イスラエルのスタンプは怖ろしい。
私は旅行好きだが、まだ行ってない国にイスラエルがある。
エルサレムをはじめ、キリスト教、ユダヤ、イスラムという宗教のエッセンスがギュッと詰まったこの国は、やはり旅行好き世界史好きにははずせない一品だ。
だが、イスラエルはなにかと物騒でもある。自爆テロだの空爆だの、ロクなニュースがない。
そんな風雲急を告げる国だが、実はテロより戦争より、さらに怖ろしいものが存在している。
それがなにをかくそう「イスラエルの入国スタンプ」。
外国に行けば、パスポートに入国出国スタンプを押されるのは当然であり、コアな旅行者はその数がコレクションのように増えていくのをよろこんだりもするが、イスラエルのスタンプだけは、ちと毛色がちがうのである。
その理由はズバリ、イスラエルと周辺諸国との不仲。
そう、パスポートにイスラエルのスタンプが押されてあると、シリア、レバノン、イエメンなど近隣のアラブ諸国の多くが入国禁止になってしまうのだ。
くわしいことは歴史の本を読んでほしいが、大英帝国の二枚舌外交や4度の中東戦争などなど、あれこれあった末、今ではユダヤとアラブは犬猿の仲。
特に、イスラエルの軍事力に煮え湯を飲まされ続けてきたアラブ諸国は断然おもしろくなく、ムキになって
「イスラエル行くようなやつ、ワシの国には入れへん!」
もう怒りまくっているわけだ。
だから、イスラエルの入国スタンプは、たくさんの国を経めぐりたいバックパッカーにとって大天敵。
まさに問答無用の「イレズミ」なのである。
まあ、そこはイスラエルの方も空気は読んでいるというか、事情を知っているので、入国の時に、
「ノースタンプ、プリーズ」
といえば、スタンプなしで入国さしてくれることになっていた(ただ入国審査自体はものすごくキビしいらしい)。
アラブ諸国入国拒否は困るけど、記念にスタンプはほしいという人や、管理官が押すことにこだわれば、パスポートに別紙をはりつけて、そこに押してもらうという手もあった。
ただ時折、「ノースタンプ」といっているにもかかわらず、問答無用でドンとスタンプを押されてしまうこともあるのだという。
言葉が通じなかったのか、職員のムシの居所が悪かったのか、それとも基本的にはやはり押したいのか、そこらはわからないが、これは困ったことになる。
エジプトはカイロで出会った旅行者ミナミ君は、映画『アラビアのロレンス』にあこがれて中東旅行に出かけたのだが、最初におとずれた(その選択も間違いっぽい)イスラエルでスタンプを押されてしまった。
見事、そこから一歩も動けなくなった彼は、
「次、もっかいここに来られるの(パスポートの有効期限が切れる)10年後ですよ」
これに関しては裏技というか力業があり、あるジャーナリストが中東諸国を取材すべく現地へ飛んだが、イスラエルで「スタンプ押すな」といったにもかかわらず、強引に押されてしまったそうな。
まずい、これでは他の国には入れず取材ができない!
そこで彼がとった方法は、なんとパスポートをビリビリに破り捨ててトイレに流してしまい、すぐさま日本大使館に走って、まっさらのパスポートを手に入れる。
それを使って堂々、シリアなど他のアラブ国にも入国できたという。
再発行料は1万円くらい。なるほど、そういう手があったかと感心したものだが、よい子はもちろんマネしちゃダメです。
そんな恐怖のスタンプですが、今調べたら、この悪名高き(?)風習は現在は廃止されているとか。
そりゃすばらしい。夢のイスラエル旅行、パスポートで面倒がなければ、あとは航空券を買って現地に飛ぶだけだ。
次の休みの備えて、爆弾や弾をよける、ダッキングの練習をおこたりなくしたいところだ。