「外国の詐欺って、だまされてもわからんもんなん?」
ある日LINEで、そんなことを訊ねてきたのは友人バンダイ君であった。
なんでも彼は、最近「海外旅行のトラブル話」みたいな本を読んだらしく、
「ああいうのってさ、美人局にだまされるとか、睡眠薬飲まされて荷物取られるとか、ニセ警官がワイロ要求とか、よう聞く話やん」
そこで思ったわけだ。
「でも、ああいうのんって、ガイドブックとかにもかならず書いてるもんばっかりやのに、なんでダマされるんやろって不思議でさあ」
たしかに、こういった旅先での被害は、話に聞くと不思議に思う人は多かろう。
バックパッカー専門誌『旅行人』編集長の蔵前仁一さんがリツイートしたのをはじめ、一時期旅行好きの間で話題となった、写真家三井昌志さんによる記事
「コルカタの詐欺師ラージ」
(詳細はこちら→こちら)などを読んでも、
「典型的な詐欺ですやん」
「高額のディポジット取られたところで、気づきそうなもんやけど」
なんて感じてしまうかもしれないが、これに関しては私も頭をかきながら、
「いやそれが、現場におると案外わからんもんですねん」
今から15年以上前のこと、私はイタリアに旅行をした。
滞在地のローマで夜、買い物に出かけたところ、若い白人男性から声をかけられた。
「テルミニ駅はどこですか?」
こちらと同じ旅行者だろうか。外国の街で、暗くなってから道に迷うのは不安だというのわかるので、
「テルミニ駅はこちらである」
案内してあげると白人男性はよろこんで、
「ローマにくわしいんですね。あなたはイタリア人ですか?」
そんなことを言ってから、
「お礼に一杯おごりたい。知り合いがやっているいいバーがあるから、そこで飲みませんか?」
お誘いを受けてしまった。
異国の夜はヒマだし青年はとてもいい人に見えたし、これもまた旅の出会いかということで、すこぶる魅力的な話だったけど、このときは同行者が体調をくずしており心配だったため、申し訳ないがお断りすることにしたのだ。
宿に帰って、同行者に「こんなことがあってさあ」とこの話をすると、
「えー、それって絶対に怪しいって!」
私の買って来たオレンジを食べながら(イタリアのオレンジは安くてメチャウマです)、そんなことを言うのである。
これには私も「いやいや、ふつうの気のいい青年やったよ」と反論するも、
「いや、おかしい。行かんでよかったよ。なんか危ないことあったかも」
たしかに、考えてみれば変なところもある。
青年が道を訊いてきたのはテルミニ駅と目と鼻の先だったし、「イタリア人ですか?」という質問も意味不明だ。
私にそういう感覚はないが、世の中には
「白人と思われる」
ことをよろこぶ人がいるかもしれず(タイやインドでは「色が白い」ことがステータスだったりする)、そう見ればお世辞ともとれるし、そもそもテルミニ駅も見つけられない人が、
「知人のやってるバー」
に誘うというのも、筋が通らない気もする。
でもねえ、このときはそれでも「あやしい」なんてことは毛ほども思わず、
「ふつうに迷子になっただけでしょ」
最後まで言い張ったのであった。
そのカラクリが解けたのは、ローマを出て、他の街へ移動したときだった。
(続く→こちら)