Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§46「花神」(大村益次郎) 司馬遼太郎, 1976.

2016-02-26 | Book Reviews
 「成せば成る。成さねば成らぬ何事も成せぬと言うは成さざればなり」

 緒方洪庵の適塾の流れを汲む大村益次郎が、鳴滝塾を開いたシーボルトの娘であるイネと出逢い、吉田松陰の松下村塾の流れを汲む桂小五郎が、彼を引き立てるところが何の因果も無いように見えて、それぞれの存在がシンクロして星座の如く時代を変革していく姿の描写は見事。

 幕末期の階級社会の閉塞感と外圧からの危機感とが狂気とも言うべき集団的無意識としての巨大なエネルギーを生成し、攘夷から開国へと大きな転換をもたらしたのかもしれません。

 その大きな転換を果たすうえで大きな役割を担ったのが大村益次郎。彼の志は革新的な技術と普遍的な戦略観が世を変革するということ。

 大村益次郎と名乗る前、頭尾と足を甲羅に隠す亀にあやかり「蔵六」と名乗り、蘭学や医学、兵学を究めた彼が、戊辰戦争の最高指揮官として挑み、近代兵制を確立したことをまさに、枯れ木に花を咲かせたことの暗喩として小説名に「花神」と名付けたことには興味深いものがあります。ちなみに、「花神」とは花咲か爺さんのことだそうです。

初稿 2016/02/26
校正 2020/12/20
写真 御所に咲く桜花の襖絵
撮影 2014/11/02(京都・上京)


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