ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

#14 そういえば、Trash Box Jamは、解散していませんよ。

2017-10-21 06:28:04 | Weblog
十四曲目。「裸の王様」(アルバム未収録)。

メルボルンで買った車はオレンジ色、1974年のダットサン・スタンザ。古い車だ。僕が持っているすべてのお金を注ぎ込んで買った相棒である。

メルボルンを出発してから数週間後、ゴールドコーストの国道でスタンザがぶっ壊れた。数百メートル先に見えるガソリンスタンドまで、僕は車を押している。
国道に面したビルから一人、男の人が走り現れて、一緒にスタンザを押してくれた。
ビュンビュンと車が往きかう国道で車を押している僕がオフィスの窓越しに見え、見兼ねて出てきてくれたらしい。

ガソリンスタンドにて。壊れた部品が届くのに三日かかると言われた。
僕は安宿を見つけて仕事を探した。

全財産を注ぎ込んだ上に、その車が壊れたのである。僕に選択肢はない。働くしかない。

ゴールドコーストの繁華街、土産屋が立ち並ぶ目抜き通り。片っ端から飛び込んで、仕事はないかと尋ねた。

イタリア人が経営する土産屋が僕を雇ってくれることになった。僕はラッキーボーイだ。その店は、メルボルンにいた時の皿洗いの仕事の倍の給料を出してくれた。

しばらくして、約束通り、僕は泊まっていた安宿を追い出された。
最初に宿主に言われていた。「一週間しか泊まれないぞ。なぜなら、その先は予約がいっぱいだ」。

しばらくゴールドコーストに住むつもりだった僕は、部屋を探していた。悪徳不動産屋に紹介料をふんだくられたりしたのに、結局部屋は見つけられなかった。

僕はしばらくの間、土産屋の倉庫の床に寝袋を敷かせてもらって眠った。

イタリア人の経営者と一悶着あって、僕は働いた日数分の給料を貰って、ゴールドコーストを後にした。

ケアンズに着いた時には一文無しに近かった。
宿を見つけ、一週間分の家賃は払えたが、次の週には払えなくなった。
宿主に頭を下げて頼んだ。「すぐに仕事を見つけるんで、ちょっと待ってくだせぇお代官様」。

やっと見つけた仕事は、一日で辞めた。金がないのに、一日で辞めた。生きられないとしても、やりたくないことはしたくない。
僕は広くて高い、青すぎる空を見上げながら途方に暮れた。・・・家賃が払えない。

数ヶ月後、僕はケアンズを後にして旅に出る。
スタンザとともに西へ向かった。
アウトバックと呼ばれる何もない灼熱の荒野のど真ん中で、再びスタンザがぶっ壊れた。ひどい話だ。

僕は30分に一台くらいの車しか通らない道で、手を振り続けた。
一台の車が停まった。フランス人の親子。母と息子。
荒野のど真ん中である。進むも戻るも250キロほどの距離がある。
彼らの車に引かれて、僕とスタンザは荒野を東へと戻って行く。
数時間後、250キロ走って最寄りのガソリンスタンドに到着した。フランス人の母が給油をしている。ガソリン代だけでも出させてくれと申し出るが、母は断固として受け取らない。受け取ってくれない。
困った僕は、実家から船便で送ってもらった缶入りの海苔をバッグから取り出して、母に渡した。母は受け取ってくれた。
僕は、海苔の缶の中に50ドルを忍ばせた。せめてもの、ってやつである。

数ヶ月後、西オーストラリア最大の都市、パースを出て東へと向かう。
メルボルンから始まった旅は、北へ向かい、西へ向かい、南へ向かい、最後に東へと向かう。僕の旅の総距離は400000キロである。スタンザとともに地球一周分の距離の旅。オーストラリアは広い。

パースを出て一週間ほど走ったか、世界最長の直線道路だとか言われる何もない礫砂漠のど真ん中。
・・・三たび、スタンザがぶっ壊れて動かなくなった。

僕は、テントの中にこもって、少し泣いた。
「なんでおればっかりこんな目に遭うのんだ?・・・」と、少し泣いた。

ジョンレノンだったら、こんな時はどうすんのかなぁ・・・と想ったりした。
ジョンレノンもこういう時は泣くのかなぁ?と想ったりした。
ジョンレノンはこういう時に泣いたりしない気がするなぁ・・・と想ったりした。

そっか・・・こういう時に、泣いていても仕方がないんだな。と僕は想った。
こういう時に泣いていても何も変わらないもんな。と僕は想った。
泣くのは、やることをやった後にしよう。と僕は想った。
やることをやった後で、どうにもならなかったから、その時に泣こう。と僕は想った。

さぁ、なんだ?やるべきことはなんだ?メソメソしていないで、とりあえずおれがすることはなんだ?よし、スタンザを直そう。スタンザを直せる場所を探そう。

僕はテントを出る。ここは、荒野のど真ん中である。ここには空しかない。

テントから出た僕が目にしたのは、今まで見たことのない、大きな七色の虹だった。見たことのない、綺麗な虹だった。
ちょっとだけ、虹が涙で滲んだ。

よし、スタンザを直して、メルボルンへ帰ろう。

23歳・・・そんな、僕の旅だった。

それではみなさん、裸の王様を聴いてください。


「裸の王様」

くわえ煙草のブルージーンズ ちょっとしゃがれた声で
想い出すのはどれもこれも笑い話ばかり
生きるために必要な術を手に入れたような入れていないような
あやふやさも・・・また笑える話

十五の夜に初めて一人旅に出た
夜行列車に乗り込んで西へ西へ西へと向かった
ポケットの中の切符を強く握りしめていたのは
やっぱり少しだけ不安だったからなのかもしれない

地平線が見渡せるオーストラリアの荒野で車がぶっ壊れた
泣き出しそうだった ちょっと泣いていた 結構泣いていたのかもしれない
神様を恨んだ なんで俺ばかりこんな目に遭うのか?
見上げると 空に虹が架かっていた

永遠の中僕は生きる 永遠の中で僕は死ぬ
この世界は僕のものだ だって僕が目を閉じれば
ほら・・・この世界は消える


アフリカモロッコの砂漠で迷子になった
ただ途方に暮れていた ちょっと泣いていた どうしたらいいのかわからなかった
砂漠の真ん中で一人赤ん坊のように 一人泣いていた それでもなんとかするしかなかったんだ

情熱の国スペインで列車に置いてけぼりにされた
夜が更けて来て 寒くなってきて 震えながら過ごした闇の中で一人
空が白み始め始発の列車が駅に滑り込んで来るまで 僕は街中を走りながら寒さをやり過ごした

永遠の中僕は生きる 永遠の中で僕は死ぬ
この世界は僕だけのものだ だって僕が目を閉じれば
ほら・・・この世界は消える

振り返ってみると上手くいったことよりもいかなかったことの方が多かった気がする
でも考えてみると上手くいかなかったことなんて何一つなかったような気もする
恐いものがないわけじゃないけれど 怖がって何もしないのは嫌だな・・・そんなことを僕は想うようになったんだ

どれくらいの優しさがこの世界に存在しているのか?
どれくらいの憎しみがこの世界に存在しているのか?
どれくらいの狡さと どれくらいの素晴らしさが この世界にあるのかを・・・僕は・・・知りたい

優しい人になりたいと僕は想う
優しくされた分よりももっと優しい人になろうと僕は想う
この世界に渦巻く敵意ってやつに太刀打ち出来るのは
笑顔と優しさ・・・それしかないんじゃないかと想うんだ

永遠の中僕は生きる 永遠の中で僕は死ぬ
僕はこの世界の王様なんだ だって僕が目を閉じれば
ほら・・・この世界は消える

僕はこの世界の王様なんだ
だって僕が目を開ければ ほら・・・この世界が現れる