Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§70「臨床教育学入門」 河合隼雄, 1997.

2017-05-19 | Book Reviews
 "一つの疾患には必ず一つの原因が在るはず、その原因を取り除くことが治療に他ならない"

 約二十五年前、大学一年の教養部の講義で聴いた特定病因論という考え方。

 つまり、問題のある状態に至った原因さえ特定できれば、その原因を取り除くプログラムを準備し、そのプログラムに初期条件と境界条件さえ正確に与えることができるのであれば、問題のある状態は必ず時間経過に伴って克服されるはず。

 疾患の場合、プログラムとは、処方される薬剤。初期条件とは、一回あたり投与される薬剤の量。境界条件とは、投与する頻度や期間といったところでしょうか。とはいえ、こういった科学技術の基本原理とも言える因果性の観点からは問題のあるすべての状態はすべからく克服されるはずなのに、すべての問題が克服されていない現実に如何に臨むべきか?

 人間は進化の過程で環境の変化に対応してきたという認識にたてばこそ、問題のある状態は自らの成長によってのみ克服されるもの。自らが自らに問いかけ続ける事が成長に繋がり、自らが自らに問いかけさせ、問いかけ続けさせるように支援することが教育なのかもしれません。

"自らはどう在りたいか?" "そのためには何をすべきか?"

初稿 2017/05/19
校正 2020/11/14
写真 「ヴェールを持つヴィーナス」
オーギュスト・ルノワール 作
撮影 2016/05/23(大阪・御堂筋彫刻ストリート)