安宿に泊まっている。宿代は、1000円と少し。
なぜか、地上7階。
安宿が安宿たる所以・・・。
たとえば、それは・・・地上7階なのに、しっかりと窓が開き、少し身がすくむ。
たとえば、窓を開けると、必ず野犬とノラ猫の姿が見える。
たとえば、向かいの建物はゴミ溜めのようになっている。
1000円と少しで、知らない街の夜のパッドを与えてくれるのだから、文句はない。ありようがない。
たとえば、夜の11時頃に宿へと戻る。
暑い一日だった。滝のように汗をかいて一日を過ごした。
シャワーを浴びて、気分を一新したい。
さぁ、シャワーを浴びよう。
服を脱いで、蛇口をひねる。
たとえば、いつまで経っても、いつまで待っても、お湯は出ない。
裸のまま、しばし呆然とする。
そう、それが安宿が安宿たる所以。
たとえば、フロントへ行って、お湯が出ないと文句を言ったところで、お湯が出るわけではない。今はお湯は出ないのだ。フロントマンにお湯を出す能力はない。ソーリーと言われてお終いだ。
1000円と少しで泊まれる場所に泊まる人間は、そのくらいのことは知っていないといけない。こんなことは日常の茶飯。
「文句があるなら、鍵を置いて他へ行きな。ほら、1000円と少しを返すからさっさと出ていきな」
などと言われたら、こちらの方こそ一巻の終わりだ。
わかるかい?それが世の中の仕組みだ。
さて、お湯が出ない。シャワーを浴びずに眠るのは嫌だ。
どうするか?
待つんだね。お湯が出るようになるまで。
必ず、お湯は出る。
何時間でも待てばいい。お湯が出るまで。
安宿が安宿たる所以。
安宿に泊まるヤツが、安宿に泊まり続ける所以。
わかるかい?
安く泊まれるのもいいが、それ以外のことも・・・また一興。