HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アワード女優の定番衣装、ヒロコレッジ。

2012-03-05 10:35:50 | Weblog
 第35回日本アカデミー賞の授賞式をテレビで見た。ハリウッドを模したような企画や演出はあるものの、格式や伝統ではとても比べ物にならず、どこかに気恥ずかしさを覚える。
 筆者は評論家でもなければ、ファンでもないので、どんな映画が賞を受賞しようとさして関心はない。ただ、唯一、注目するはノミネートされた俳優陣の衣装である。特に女優陣が和服姿で登場すると、どんなブランドかついつい確認してしまう。
 残念ながら98年以来の最優秀助演女優には至らなかった麻生久美子も和服だった。着ていたのはたぶん
HIROCOLEDGE(ヒロコレッジ)のOP SHIROだと思う。(正式にはインクジェット染色による正絹の袷仕立て、帯は西陣織の本袋帯との広報より回答)。妊娠中ということで、ドレスでは体型が目立つからだろうが、白地に黒の粋な着こなしは、アワード女優にはない艶を感じさせた。
  HIROCOLEDGEは08年、ヴォーグ日本ウーマンオブザイヤーの授賞式で、宮崎あおいが着ているのを初めて見て、モダンかつ斬新な柄に圧倒された。そのグラフィカルプリントはファッションのみならず、グラフィックにも携わる筆者の目を釘付けしたのである。

  HIROCOLEDGEは、東京藝術大学・同大学院出身の高橋理子がデザインするブランドだ。2005年に仏外務省AFAAに招かれてPARIS CITE INTERNATIONALE DES ARTSに参加し、帰国後の06年にブランドをスタートさせた。現在は東京・御徒町にアトリエ兼ショップを構えて活動している。
 白と黒、円と直線を基調にした「絵羽模様」は、小紋や生活財文、矢がすりなどの柄、絞りや友禅などの染めが主流の和服界では、異彩を放つ。
 ただ、縮みや紬などといった日本伝統の織り方では、あの様な大胆な柄は表現でいない。そこで浴衣や手ぬぐいを染める技法、型染めの「注染(ちゅうせん)」を採用したり、綿麻地にインクジェットで染色する技術でグラフィカルプリントを完成させた。
 日本の伝統技を否定することなく、CGというハイテクを利用してアートとしての着物に踏み込んだと言った方が良いかもしれない。 さすが藝大、仏留学のエリートコースを歩んだだけはある。

 筆者も博多生まれだけに、帯の献上柄や水法被の染め抜きには親しみをもつ。クラシックな文様ながら、デフォルメすればグラフィカルパターンとしても十分通用するからだ。ただ、着物や帯などの和装ファッションはどんどん市場が縮小し、製造に携わる後継者も不足。技術の伝承に黄色信号がともっている。
 先日、西陣織の使用する紋紙のデータがフロッピー保存されているが、読み取り用の機器が生産中止になり、紋彫機で紋紙の穴パターンを彫れなくなるというニュースを見た。システムで革新が進んでいるため、伝統技術が残りづらい環境にあるのだ。
 「伝統は守らなければならない」のかけ声だけでは生き残れないと思う。時代にあったクリエーションが技術とともに生まれてこそ、その時々の人々に愛され、マーケットとしても成り立つのである。そのためには新しい伝統作りへの挑戦が必要になる。
 「和服だから、現代のライフスタイルに合わない」は言い訳に過ぎない。HIROCOLEDGEは日本の伝統技が育んだ衣料に、洋の東西を超える普遍的な服づくりを見いだそうとしているように思う。
コメント
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