80歳男性。痛みで動けなくなって受診して、リウマチ性多発筋痛症と診断された。プレドニン10mg/日で四肢の痛みが改善して、喜んでいた。自分で廊下を歩けるようになったが、四肢の筋強剛があって前傾姿勢で小刻みのパーキンソンの歩行だった。大脳基底核に多発性脳梗塞があり、数ヶ月前からパーキンソン症候群の症状が出ていた。リウマチ性多発筋痛症は1~2週間で症状が完成するので、順番からいうと、パーキンソン症候群の患者さんがリウマチ性多発筋痛症を合併したということになる。筋強剛に対してネオドパストンを開始して経過をみることにした。この組み合わせは初めて経験した。
92歳女性。今年になってから時々胸痛があったそうだが受診はしていなかった。家族が外出から帰ってきて、倒れているのに気づいた。呼びかけても反応がなく、救急要請した。救急隊が到着した時、心肺停止・瞳孔散大・対光反射なしだった(つまり実際はすでに死亡)。体温も低下していた。心肺蘇生術を施行して当院に搬入された。心電図では心静止だった。気管挿管を行って、エピネフリンを投与して心肺蘇生術を継続したが、まったく反応はなかった。家族にお話しして、蘇生術を中止して死亡を確認した。頭部CTで頭蓋内出血はなく、胸腹部CTでだ御動脈解離もなかった。急性心筋梗塞だったと推定された。高齢になるまで身の回りのことが自分でできて、長く苦しむことなく、すうっと亡くなるのは、理想なのかもしれない。昔だったら、救急車を呼ぶこともなく、蘇生術を受けることもなく、近くの医者が自宅に出向いて死亡確認したのだろう。今だと急に心肺停止すれば、心臓マッサージ(胸骨圧迫)をされるので、左右の肋骨が胸骨から外れて胸がベコベコにへこんでしまう。
救急外来に患者がきているかなとコンピュータの画面をみていると、見覚えのある名前があった。45歳男性。8年前からアルコール性の急性膵炎で6回入院している。そのうち4回は私が入院の主治医だった。今朝も急性膵炎で救急搬入されていた。血清アミラーゼは正常域で尿アミラーゼは軽度に上昇していた。だんだん膵酵素が枯渇してきて、膵炎を起こしても上昇しなくなっている。腹部造影CTで膵腫脹と膵周囲の浸出液を認めた。膵頭部から鉤部に石灰化があり、アルコール性慢性石灰化膵炎だ。救急外来当番が外科医で、そのままその先生が主治医で外科病棟に入院になった。確か家庭内暴力で一度離婚していた。前回の入院時には、若い女性と付き合っていて、その女性か付き添ってきていた。アルコール性慢性膵炎の患者さんではよくある風景ということになる。入院時は腹部の激痛を訴えるが、2日くらいですうっと痛みがなくなり、1週間で退院になっていた。今後は、主膵管狭窄をきたして手術の適応になるのか、膵炎は起こさなくなって、その代り膵性糖尿病でインスリン注射をするようになるのか。
81歳男性。肺癌の癌性疼痛と食欲不振・倦怠感で入院していた。医療用麻薬の増量と麻薬補助剤の追加で疼痛は軽減していた。外泊を希望して週末に2泊3日で自宅に帰っていた。今朝高熱で自宅トイレ内で倒れ、(妻と二人暮らしで)妻だけでは動かすこともできず、救急要請した。救急処置室へ搬入され、救急当番医(循環器科医)が対応してくれた。内科外来で再来患者さんを診ていると連絡がきた。胸部X線・CTで肺癌のある左肺の肺炎だった。入院中(外泊前)からあったと推定されるが、外泊時は発熱もなく、患者さん本人も特に悪いとは思っていなかったようだ。早速培養検査提出後に抗菌薬を開始した。いったん退院することを目標に治療していたが、こうなると難しいかもしれない。
90歳女性。心房細動・心不全で内科クリニックに通院していた。右半身不全麻痺に気づいた家族が休日の救急外来に連れて来た。頭部CTで、左側頭葉に出血性脳梗塞を認めた。心房細動からの脳塞栓症と思われた。前後して70歳台男性の脳梗塞の患者さんも受診していた。その日は私が内科系日直で神経内科医(当院は1名のみ)が当直だった。男性の方をお願いして、90歳女性は治療の指示だけもらって私が主治医となった(そっちは勘弁してよと言われた)。急性期の治療はエダラボンの点滴静注を行った。高齢で腰曲がりがひどく(90度以上)、介助で車椅子移動ができれば十分と判断した。嚥下障害で食事がとれないと困ると思っていたが、なんとか食事摂取できた。
内科クリニックでは抗血小板剤のバイアスピリンが処方されていた。しかし心房細動があれば、使用するなら抗凝固剤(ワルファリン)を投与することになっていて、抗凝固療法をしないなら抗血小板剤(バイアスピリン)も使わない。循環器科医と相談して、年齢と出血性脳梗塞だったことを考えると抗凝固療法は行わない方が良いということになった。ちなみに、心エコー(経胸壁だが)では心腔内に血栓はなく、EFは案外良かった。家族が在宅介護は困難というので、施設入所を申し込むことになった。
47歳女性。両親が糖尿病で、自分も健診で高血糖を指摘されていたが、放置していた。4日前から嘔気嘔吐・腹部重苦感・倦怠感が続いて、内科新患外来を受診した。血糖が400でHbA1cは12%だった。外来担当は大学病院から出張(アルバイト)で来ていた若い先生だった。入院治療が必要な患者さんがいますと連絡がきた。血液ガスでアシドーシスはなかった。高血糖が続いていたところに、連日の暑さも加わったと思われる。ヴィーンFの点滴が1000ml入った後、血糖が200台になったのでヒューマリンRの点滴静注にはしないで、ミニスライディングスケールで皮下注とした。翌日血液濃縮は改善して、血糖が200台で推移していたが、嘔気が続いて食事摂取できなかった。、ソルデム3A500mlにヒューマリンRを混合して点滴して、ヴィーンFを側管から入れて脱水症を補正した。夕からは食事がとれるようになった。3日前の今日は食事を全量摂取(肥満があり、1600Kcal/日にした)できた。点滴をやめて、ヒューマリンRのスケールで週明けまでみることにした。月曜日からインスリン強化療法(ノボラピッド+ランタス)に変更して、糖毒性が解除したところで、経口血糖降下剤に移行していく。入院時に提出した血中Cペプチドの値を見て決めよう。
80歳男性。内科医院から、「食べられなくなって、動けなくなっているんですが、熱中症でしょうか」と一昨日紹介された。正確な発症時期が、1週間前からなのか1か月前からなのか、よくわからない。肩の痛みと上肢の痛みがあるという。しゃがませてみると、というかしゃがむこと自体が痛くてひどい。上腕と大腿の把握痛がある。あれだと思って赤沈を含めて血液検査を行った。CRPが19で赤沈が1時間79と炎症反応が高値だった。リウマチ性多発筋痛症だろう。頭痛や顎跛行はなく、側頭動脈に圧痛もなかった。側頭動脈炎の合併はないようだ。その日からプレドニン10mg/日を開始すると翌日には、「良くなりました」といわれた。受診時には体動困難だったのが、自分で歩行できるようになっていた。来週血液検査を再検して炎症反応が下がるのを確認して、外来治療にきりかえることにした。
82歳女性。アルツハイマー型老年認知症で施設に入所していたが、1か月前から飲み込みが悪くなっていて、誤嚥性肺炎を起こして入院した。抗菌薬投与で肺炎自体は治ったが、嚥下障害のため経口摂取はできなかった。家族と相談したところ、経管栄養を希望された。ただ、経口摂取していなくても痰が多く、経管栄養に馴染まない可能性が高いと家族にお話しした。内視鏡的胃瘻増設術(PEG)を行い、栄養剤を少量から開始してみたが、意外にうまくいった。これなら施設に再入所できると思われた。
今日、口から泡状のものを吐き出して、チアノーゼ・冷汗がみられた。酸素飽和度が70%台まで落ち込んだ。吸引できるだけ吸引して酸素をリザーバー付きマスクで10L/分投与して、次第に酸素飽和度が90%台に戻った。早すぎてまだ陰影ははっきりしないだろうと思いながらポータブルの胸部X線検査を行った。右肺と、特に左肺に斑状の陰影が散在していた。2-3日経つと炎症反応のため陰影が広がってくるだろう。病院肺炎用の抗菌薬(ゾシン)を開始した。少し注入しても、すぐに嘔吐したり発熱がみられたりして、経管栄養の見込みはないと思われていたが、予想よりもうまくいっていたので、肺炎を治して、また経管栄養を試みたいが、はたしてどうなるか。家族には肺炎を乗り切れず、悪化する可能性があると伝えた。
一昨日に入院した91歳認知症の女性。2-3日食べられないということで紹介されたが、入院直後から食欲は良好だった。入院日の夕食後に抗精神薬(グラマリール25mg)を出したところ、夜ぐっすりと寝て付き添っていた長男の嫁が感激していた。昨夜は長男が付き添っていたが、病室にいないでラウンジのソファーで寝ていた。病棟看護師が見回ると、患者さんは夜中に起きだして、ゴミ箱に座っていた。病室内で排尿排便していた。ベットに戻そうとしても戻らず、やむなく抗精神薬の注射(セレネース)をして、なんとか朝まで寝てもらった。朝起きると朝食も全部食べて、調子は良かった。家族はもう連れて帰りますと退院を希望したので退院とした。日中は徘徊してもいいから、夜だけでも寝てもらえるように寝る前の抗精神薬を退院時処方として出すことにした。これまで認知症の周辺症状で困りながらも、なんとか家族でみていたが、やはり精神科を受診して、周辺症状の改善をはかる必要がある。数日食べなかったのは、暑さのせい(熱中症)だったと思われる。
内科外来をやっていると、別の内科医院から電話で入院依頼がきた。80歳男性が2-3日食べられず、動けなくなっていて、熱中症と思われますがということだった。以前の検査結果をみると元々かなりの腎機能障害がある。はたして単に点滴して経過をみるだけでよくなるかどうか。