Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§110「決戦の時」(織田信長) 遠藤周作, 1990.

2021-02-13 | Book Reviews
 「信長は少年時代から母の愛に飢えていた。しかし彼の本当の母は信長よりも弟の信行を溺愛した」

 母に褒めてもらいたいという承認欲求は叶えられず、正室・帰蝶は美濃・斎藤道三の娘ゆえに警戒せざるを得なかった信長が唯一心を許した側室・吉乃に「自らは魔王になるぞ」と吐露するに至ります。

 零落する朝廷の保護を大義名分として、足利将軍を奉じて上洛を果たしたものの、正親町天皇と足利義昭にも褒めてもらえぬ信長はもはや誰にも褒めてもらえないことを悟ったのかもしれません。

 下克上の世に棲む武将や民の深層心理に潜んだ集合的無意識がもたらした元型が麒麟であるかもしれません。ひょっとしたら信長は、その霊獣が泰平の世を治める者に訪れるという神話を自らになぞらえたような気がします。

初稿 2021/02/13
校正 2021/05/02
写真 聖徳記念絵画館前の麒麟
撮影 2011/09/24(東京・神宮外苑)