HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

MARNI at H&Mは、ウォンツ喚起の起爆剤。

2012-03-11 14:53:58 | Weblog
 コンスエロ・カスティリオーニが1994年にスタートしたマルニ。シャープなカッティングとミニマルなラインながら、素材にはカラフルなプリントも使う。イタリアブランドらしい適度なモード感が大人の女性を惹き付けている。
 H&Mが年2回行なっているデザイナーとのコラボレーション企画。そのマルニ版が3月8日から全国の店舗で発売された。3月10日、キャナルシティ博多店でも売り出されたので、本業を外れファッションジャーナリストとして取材に行ってみた。
 南国九州とは言え、寒波の影響で肌寒い朝の9時半。イーストビルの空中回廊にはすでに300人以上が行列を作る。ダウンジャケットを着て、ベビーカーを押すヤングミセスもいたが、やはりマルニファン、お洒落な大人の女性が目立った。

 3名の警備員と日本本社からやってきたスタッフが来店客を誘導し、入場整理に当たる。2階店舗の入口を入った右手レジ前に専用コーナーが設けられ、開店と同時にお客がどっと押し寄せる。
 3月に入った時点でウィンドウにはブラウスやパンツ、ジャケット、サンダルなどがディスプレイされ、サイトでも商品と価格が公開されていた。海外SPAらしく、プロモーションは怠りない。お客の大半はお目当ての商品の決めていたようで、T字ラックに直行し、すばやく商品を確認をしていく。
 ただ、セールのようなやみくもに商品を手に取り、後で仕分けするような買い物方法ではない。コラボブランドだからと言って、「余分なものまで購入して後で後悔」なんてことにはなりたくないようだ。現物のサイズ感、コットンやシルクといった素材のクオリティ、それらの価値に対する価格バランスを冷静に見極めて、本当に欲しい商品のみを購入していく。流石、買い物慣れした大人の女性たちである。



 シャイニーなジャガード織のブラウスやパンツ、身頃がパテントレザーで袖がニットのジャケット、民族柄をモチーフにしたドレスやホルターネックのブラウス、特大のドットを使ったミニ丈のジャケットやスカート、子供が書いたようなイラストをプリントしたTシャツ、それにメンズのシャツやセーターなど、瞬く間に在庫は減っていく。グリーンの半透明袋には多くて3点ほど。お客はそそくさと店舗を後にする。
 完全売りきりだろうか、商品がフォローされる気配はない。11時半、在庫はほとんど完売した。ユニクロのヒートテックとは違う。この目で確かめたから間違いない。はたして売上げはいくらくらいか。スタッフに「在庫はどれくらい準備されたのですか」をたずねると、「それはお教えできない」との答えだった。
 だから、アイテム数から概算してみる。サイトではレディス62、アクセサリー9、メンズ30の計101アイテム。価格は最高が22,990円、最低が1,990円。仮にウエア在庫が各30点で、平均単価6,000円、アクセサリー在庫が各20点で、同2,500円として計算すれば、売上げは約1700万円になる。安く見積もっても1000万円は下らないだろう。中規模カジュアル店の1月分に相当する額である。

 わずか2時間ほどで、これだけの売上げを叩き出すファーストSPAの威力。他のアパレルや小売りはこうしたイグニションをどう見るか。「単発のイレギュラー企画だからたいして影響はない」、それとも「需要喚起には何らかの施策は必要だろう」。意見はいろいろあると思う。
 もっとも、現在、日本のアパレルマーケットでは、レディスは数年来続くフェミニン&エレガンスのコンサバ一色。メンズとてアメカジがベースのトラディッシュナルなラインばかり。後は崩しのストリート、ギャル、そしてタレント仕掛けくらいしか、流れていない。
 日本のアパレルブランドで、スタイリッシュでミニマルなデザインを提案しているところは皆無だ。筆者は今回、MARNI at H&Mがお客を集めたのは、H&Mの安さでも、 MARNIのブランド力でもないと思う。適度なモード感を好むアダルト層にとっては、コラボ商品がもつテイストが自らの感性にドンピシャで、その値ごろ感に惹き付けられたからだ。これはメンズにも共通するだろう。

 東京・銀座にルミネが進出しようと、福岡・博多に博多シティが開業しようと、昨今の大型商業施設にリーシングされるファッションテナントの顔ぶれはどこも変わらず、デザインもテイストも感度もワンパターンになっている。またエージがヤングに降りると安っぽくなり、立地が郊外に移るとカジュアルになるだけだ。
 モードスタイルを好むアダルト層なんて微々たる市場規模だから、マスマーケット狙いからすれば外されるのかもしれない。しかし、わずか2時間程度の販売機会で、1000万円以上を稼げる潜在需要があることも確かだ。インフレ基調に戻し、売上げを稼ぐには市場の活性化、ウォンツ喚起は不可欠。日本のアパレル関係者にはこうしたニッチ市場に向けた企画開発、小売業者にはそれを売る努力も求められるのである。
 
コメント
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