Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§79「希望の国のエクソダス」 村上龍, 2000.

2017-12-22 | Book Reviews
 英文法になぞらえると、「愛と幻想のファシズム(→§76)」と同じ《仮定法過去》つまり、「もし、~であるのならば、~はず」であり、現在の事実と逆を示唆した在るべき姿なのかもしれません。

 そこで、方程式になぞらえると、境界条件は同じく日本の社会を覆う閉塞感。でも、初期条件が異なる13~15歳の中学生達が導いた解は、敵は存在するが、いじめられる者やいじめる者が存在しない「希望の国」。

 逆説的に言えば、今の日本には外敵を敢えて認識しないかわりに、いじめる者やいじめられる者が存在する社会であることも示唆しているような気がします。

 とは言え一方で、その「希望の国」の将来に一抹の不安を感じてしまうのは、《無意識》に潜む『影』との対峙であったり、性的衝動や死への渇望との葛藤といった、誰もが悩み苦しむプロセスが無いまま、在るべき姿のみを追究する《自我》を実験的に描いているような気がします。

初稿 2017/12/22
校正 2020/10/28
写真 未完成の観覧車
撮影 2016/05/01(大阪・吹田)


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