HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

期待より不安が多い博多シティ。

2010-12-02 13:11:43 | Weblog
 12月1日、天神のアクロスで、来春開業するJR新博多駅ビル「博多シティ」のオープニングスタッフ合同説明会が実施された。1週間ほど前から天神周辺では学生援護会が発行する求人情報誌が配られ、アミュプラザなどに入居するテナントの概要が明らかになっていた。

 今回の採用については、総合人材サービスの「インテリジェンス」が一括支援。就業人数は6,000人規模で、常時雇用の店長や店長候補、臨時雇用の販売スタッフなどをアルバイトニュースやDODAといった求人媒体を利用して募集。この第1弾が合同説明会として実施されたのである。
 ファッションテナントでは、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ、ビームスのセレクト3社が勢揃い。他にはトゥモローランド、サザビーのアナイ、ライカのランバン、アニエスbの雑貨業態等々。スポーツライフスタイルブランドのプーマも入る。
 肝心の博多阪急は、11月に20代と50代の女性に照準を当てるフロア構成を発表したものの、このときは具体的な投入ブランドの公表は避けた。博多シティ就業人数の半分のは博多阪急のスタッフというから、ヤング向けブランドはアミュプラザに、井筒屋時代と同様にグリーンレーベル・リラクシングなどのファミリー向けは博多阪急に入る公算が高い。

 ただ、テナントリーシングでは、昨年からパルコやキャナルシティ博多と熾烈を極めていた。その結果、すでに天神で展開しているブランドが入居せざる得ないという結果になった。例えば、UAのビューティ&ユースは熊本にも店舗を構えるが、鹿児島にはない。今回はこうしたブランドやショップが多く入居するため、地方からのお客を博多駅で抑えて金を落とさせる戦略に落ち着いたようだ。福岡の人間からすれば、たいして期待できるテナントは、見当たらないという印象だ。

 今年4月、日本政策投資銀行が新博多駅ビルの売上げを1300億円と試算し、天神地区から300億円ほどの持ち出しがあると発表した。ハフモデル手法にJR京都伊勢丹、JR名古屋高島屋の事例検証を加えて算出したようだが、これは百貨店の売上げが良かった時代のデータによるもので、今は全く状況が違う。
 しかも、テナントは天神にあるものばかりだし、博多阪急にしても梅田本店のような規模ではなく、単なる地方百貨店の域を出ない。なのにどうして売上げ1300億円、持ち出し300億円が可能になるのか、全く理解に苦しむ。銀行のアナリストが九州のファッションマーケットをどこまで分析したかはわからないが、商業施設がオープンする度にあの御仁たちが出す数字は当たったためしがない。
 博多阪急は初年度の売上高目標を370億円と発表した。それにアミュプラザ他を加えても、多く見積もって900億円行けば良いというのが筆者の見解である。景気の回復がさらに遅れると、博多阪急の370億円だって危ういかもしれない。

 博多阪急は売上げ確保の厳しさを予測してか、すでにポイントカード会員の募集をスタートしている。会員獲得目標は20万人というから、お客の囲い込み競争は開業以前に始まっているのだ。ただ、そこは姑息な手段をとる百貨店だけに、問屋やメーカー、各出入り業者にも会員獲得の厳しいノルマが与えられているのは、想像に難くない。
 福岡三越もプレスプレビューのアテンドに出入りの広告代理店や末端の印刷会社まで動員し、それらの企業にカード会員の獲得まで依頼していた。まさか、おせち料理までは売りつけていないだろうが、カード会員の獲得については博多阪急にしてもそう変わらないはず。共存共栄、ギブアンドテイクと言えば聞こえは良いが、所詮、百貨店の業者に対する扱いはその程度のものだ。

 もっとも、博多シティの売上げは、合同説明会に参加してめでたく採用された学生や転職組みが担うことになる。恐らく、説明会には就職率が50%代の大学生が殺到しただろうし、県外からも多くの大学生、専門学校生、高校生などが参加したと思われる。JR鹿児島中央駅にアミュプラザが開業するとき、地元のハローワークに集まった求人数は開所以来の規模だったというが、今回はそれをはるかにしのぐ6000人。ただ、彼らがどこまで売上げ目標を達成できるか。それはかなり厳しいといわざるを得ない。ブランドの顔ぶれを見る限り、わざわざお客を呼べるような、また、数字を上げられるようなコンテンツがないからだ。

 大学生は「とにかく就職したい」の一心で、破れかぶれ式にエントリーしているだろうから、ファッション業界の状況や物販の仕事内容を細かく理解しているわけではない。専門学校生にしても、デザイナーを夢見て服づくりの真似事をやっているものの、アパレルメーカーが簡単に新卒をデザイナーとして採用するはずもない。結果として小売りや販売職に切り替えざるを得ないのだから、本意ではないはずだ。高校生にしても昨今のビジネス環境を深く理解しているとは言い難く、学校も就職という目標達成のみを重視し、仕事内容まで細かく説明できていないだろう。
 全体的に「博多の新しい顔で一生懸命仕事を頑張ろう。ファッションを売って数字を積み重ねよう」なんて意識は低いかもしれない。強いて頑張る層と言えば、服好きの高卒女子。彼女たちがマネジメントと教育次第で大化けするのは、渋谷109の各ショップが実証済みだからだ。

 10年に一度あるかないかのビッグプロジェクトで、求職者のみならずあらゆる業界が熱い視線を投げ掛けている。地元メディアでは博多阪急に好意的な報道が目立つが、これには情報番組や生コマのアカウント狙いという魂胆が透けて見える。
 ファッションビジネスが厳しさを迎えている中で、話題だけは大きな新博多駅ビル博多シティ。もし、売上げが計画通りに達成できなければ、単なるハコものと言われかねず、ひいてはJR九州が目指す「株式上場」も暗礁に乗り上げるかもしれない。
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