Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§115「王国への道」(山田長政・ペトロ岐部) 遠藤周作, 1981.

2021-05-14 | Book Reviews
 江戸時代初頭にかけて、海を渡らざるを得ない日本人達がいました。戦乱で主君を失った武士は傭兵となって海外に戦の場を求めて、また禁教令によって国外追放を余儀なくされた信者は救いの地を求めて。

 タイ王国の南部、マレー半島にあるリゴール国王となった山田長政。そして、陸路を約三年かけてエルサレムからローマに渡り神父となったペトロ岐部。

「ただこの二人はたがいに気がつかなかったが一点においてよく似ていた。それは狭い日本にあくせくと生きず、おのれの生き方のために海をこえて新しい世界に突入したことだった。(p.286)」

 ふるさとに戻ることが許されない武士達や信者達の王国を築こうとした山田長政はタイ王国の政変に斃れ、迫害や弾圧に怯える信者に寄り添う為に命賭けでふるさとに戻ったペトロ岐部もまた斃れた。

 ひょっとしたら、自らの心の奥深くに秘めている「影」と向きあうことによって、自らのみならず誰をも救おうとする「自己」が芽生えた時に、その「王国」が垣間見られるような気がします。

初稿 2020/04/06
校正 2021/05/14(投稿履歴修正),2022/02/19
写真 本願寺 伝道院
撮影 2018/06/21(京都・五条)


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