Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§109「反逆(下)」(明智光秀) 遠藤周作, 1989.

2021-02-07 | Book Reviews
 「自分たち人間もすべてあの信長というお方に結びついてる。上さまが…すべてを支配されておられる」

 甲斐・武田家の滅亡によって、もはや天下無敵となった織田信長と共に立ち寄った霊峰・富士の裾野で感じた明智光秀の言葉。

 天下布武、武とは戈(ほこ)を止める意を表し、もともと五畿内を平らかにすることを意味したものの、いつの間にか自らを魔王と称し、天をも畏れぬ振る舞いを犯す信長。

 泰平の世を治める者に訪れるとされる霊獣・麒麟。もはや、光秀は信長の眼前にはその麒麟が顕れぬことを感じたがゆえに決起したのかもしれません。

「天は俺につかなかったが、俺は神を殺したのだ。おのれを神にしようとしたあの信長を殺したのはこの俺だ」

 ひょっとしたら、信長の正室・帰蝶が囁いたように、光秀は自らが創りあげた信長を誰も止めることができぬゆえ、もはや自らの手で始末せざるを得なかったのかもしれず、光秀にとっても信長はもう一人の自分だったのかもしれません。

初稿 2021/02/07
(NHK大河ドラマ「麒麟がくる」最終回)
校正 2022/02/04
写真 西教寺
解説 明智一族の菩提寺・西教寺の山門は光秀の坂本城から移築されたと伝えられています。
撮影 2016/09/25(滋賀・近江坂本)