若一神社の楠の社の横にバイクを停めると、神社の中にいたおじさんが柵越しに声をかけてきた。
「やぁ、いらっしゃい。さぁ入って入って」
神社に入る前に、大楠をお詣りしたかったので、柵越しにちょっと立ち話をしてから大楠の社への階段を上る。おじさんはこう教えてくれた。
「この樹は樹齢350年だぞ」
あれ?850年じゃなかったっけな?ん?・・・まぁいいか。
大楠に手を合わせ、階段を降りると、おじさんがこっちこっちと手招きをする。
若一神社。境内の中はこじんまり。敷地も、可愛いと言っていいくらいに狭い。生い茂る樹々の枝葉が日陰を作り、京都の街中のエアポケットといった感じだ。
三十三間堂と西本願寺といった豪壮の代表格を巡った後というのもある。こじんまりとした街中の異空間に・・・ただただ「癒し」の効果を感じてしまう。そよそよそよと、風が吹いている。
境内に入り感慨に耽っていると、おじさんが手招きをする。
「こっちこっち。こっちに入ってみて」
小さな社殿の中の電灯のスイッチをオンにしながら、手招きをする。
社務所の前を通って、おじさんが手招きをする社殿へと歩いて行くと、キリッとした若い宮司さんが現れた。
「ようこそいらっしゃいました」
もしかして、このおじさんが宮司さんかなぁ?と、にわかに思っていたものだから、本物の宮司さんが現れて、ほんの少しホッとした。
御朱印を頂き、若一神社の由来、まつわる話などなど、宮司さんが丁寧に説明してくれる。これがまた、予想以上に見所の多い場所だった。
その話は別の項に譲るとして、ここはおじさんの話だ。
おじさんの手招きで社殿にお詣りをして、宮司さんの案内の後でベンチに座っておじさんと話したり。
「あの樹は樹齢何年くらいなんですかね?」
と、境内のの中に立つ大木を指差して聞いてみる。
「うーん、350年かな?」
出た!また350年。おじさんは一言こう付け加えた。
「うん、おれはよく知らねぇんだよな」
案内役よろしくな体のおじさんが?よく知らない?・・・思わず、あははと笑ってしまう。
その後で、おじさんは「じゃぁ、また来てや」と言いながら、自転車に乗って帰ってしまった。
なんとも、親切でいいおじさんだったのだが・・・おじさんは、この神社のなんなんだろうかという疑問が、胸の中にフツフツと沸き上がる、そんな若一神社・・・なのである。
またあのおじさんに会えるといいなぁ。
ちなみに、若一神社の楠の樹齢は、宮司さん曰く、やはり850年だったよ。