男はいつも孤独なヒーロー。
という言葉を残したのは、元阪神タイガースのエース小林繁氏であるが、私が強く孤独を感じるのは旅先の夜である。
海外を旅行していてさみしいのは、とにかく陽が落ちてから。
昼間は観光だメシだ移動だと、なにかとテンションの上がるイベントがあるが、夜はホテルで無聊をかこつこととなる。
これが都市部ならまだ街に出るなり、映画やお芝居を観るなどすることもあるが、そういうものに無縁の小さな町などでは、晩ごはんのあとは安宿の壁のシミでも数えてすごすしかない。
嗚呼、孤独だ。
中でも、もっとも深い孤独を感じたのはチュニジアのナブールという街であった。
まだ春だというのに、その時のチュニジアはずいぶんと暑かった。
「泳ぎたいなあ」
そう思った私は宗教都市ケロアンから、手近にあった海のある街ナブール行きのバスに乗ったのである。
ナブールのビーチは街から歩いて20分ほどの所にある。ガイドブックによると、ビーチのすぐ隣にユースホステルがあるらしいので、そこに泊まることにし、バックパックを背中にホテホテと歩く。
10分ほどたったころ、かすかに潮の香りが。海だ。足を速めると果たして砂浜が広がっていた。
その隣にユースらしき建物。おお、なんという立地条件のよさか。
再びガイドブックによると、そのユースは「リゾートユース」と呼ばれており、
「シーズンは旅行者たちでにぎわい、まるで合宿所のような楽しい雰囲気です」。
大きな体育館の中に、二段ベッドが50個以上ずらりと並べられたもので、たしかに運動部のクラブ合宿を思い起こさせるような建物。
おお、いいではないか、いいではないか。ここで世界各国のバックパッカーたちと仲良くなろうではないか。
中にはきっと、かわいい女の子もたくさん来られることであろう。異国のビーチで血気盛んな若者がすることといえばひとつであり、いやあもうワンダホーであるなあ。
よっしゃ、ここでリゾートライフを満喫するぞ!
という意気込みは、まったく予期せぬ理由により撤回を余儀なくされることとなった。
なぜならば、その「リゾートユース」とやらに宿泊しているのは、私1人だったからである。
1人。阿呆みたいに広い体育館の中、どこをどう見渡しても私1人なのだ。
おいおいと思い、レセプションで宿帳を見せてもらうと、今日どころか、この数ヶ月の予約状況を見てみても宿泊客は私だけ。
そりゃたしかにまだ夏になっていなくて泳ぐには早いけど、まったく仲間がゼロっていうのはどうなんだ。
「1人でビーチ来てもしゃあないがなあ!」そう叫びたくなったが、したところで誰も聞いてくれないのだ。1人だから。
おまけに夕方になると、このお一人様ユースのレセプションにいたおっちゃんが、
「ほんじゃ、ワシ帰るアラー。あとはひとりでなんなり好きにやってくれジャスミン」。
なんと私を置いて家に帰ってしまったのである。これにて本当に、このだだっ広い体育館に取り残されてしまった。
ま、待ってくれ。そもそもこのビーチ、ただでさえ町の中心部から離れたところにあるのだ。
その間あったのは、長い長い道だけ。周囲には家一軒、店のひとつもなかったのである。
つまりは、このビーチのみならず、ここから半径歩いて20分くらいのゾーンには私以外誰もいないことになるではないか。
1人旅とは本質的に孤独なものだが、ここまでさみしい状況になったのは初めてである。ホンマにひとりぼっちやがなあー。
おまけに、レセプションのオヤジはご丁寧にも建物の電源を落として行きやがったようで、電気もつかない。
ひとり相手に電気代もったいないから、はよ寝ろってか。ヒドイ!
夜、たったひとり暗闇の中、でたらめにだだ広い体育館のベッドで眠っていると、その孤独感がヒシヒシと身にしみた。
さみしい、さみしすぎる。これやったらむしろ、独房みたいなせまい部屋の方がマシや。夜の体育館、怖すぎる。
おまけに、浜辺からはやたらと夜風がビュビュウと音を立て、そのロンリネスな気持ちに拍車をかけてくれる。
幽霊でも出そう。異国の街の無人の浜辺で、浜風に震える男、一人。なんの修行や、ホンマに。
そうして陸の孤島と化した無人の体育館の中で寂しさと人恋しさに打ち震えながら、
「合宿所みたいな明るい雰囲気なんて、どこの国のキングマイマイや!」
と漆黒の海に向かって叫んだのであったが、もちろん誰も聞く人はいないのであった。
という言葉を残したのは、元阪神タイガースのエース小林繁氏であるが、私が強く孤独を感じるのは旅先の夜である。
海外を旅行していてさみしいのは、とにかく陽が落ちてから。
昼間は観光だメシだ移動だと、なにかとテンションの上がるイベントがあるが、夜はホテルで無聊をかこつこととなる。
これが都市部ならまだ街に出るなり、映画やお芝居を観るなどすることもあるが、そういうものに無縁の小さな町などでは、晩ごはんのあとは安宿の壁のシミでも数えてすごすしかない。
嗚呼、孤独だ。
中でも、もっとも深い孤独を感じたのはチュニジアのナブールという街であった。
まだ春だというのに、その時のチュニジアはずいぶんと暑かった。
「泳ぎたいなあ」
そう思った私は宗教都市ケロアンから、手近にあった海のある街ナブール行きのバスに乗ったのである。
ナブールのビーチは街から歩いて20分ほどの所にある。ガイドブックによると、ビーチのすぐ隣にユースホステルがあるらしいので、そこに泊まることにし、バックパックを背中にホテホテと歩く。
10分ほどたったころ、かすかに潮の香りが。海だ。足を速めると果たして砂浜が広がっていた。
その隣にユースらしき建物。おお、なんという立地条件のよさか。
再びガイドブックによると、そのユースは「リゾートユース」と呼ばれており、
「シーズンは旅行者たちでにぎわい、まるで合宿所のような楽しい雰囲気です」。
大きな体育館の中に、二段ベッドが50個以上ずらりと並べられたもので、たしかに運動部のクラブ合宿を思い起こさせるような建物。
おお、いいではないか、いいではないか。ここで世界各国のバックパッカーたちと仲良くなろうではないか。
中にはきっと、かわいい女の子もたくさん来られることであろう。異国のビーチで血気盛んな若者がすることといえばひとつであり、いやあもうワンダホーであるなあ。
よっしゃ、ここでリゾートライフを満喫するぞ!
という意気込みは、まったく予期せぬ理由により撤回を余儀なくされることとなった。
なぜならば、その「リゾートユース」とやらに宿泊しているのは、私1人だったからである。
1人。阿呆みたいに広い体育館の中、どこをどう見渡しても私1人なのだ。
おいおいと思い、レセプションで宿帳を見せてもらうと、今日どころか、この数ヶ月の予約状況を見てみても宿泊客は私だけ。
そりゃたしかにまだ夏になっていなくて泳ぐには早いけど、まったく仲間がゼロっていうのはどうなんだ。
「1人でビーチ来てもしゃあないがなあ!」そう叫びたくなったが、したところで誰も聞いてくれないのだ。1人だから。
おまけに夕方になると、このお一人様ユースのレセプションにいたおっちゃんが、
「ほんじゃ、ワシ帰るアラー。あとはひとりでなんなり好きにやってくれジャスミン」。
なんと私を置いて家に帰ってしまったのである。これにて本当に、このだだっ広い体育館に取り残されてしまった。
ま、待ってくれ。そもそもこのビーチ、ただでさえ町の中心部から離れたところにあるのだ。
その間あったのは、長い長い道だけ。周囲には家一軒、店のひとつもなかったのである。
つまりは、このビーチのみならず、ここから半径歩いて20分くらいのゾーンには私以外誰もいないことになるではないか。
1人旅とは本質的に孤独なものだが、ここまでさみしい状況になったのは初めてである。ホンマにひとりぼっちやがなあー。
おまけに、レセプションのオヤジはご丁寧にも建物の電源を落として行きやがったようで、電気もつかない。
ひとり相手に電気代もったいないから、はよ寝ろってか。ヒドイ!
夜、たったひとり暗闇の中、でたらめにだだ広い体育館のベッドで眠っていると、その孤独感がヒシヒシと身にしみた。
さみしい、さみしすぎる。これやったらむしろ、独房みたいなせまい部屋の方がマシや。夜の体育館、怖すぎる。
おまけに、浜辺からはやたらと夜風がビュビュウと音を立て、そのロンリネスな気持ちに拍車をかけてくれる。
幽霊でも出そう。異国の街の無人の浜辺で、浜風に震える男、一人。なんの修行や、ホンマに。
そうして陸の孤島と化した無人の体育館の中で寂しさと人恋しさに打ち震えながら、
「合宿所みたいな明るい雰囲気なんて、どこの国のキングマイマイや!」
と漆黒の海に向かって叫んだのであったが、もちろん誰も聞く人はいないのであった。