく、ついにキレた彼を

 
 

正当防衛成立だな」


 
 と撃ち殺す悪徳刑事とか。
 
 
 
 
 日本の警察が「優秀」なのは、こういう人が数字をあげているからかもしれません
 
 
 
 
 続く第2話では、面白半分で人を車で轢き殺し使用人になすりつけるだけでなく、その娘を強姦したうえに、真相を話すべく警察にむかう彼女を轢き殺し、最後には黒い天使に殺されそうになるところを、
 
 

 「助けてくれ! 金なら出す! 100万か? 200万か?」

 
 
 との、ステキすぎる命乞いをするドラ息子とか。
 
 
 
 
  
     安西先生の教えを忠実に守るぼっちゃん
 
 
 
 他にも、
 
 
 「アイドルをシャブ漬けにして、心身ともいいようにもてあそんだあげく、自殺に追いこむ芸能事務所

 「面白半分にホームレスリンチして殺し、それを目撃した独居老人をおどしたうえ、年金貯金などもすべて奪い取り、拷問にかけたうえで自殺に追いこむ街のチンピラ

  「執拗な取り立てのみならず、払えなければで何とかしろと若い母親風俗営業店へ売り飛ばし、軟禁状態で仕事をさせた末、その結果放置された子供が死に、母親もその場で自殺したのに高笑いサラ金業者
 
 
 などなど、なにかこう

 
 「人権意識」
 
 「法の精神」
 
 「裁判を受ける権利」

 
 といった、先人たちが多くのを流しながら手に入れた、大切なものの数々を、鼻息プーで放り投げたくなるような、ナイスド外道が盛りだくさん。
 
 この怒りを通りこして、あまりの人非人っぷりに、むしろ笑ってしまう平松ワールドの悪役の数々。
 
 たしかに、ブチ殺したときの爽快感は、絶筆に尽くしがたい。
 
 そういうとハナタグチ君は満足そうに、

 
 「そうでしょう、そうでしょう。ホラー映画でも、まずイチャイチャしてるやつから順に殺されるでしょ。あれっスよ」

 
 いや、それは悪ってほどでもないと思うけど……。
 
 でもまあ、やはりドラマの最後で、力道山怒りの空手チョップでも、葵の紋所の印籠でも、やられ役に、

 
 「でも、この人にも家族が……」
 
 「そんなミランダ警告もなしに……」
 
 「死刑の是非はそう簡単に結論の出せる問題では……」

 
 なんていう情をいだいてしまうと後味が悪い。
 
 その点、「ド外道」のみなさんは、まったくそんな気にならないから安心だ。
 
 まあ、今の日本も汚職したり、強姦したり、書類破棄したり。
 
 あまつさえ人を殺しても、不起訴になったり、ムチャクチャなルール違反しても

 
 「そんな騒ぐようなことではない」

 
 で、すましたりしてるから、ネタには困らなさそう。
 
 クリエイターの皆様にはぜひ魅力的な「ド外道」を作品の中でブチ殺し、後輩のカタルシスに、一役買っていただきたいものだ。
 
 
 (『シカゴ』のロキシー・ハート編に続く→こちら
 
  

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