Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§122「真昼の悪魔」 遠藤周作, 1980.

2021-07-10 | Book Reviews
 聖イグナチオ教会で語る神父の言葉。

「悪魔は自分が悪魔だと訴える姿を少しも持っていません」(p.8)

 とある総合病院を舞台に医療現場の影で忍び寄る不可解な事件と理不尽な行為。その犯人を探すなかで浮かび上がる四人の女医をめぐる物語(2017年にテレビドラマ化)。

 医療の進歩に貢献し、多くの患者を救うことは医師として在るべき姿のひとつだと思います。でも、一人の女医は研究中の薬剤を余命幾ばくもなき自らの患者に投与して効果を検証し続けます。

「その巧妙な理屈はその上、人間にたいする善の定義をひそかに覆している。善を質で測ろうとせず、量で測ろうとしている。愛のかわりに効果だけしか考えていなかった」(p.272)

 人は在るべき姿への努力によって自我を形成していくこともあれば、挫折によって自我を喪失することもあります。そんな喪失した自我を再生していく過程で、自らの身の丈を再認識してまわりへの共感と尊重が芽生えたとき、ありのままの自分としての自己に巡り逢うような気がします。
 
 自己無き自我の暴走の果てには、自我は都合のよい解釈を囁くのかもしれません。

「そんなわたくしを……神さまがなぜ罰しないのかしら」(p.296)

 もし、救おうとしない神と罰しない神が存在するのだとしたら、神の沈黙とはありのままの自分と向き合う瞬間なのかもしれません。

初稿 2021/07/10
写真 聖イグナチオ教会
撮影 2021/06/16(東京・四谷)


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