キノコのおじさまと僕と、愛知から来た家族四人と。
小さな高野民芸店は賑やかである。
そこに、また一人お客さんがやって来た。
こんなことがあるのだろうか?
何度も失礼ながら、「このお店にお客は来るのだろうか?・・・来ないだろうな」と、思っていたからである。ごめんなさい、おじさま。
でも、おじさまも言っていた。
「こんなこと、珍しいよ」
そのお客さん。おばさまである。
聞くと、30年ほど前に出版されたアイヌ関連の雑誌を愛読している。愛読しているというか、図書館で借りて愛読している。というか、愛読し過ぎている。
というのは、図書館の貸し出し期間は2週間。2週間経ったら返さなければならない。返す。またすぐに借りる。返す。またすぐに借りる。
よくわからないのだけど、今も、その本を持っている。図書館から借りているその本を持っている。見せてくれた。
その本と同じ本を、高野のおじさまも持っている。
なぜか?
高野のおじさまが載っているのである。30年ほど前の。29年前って言ってたかな?
高野のおじさまが二風谷に来て、12〜3年の頃だと言っていた。
つまり、おばさまは、高野のおじさまの大ファンなのである。憧れの人なのである。
おばさまは、高野さんの顔を見て歓喜した。
僕は事情を聞いて首を傾げた。
おばさまが知っているのは、あくまでも30年前の高野さんの顔である。溌剌とした30代の高野さんの顔である。今の高野さんは、溌剌とはしているけれど、おじさまである。わかんのか?
「わかるわよ!」「ずっと写真を見てきたんだもの」
そして、高野さんの若かりし頃の写真を見せてくれた。
「わかんないでしょ?」と僕が言う。
「わかるわよ!面影があるじゃない!」
「面影・・・あります?」
「あるでしょ!こらっ!
高野のおじさまは、ニコニコと笑いながら、そんなやり取りを眺めている。
そして、おばさまに言う。
「マツタケ、食べて行きなさい」
おばさまは、とんでもございません、そんな高価なものを頂くわけにはいきません、と首を横に振る。
僕は、マツタケをピーっと縦に裂いて、口にパクッと入れて、モグモグしながらおばさまに言う。
「食べて行きなよ。美味しいよ。マツタケ」
するとおばさまは言う。
「あなたは、どうしてそんな風に、オヤツみたいにマツタケをモグモグ食べてるのよ?おかしくない?マツタケってそういうものじゃないでしょ?」
僕はモグモグしながら言う。
「だって、マツタケなんて、ここでしか食べられないんだもん。ほら、食べなよ、これ」
面白いおばさまだった。賑やかなおばさまだった。
数十年の憧れの人に会って、慌ただしく帰って行った。
いやしかし、高野のおじさまの人生の一端である。
様々な人に影響を与える人生の一端である。
高野民芸店。
そこはおもちゃ箱のような、素敵なお店。
何も売っていないように見えて、凄いものがたくさん飛び出てくる。
そこらにある、お土産用の民芸屋とは違うよ。
飛び出てくるのは、どれもホンモノばかり。工芸品もお話も。
僕は楽しくて仕方がない。
マツタケとキビご飯のオニギリをモグモグしながら、僕は楽しくて仕方がない。
高野のおじさま。ご馳走さまでした。
いつも楽しい時間をありがとうございます。
夢の館へ寄ることがあったら、お父さんとお母さんによろしく伝えてください。「ハガキに詩を書くバイクのおにーちゃん」で伝わると思います。
僕の大好きな人と、僕の大好きな人が、会う。
そんなこと、想像するだけで、たまりませんわぁ。