この春の福岡は昨年のような話題がない。そんな中、地元紙にひっそり載った2つの記事がある。ともに不動産会社が保有する物件の信託受益権を売却した内容だが、業界にとってはSC運営に関わるだけに今後の動向が注目される。
まず、一つは高島屋の不動産会社、東神開発が日本リテールファンド投資法人から、共同運営していたSC博多リバレインの物販ゾーン、「イニミニマニモ」の信託受益権を持ち分50%を買い取ったというもの。これで東神開発はイニミニマニモを完全保有し、福岡におけるSCの本格運営に乗り出すことになる。
ただ、 博多リバレインは計画の段階から二転三転し、1999年の開業以降も軌道に乗ることなく02年には運営会社のエスビーシーが破綻。03年にプロパティマネジメントで再出発したものの、ずっと苦戦が続くいわくのSCである。
東神開発にしても、これまで手がけたのは二子玉川高島屋などの郊外物件か、1000平方メートル以下の中小物件ばかりで、都市型では百貨店が核店舗のタカシマヤタイムズスクエアくらいしかない。
2万5000平方メートル以上の面積を持ちながら、核店舗が入る余地を持たない都市型物件を手がけるのは、今回が初めてである。
博多リバレインの立地は、天神と博多駅を結ぶL字の接点に当たり、それぞれとの距離は1km程度で両地域の商圏に入る。 東神開発はイニミニマニモの完全保有に際し、「テナントを大幅に入れ替えるなどし、集客増を図りたい」と発表した。
しかし、同社が手がけ立地的に似ている大阪・難波のなんばパークスT-terraceは、この3分の1以下の倍規模でテナントのほとんどが福岡に既存店を構えている。九州最大の商業地・天神と日本最大級の駅ビルをもつ博多駅が至近距離の福岡で、都市型SCのテナントリーシングは容易ではない。
一つ期待できるのは、同社がセレクトショップの「ロンハーマン」を二子玉川高島屋に誘致したことだ。同店はステラ・マッカートニーやマーク・ジェイコブスなどのインポートブランド、コラボアイテムや雑貨のラインナップが魅力的で、イニミニマニモに出店すればもちろん九州初上陸。既存テナントのヴィア・バス・ストップに加え、インポートセレクト2店態勢となり、集客にも弾みがつく。
もう一つは、総合デベロッパーの東京建物が、特別目的会社(SPC)福岡リテールホールディングスが持つファッションビル「ヴィオロ」の信託受益権をフロンティア不動産投資法人に売却したというもの。こちらはビル自体は投資法人が所有するが、運営管理は東京建物のグループ会社に継続して委託される。
しかし、SPCが絡んでいるので、少しややこしい。SPCとは開発物件の不動産を証券化することで、幅広い投資家から開発資金を集めるやり方だ。
ただ、SPCでSCを開発する場合、キーになるテナントの売上げが好調に推移することが条件になる。銀座のような都心立地ならSCが閉鎖に追い込まれても、銀座という立地に価値があるので問題はない。しかし、福岡のような地方都市ではキーになるテナントでSC価値が成立している場合が多い。
ヴィオロの場合は「ユナイテッドアローズ」だろう。 従って、そのテナントが撤退でもすれば価値の減耗が大きくなるため、そのようなSCのSPC債券は非常にリスクの高い投資先と言わざるを得ない。
こうしたリスクを考えた上でSPCを導入する場合、債券の価格自体を非常に低く(つまり利回りを高く)する必要がある。これは結果として高額な家賃となって跳ね返り、テナントの収益を圧迫することになる。
つまり、家賃が高ければ、テナントは採算が合わずに撤退するケースが多く、それがSCの価値を下げてしまうという負の連鎖を招く。ヴィオロの場合もこのケースに入ると思われる。
ただ、デベロッパーとしてファッションテナントをインキュベートしたり、売上げ向上を果たせればSCの価値も上がる。東京建物にはその能力がなく、ヴィオロについてもSCとしての価値を上げることができなかった。それが物件の価格低下を招いた一因でもあるのだ。
もっとも、ヴィオロは今年3月のリニューアルで、レディスだけだったシップスを3倍規模に増床し、メンズも取り扱う旗艦店に位置づける。これはユナイテッドアローズに次ぐキーテナントを作らなければ、さらにSCの価値が低下する危機感からである。
行き場のない余剰マネーはより高いリターンを求めて、不動産開発や物件の売買に向かう。しかし、それによってすべてのSCが軌道に乗ったかといえば、決してそんなことはない。特に都市部のファッションビルほど、テナントの顔ぶれやテイストが決まってきており、陳腐化は否めないのである。
デベロッパーはテナントを入れ替え、集客増を図りたいといとも簡単に語るが、インフレに揺り戻すベターブランド、モード感を漂わす品揃えのセレクト、ベーシックSPAに変わる新業態など新顔が登場しない限り、器となる都市型SCの浮上もありえないと思う。
まず、一つは高島屋の不動産会社、東神開発が日本リテールファンド投資法人から、共同運営していたSC博多リバレインの物販ゾーン、「イニミニマニモ」の信託受益権を持ち分50%を買い取ったというもの。これで東神開発はイニミニマニモを完全保有し、福岡におけるSCの本格運営に乗り出すことになる。
ただ、 博多リバレインは計画の段階から二転三転し、1999年の開業以降も軌道に乗ることなく02年には運営会社のエスビーシーが破綻。03年にプロパティマネジメントで再出発したものの、ずっと苦戦が続くいわくのSCである。
東神開発にしても、これまで手がけたのは二子玉川高島屋などの郊外物件か、1000平方メートル以下の中小物件ばかりで、都市型では百貨店が核店舗のタカシマヤタイムズスクエアくらいしかない。
2万5000平方メートル以上の面積を持ちながら、核店舗が入る余地を持たない都市型物件を手がけるのは、今回が初めてである。
博多リバレインの立地は、天神と博多駅を結ぶL字の接点に当たり、それぞれとの距離は1km程度で両地域の商圏に入る。 東神開発はイニミニマニモの完全保有に際し、「テナントを大幅に入れ替えるなどし、集客増を図りたい」と発表した。
しかし、同社が手がけ立地的に似ている大阪・難波のなんばパークスT-terraceは、この3分の1以下の倍規模でテナントのほとんどが福岡に既存店を構えている。九州最大の商業地・天神と日本最大級の駅ビルをもつ博多駅が至近距離の福岡で、都市型SCのテナントリーシングは容易ではない。
一つ期待できるのは、同社がセレクトショップの「ロンハーマン」を二子玉川高島屋に誘致したことだ。同店はステラ・マッカートニーやマーク・ジェイコブスなどのインポートブランド、コラボアイテムや雑貨のラインナップが魅力的で、イニミニマニモに出店すればもちろん九州初上陸。既存テナントのヴィア・バス・ストップに加え、インポートセレクト2店態勢となり、集客にも弾みがつく。
もう一つは、総合デベロッパーの東京建物が、特別目的会社(SPC)福岡リテールホールディングスが持つファッションビル「ヴィオロ」の信託受益権をフロンティア不動産投資法人に売却したというもの。こちらはビル自体は投資法人が所有するが、運営管理は東京建物のグループ会社に継続して委託される。
しかし、SPCが絡んでいるので、少しややこしい。SPCとは開発物件の不動産を証券化することで、幅広い投資家から開発資金を集めるやり方だ。
ただ、SPCでSCを開発する場合、キーになるテナントの売上げが好調に推移することが条件になる。銀座のような都心立地ならSCが閉鎖に追い込まれても、銀座という立地に価値があるので問題はない。しかし、福岡のような地方都市ではキーになるテナントでSC価値が成立している場合が多い。
ヴィオロの場合は「ユナイテッドアローズ」だろう。 従って、そのテナントが撤退でもすれば価値の減耗が大きくなるため、そのようなSCのSPC債券は非常にリスクの高い投資先と言わざるを得ない。
こうしたリスクを考えた上でSPCを導入する場合、債券の価格自体を非常に低く(つまり利回りを高く)する必要がある。これは結果として高額な家賃となって跳ね返り、テナントの収益を圧迫することになる。
つまり、家賃が高ければ、テナントは採算が合わずに撤退するケースが多く、それがSCの価値を下げてしまうという負の連鎖を招く。ヴィオロの場合もこのケースに入ると思われる。
ただ、デベロッパーとしてファッションテナントをインキュベートしたり、売上げ向上を果たせればSCの価値も上がる。東京建物にはその能力がなく、ヴィオロについてもSCとしての価値を上げることができなかった。それが物件の価格低下を招いた一因でもあるのだ。
もっとも、ヴィオロは今年3月のリニューアルで、レディスだけだったシップスを3倍規模に増床し、メンズも取り扱う旗艦店に位置づける。これはユナイテッドアローズに次ぐキーテナントを作らなければ、さらにSCの価値が低下する危機感からである。
行き場のない余剰マネーはより高いリターンを求めて、不動産開発や物件の売買に向かう。しかし、それによってすべてのSCが軌道に乗ったかといえば、決してそんなことはない。特に都市部のファッションビルほど、テナントの顔ぶれやテイストが決まってきており、陳腐化は否めないのである。
デベロッパーはテナントを入れ替え、集客増を図りたいといとも簡単に語るが、インフレに揺り戻すベターブランド、モード感を漂わす品揃えのセレクト、ベーシックSPAに変わる新業態など新顔が登場しない限り、器となる都市型SCの浮上もありえないと思う。