将棋連盟会長アイドル論 コンバットREC的視点による、佐藤康光九段の「天衣無縫」

2021年05月07日 | 将棋・雑談

 佐藤康光はアイドルである。

 と始めてみると、大半の読者は、

 

 「ええ? 佐藤康光はたしかに人気棋士だけど、どっちかってと硬派なイメージじゃね?」

 

 中には、

 

 「日本将棋連盟の会長をつかまえて、そんなチャラチャラしたあつかいとは、永世棋聖をバカにしているのか!」

 

 なんて、おしかりの声を受けるかもしれないが、これがガチアイドルヲタによる定義と照らし合わせると、さほどおかしな声でもないのだ。

 それが、ライムスター宇多丸さんのラジオ番組などでおなじみの、映像コレクターであるコンバットRECさんによる説で、アイドルに大事なのは、

 

 「完璧さの中に見える《ほつれ》」

 

 「ただ」かわいいとか、ダンスがうまい「だけ」では、アイドルの資格の一部をクリアしているに過ぎない。

 そういう、端から見ているとプラスの要素にくわえて、なにか《ほつれ》がないと、真のアイドルではない。

 たとえば、

 

 「メチャクチャかわいいけど、メチャクチャ演技が下手」

 

 とか、

 

 「髪型が変」

 「家族が気ちがい」

 「趣味がマニアックすぎ」

 

 などなどといった、ほつれた部分。わかりやすく言えば

 「つっこみどころ」「スキ

 これこそが、そのキャラクターの仕上げとなるのだという。

 「残念美女

 など、まさにその最たるである。

 そこで前回は、森内俊之九段をアイドルとして語る論を展開したが(→こちら)、ここからもうひとつ、思い当たるところがあるのでは。

 それが、佐藤康光九段

 佐藤康光といえば、将棋の永世棋聖の称号を持ちであり、タイトル獲得は名人棋王など13期を数える。

 棋戦優勝も、NHK杯銀河戦日本シリーズなど12勝。

 いわゆる「羽生世代」の一員であり、日本将棋連盟会長。文句なしで将棋界の第一人者である。

 その佐藤康光九段の、なにがほつれているのかと問うならば、まず将棋が

 独創的が過ぎる駒組とか、ほとんど暴力ともいえる、力強すぎる駒さばきとか。

 

 

 

2009年、森内俊之九段とのNHK杯。

右では銀冠が完成しているのに、なぜか居玉で、なぜか右四間飛車。

▲65の銀も変だし、角まで打ちこまれて、まったくの意味不明だが、おそらく「論理的」なシステム。

以下、▲95角、△62金、▲47飛、△84角成、▲同角、△同歩、▲45歩で激戦。

 

 

2005年、羽生善治四冠との棋聖防衛戦。

図から▲38同飛と取ったのが、佐藤らしい強気の手で、△22玉に▲65銀(!)と桂馬を取る。

△47角の王手飛車が見え見えだが、▲49玉、△38角成、▲同玉、△59飛に、▲35桂と打って一手勝ち。

佐藤流の、なにも恐れない王者の指しまわしで、羽生の挑戦を退けた。

 

 

 しかも、会長のすごいところは、それをちっとも変と思っていないところ。

 それどころか、そこを指摘されると、

 

 「いかに自分の戦術や作戦選択が、論理的帰結により生まれたものか」

 

 これを、論文レベルの内容で専門誌に投稿。

 そのタイトルが、

 

 「我が将棋感覚は可笑しいのか?」

 

 なのだから爆笑……もとい感動的である。

 そういえば、佐藤の盟友である森内俊之九段もよく、

 

 「佐藤さんは、まあ、またちょっと独特ですから」

 

 私は昔から、

 「ヘンな人は論理的である」

 という説を提唱しているが(「論理的」な森下卓九段など→こちら)、まさにその最たるではないか。

 アベマトーナメントのドラフトでも、若手有利とされるルールの中、谷川浩司九段と森内俊之九段を選択。

 見ているこっちとしては、

 

 「さすが会長、盛り上げ方をわかっていらっしゃる」

 

 なんて「空気を読んだ」ことに快哉だが、当の本人は、

 


 「勝つためには、当然の選択でしょ?」

 「なぜみんなが取らないのか不思議で」

 「優勝には、この1択だと思うんですが……」


 

 鼻ピン食らったウサギみたいに、キョトンとしてたから、サービス精神でもなんでもなく、

 「論理的にガチ

 ということなのだろう。

 それでベスト4なんやから、カッコよすぎますわ。

 


 「なんで、フィッシャールールで勝てるの?」


 

 高見泰地七段が頭をかかえたシーンは、第3回大会、名場面のひとつだろう。

 そもそも会長は、今でこそこういうキャラだが、若いころは全然違うというか、むしろ真逆な雰囲気だった。

 育ちがいい、学生服の似合うマジメな優等生

 気骨のあるところこそ、今と共通しているが、将棋も相矢倉を得意とするバリバリの居飛車本格派

 個性派というより、どちらかといえば、

 

 「しっかりしすぎていて、少々おもしろみに欠けるのではないか」

 

 という評価に近かったのだ。

 

 

     デビュー当時のヤング会長

 

 それがなぜ、こうなってしまったのか(←「しまった」とか言うな!)

 答えは

 

 「羽生善治を倒すため」

 

 ライバルに勝つため、過去の自分を脱ぎ去って、自らに改造手術を施す。

 まさに、仮面ライダー島村ジョー

 すべてを捨てて戦う男。昭和のヒーローのようで、シビれるではないか。

 また、RECさんによると、アイドルにもうひとつ大事なのが、

 

 「やらされてる感」

 

 「恋愛禁止」ルールや、お笑い芸人による下ネタなどのムチャ振り。

 長時間の握手会や、労働基準法など無視した過酷スケジュール

 その「プロデューサーを、アイドルを」とする嗜虐志向。

 それもまた、アイドルに必要な要素で、先述の森内俊之九段には、ちょっとそこが足りないのではと苦言を呈したが、会長の場合はそこもクリアしているっぽい。

 そのフィクサーともいえるのが、先崎学九段の存在だ。

 

 (続く→こちら

 

 

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