ヴィットリオ・デ・シーカ監督『ひまわり』は極上のホラー映画だ。
世間には、三度の飯より怖い話が好きな人というのは、たくさんいるものだが、私はそんなに好みではない。
というと、
「ビビリの国のビビリ王子さまですね、お待ちしておりました」
なんて接見されそうだが、そういうことではなく、むしろ逆で、世間的に言われる「怖い映画」にどうも反応が悪いのである。全然ゾゾッとしない。
そんな『リング』も『エクソシスト』も『サイコ』もサッパリな怖い映画冷感症な私だが、中にはいくつか
「こ、こえー……」
腹の底から、心肝寒からしめる映画というのがなくもなくて、そのひとつが『ひまわり』。
というと、おいおいちょっと待て、『ひまわり』といえば、あのヘンリー・マンシーニの音楽が美しい名作ではないか。
戦争が生んだ哀しい愛の物語をホラーとは、頭がイカれているのではないかという意見はあるかもしれないが、名作だろうがなんだろうが、コワイものはコワイのである。
主人公は、マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンという、イタリアを代表する2大スター。
南イタリアのナポリで出会った2人は、美男美女ということで当然のごとく恋に落ち、すぐさま結婚。
だが、2人をひき裂くのは戦争であった。
「ウチらラブラブだから、そんなんで別れたくないよねー」
という人生をナメ……じゃなかった恋の情熱に押されたマルチェロは、策をこらして徴兵を逃れようとするも果たせず、懲罰として対ソ東部戦線に送られることとなる。
常夏のナポリから、厳寒のロシアへ。
それだけでもつらいのに、イタリア軍は冬将軍に飲みこまれて敗走につぐ敗走。
零下40度の白い地獄の中、全滅の危機におちいるのだ。
我らがマストロヤンニも、あわれここで力尽きるのだが、おそらく落ち武者狩りに来たのであろうロシア娘マーシャに運良く見初められて、命だけは助かることになる。
一時は記憶もなく、混乱したマルチェロだが、やがて回復し、ほだされるようにマーシャと結婚。
一女にもめぐまれ、遠きロシアの地で第二の人生を生きることを決意する。
望郷の念はたえがたいが、恩人であるマーシャを見捨てることはできない。
ということで、
「あー、死ぬか思うたけど、人生なんとかなるもんや。ま、生きてるだけで丸もうけやなマンマミーヤ!」
とばかりに、新しい家庭でそれなりに楽しくやっていたところに、ある日帰宅すると、そこにはイタリアに残してきたはずのソフィア・ローレンが。
なんと、彼女はマルチェロを追って、イタリアからソ連まではるばるやってきたのである。
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