87歳女性。1ヶ月半前から腰椎圧迫骨折で整形外科クリニックに入院していた。そこは、今時珍しく入院ベットを持っている。木曜日の早朝から胸が苦しくなって、頭重感もあった。夕方になって整形外科医の院長が気づいて当院へ紹介してきた。待っていたが、なかなか到着しない。外来の看護師と、救急車で搬送するように連絡しようかと相談していると、クリニックの看護師が付き添ってそこの車で送ってきた。当院に到着したときは時間外になっていた。紹介状には胸痛と頭痛で紹介と記載されていたが、実際の症状は微妙に違う。心電図では虚血性変化は全く認めず、正常洞調律だった。血液検査ではBUPが900と高値で、それ以外は炎症反応も陰性で異常なしだった。胸部X線とCTで心拡大・肺うっ血・胸水を認めた。聴診で心雑音はなかった。両側下腿に浮腫を認めた。血圧は200/105mmHgと著しく高値で、頭重感は高血圧による症状だった。87歳だけあって、難聴で大声で話さなければならず、理解力の問題で何度も聞かないと症状を教えてくれない。よくよく聞いてみると、心不全症状で呼吸が苦しいが正しい表現になる。室内気で酸素飽和度は94%で画像所見の割には低下していなかった。
1年前まで内科クリニック(循環器科医)で高血圧症の治療をしていたが、中断していた。ラシックス20mgとソルダクトン200mgを静注して、ペルジピン1mgを静注すると血圧は140mmHg程度に下がった。当番の循環器科医にすでに帰宅していて、携帯電話に2回かけたが、出なかった。酸素飽和度が極端に低下していないので、内科でそのまま診ることにした。降圧のため、さっそくCa拮抗剤の内服を開始した。翌日の胸部X線で心不全の所見はかなり改善していた。機能の当番だった循環器科医に心エコーを依頼してみてもらった。有意な弁膜症はなく、左心室の肥厚が目立った。ラシックス10mgとソルダクトン200mgの静注をして、翌日からは利尿剤(ダイアート)とARB(ミカルディス)の内服で経過をみることにした。うまくいけば1~2週間で心不全が軽快して退院可能となるかもしれない。ただし腰痛で1ケ月半ベット上にいたので、どこまでリハビリをするかだ。それにしても、ラシックスだけで治療するのは古典的だ。循環器科だとトリプルルーメンの中心静脈カテーテルを挿入して、ハンプなどが使用されると思う。降圧剤も点滴静注で継続されるだろう。内科の治療は、このくらいの重症度だから許される治療というべきか。