Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§127「人びとのアジア」 中村尚司, 1994.

2021-09-05 | Book Reviews
 文化人類学という科学者の立場からだけでなく、アジア人花嫁や出稼ぎ労働者の苦境などの社会問題に対して、日本人と同様な権利や保証を公平に享けることができないアジアの人びとに寄り添い、救いの手を差し伸べた記録です。

 18世紀以降の近代化は、国家の枠組みに必要な体系的な規範をニュートン以来の古典物理学という単一の価値観に求めてきたのかもしれません。

「経済学も物理学と同じように、微分可能な数量の関数関係で経済現象を全部記述できれば、完成された姿と考える。その特徴は、観測する者とされる者とが、相互に関係をもたないことである」(p.196)

 ところが、定量的な効率性が求められる経営や経済における諸問題は、その客観的な合理性が解析の範囲内で担保されているに過ぎず、その範囲を超えた諸問題については、自らが当事者として関与していくことの大切さを示唆しています。

「自己のフィールドで、自分の活動の成果を記録し、それが社会的にどういう意味があるのか問い続ける作業である」(p.201)

 定量的な効率性や客観的な合理性を追求するだけでは真の問題解決には繋がらず、当事者として相互の理解と共感がとても大切であり、人文学系統を学ぶ目的が少しだけ垣間見えたような気がします。

初稿 2021/09/05
写真 東京ジャーミイ
撮影 2020/10/10(東京・渋谷)